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なぜヨーロッパのIT業界は有給完全消化が可能なのか?(3)

Why European IT industry can use all paid holidays?

2017.06.01

Updated by Mayumi Tanimoto on June 1, 2017, 07:09 am JST

前回の記事では、「なぜヨーロッパのIT業界は有給完全消化が可能なのか?」ということで、

1. 必要最小限のことしかやらない

2. 会議が最小限

3. 権限分掌が明確

4. ツールを使いまくる

をご紹介しましたが、今回はその続編。

5. 契約書&SLA以上のことはやらない

これは私の専門であるITガバナンスやサービスレベル管理に思いっり関係あります。日本と他の国の間に挟まって仕事してきたので痛いほどわかるのですが、欧州の場合、契約書とSLAで合意した以外のことは絶対にやってくれません。北米やオセアニアもだいたい同じです。

日本のユーザー企業やユーザー部門は「え、これ大変じゃないからちょっとやってよ」とSLA以上のことを平気でお願いしてきたりしますが、それは通用しません。

決めたことは決めたことなので、それ以上はやりません。

合意以外のことをやって問題が発生したら損害賠償問題になりますので、これはリスク管理の問題でもあります。

お客に契約以上のサービスをしてしまうエンジニアやオペレーターはこっぴどく怒られます。下手したら解雇です。つまり日本の場合は、契約以外のことを勝手にやって、何か起こった場合のリスクや損害賠償、責任問題に対して無関心、無責任というわけです。

これは要件定義やプロジェクトチャーターも同じで、書いて合意した以外のことはやりません。お客やユーザー部門がいくら泣いても「話と違う」で一括されてしまいます。ですから、最初に「要件定義以外のことはやらない」とはっきりと意思表示することも大事です。立場的にできないというのもあるのですが、日本はそれをやらない組織が多いです。

あまりにしつこく要求すると、業者側に契約違反で訴えられることもあります。お客様は神様という意識はないので要注意です。あくまで対等なパートナーです。

6. お客も業者もお互い様気分

これも日本と違うのですが、欧州も北米も、日本とちょっと違って、ユーザー部門やお客側も、あまりにも無理な要求やきついことを言ってこなかったりします。

これは「別にこれ俺の会社じゃないし。職場のことだし。まあできる範囲でいいよ」というのもあると思うのですが、転職が当たり前で(ただしフランスや欧州大陸の一部は除きますが)、自分がお客側で働いたり、どこかに知り合いがいる可能性が高かったりするので、あまりにも嫌なヤツという印象を与えてしまうと、あとで痛い目に会うことがあるからです。

雇用が流動的なので、人は狭い業界内を回転木馬のようにグルグル周ります。どこで誰に会うかわかりません。たとえ相手が業者や下請け、情シスであっても、常に外交官的に、人当たり良く振る舞ったほうが得です。

7. 休暇中心にスケジュールを組む

基本的にほとんどの人は仕事が嫌いです。これは日本も同じなんですけども、宝くじが当たったら即やめたいと思っている。だから、仕事やるにも休暇をとることを前提としてスケジュール組みます。

年度の初めの最も重要な活動がこれで、1月にイースターやら夏の休暇の予定を決めたりします。

つまりクリスマス直後ということです。

幹部や管理職が先陣切ってやりますが、これは、休暇調整が管理職(マネージメント)の重要業務で、要員やスケジュール調整できない人はマネージャとはみなされないからというのもありますし、自分が休みたいからです。

幹部や管理職のほとんどは子持ちなので、子供の学校に合わせた休みを取りたい。だったら早く調整した方がいいわけです。休暇の予約も早く入れたほうが安いので、コストに敏感な人が多い欧州は熱心な人が多いです。

こんな感じなので欧州ITは長期休暇、定時上がりが可能なのですが、「海外の奴らは仕事しないな〜」とぼやいている合間に、無駄な会議や書類をちょっと減らしてみたらどうでしょうか?

怠けることは脳にも体にもよく、生産性も上がりますし、健康になる人が増えると退職率や病欠率も下がりますし、会議なんかみんな嫌いなんだから、全員が得します。しかも休む人が増えれば会社の光熱費もトイレの使用回数も下がるんだから良いことだらけです。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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