original image: © divedog - Fotolia.com
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(Amazon Echoをお持ちの方は「アレクサ、ホワット・ア・フィーリング流して」と言ってからお読みください)
むかしむかしあるところに、漫画家を目指す少女、G子と、G子を一人前の画家に育てるべく奮闘する鬼教官Dがいました。
「教官! 私の作品を見てください! 今度こそ、自信作なんです!」
G子は連日の指導にも耐え、鬼教官Dに果敢にも作品を提出します。
しかし鬼教官Dは、そんな必死で作られた作品を見て、G子に冷たくこう言い放つのです。
「ダメだダメだ。お前の作品は、どれもこれもダメだ。特にこの端っこのところ、どうしてお前はいつもそうなんだ。独りよがりで、俺の言うことは聞かない。何を言っても反発する。お前は漫画家に向いていない。とっとと燕三条に帰れ!」
あんなに努力したのに。どうしてわかってくれないの。
連日徹夜で考え、必死に作品を作ったG子は目に涙をいっぱい溜めながら、きっと鬼教官を見返します。
「教官のバカ! 鬼! ひとでなし! フンコロガシ!・・・・だいたい、燕三条は駅名であって地名じゃないわ。こんなに頑張ってもだめなら・・・わたし、もう・・・舌を噛んで死ぬしかないわ!!」
そんなG子の自暴自棄な姿を見ても鬼教官は動じません。
「松本。おれがフンコロガシならば、お前はドジでのろまなカメだ。しかしな、一人前の漫画家というのは、そうやすやすとなれるものではない。俺のやり方が気に入らないなら、お前はJAL(城南アニメーション研究会)を出て行くしかない。だが、お前の心の奥に灯る情熱の灯火(ともしび)はそんなものなのか。もっと頑張って俺を見返してやろう。そういう気持ちさえ沸かないのなら、身の振り方を考えるんだな」
「教官・・・・そんな・・・・!!!」
絶句するG子(演・堀ちえみ)を置き去りにして、鬼教官D(演・風間杜夫)はその場を去ります。
Dは大井にある行きつけのバー、「夜間飛行」でバーボンを煽ります。
「Dちゃん、CA(CGアニメーター)の間で話題になってるよ。今度の新人、随分厳しくしてるんだって?」
「あいかわらずマスターは耳が早いな。なあに、ちょっと一人、落ちこぼれそうになってるやつがいるんでな。ついつい指導にも力が入っちまって、さ」
「鬼軍曹役もいいけど、Dちゃん、本当はあの子のこと、一番に認めてるんじゃない? それにDちゃんだってあの件がなきゃ・・・・」
「おっと、それは言いっこ無しだぜマスター。たしかに俺は、五年前、週刊漫画雑誌の編集長を殴り、一線からは追放された。そんときの怪我で、今じゃGペンも握れない。えらそうに人の絵にケチをつけるだけで口に糊する業界のおちこぼれさ。だからこそ、あいつには俺みたいになって欲しくないんだ」
「その件にしたって、Dちゃんは編集長にパワハラされていた漫画家を守るためじゃない。でも、やっぱりDちゃんはあの子の才能を認めてるんだよね。素直じゃないんだから」
「才能ってのは、認めてしまったらそこで終わりよ。いじめていじめていじめぬいて、それでも立ち上がってくる。それが真の才能なのさ。俺だってあいつは伸びると思ってる。だから憎まれても恨まれても、俺はあいつをしごくしかないのさ」
Dはバーボンをあおりながら、一冊の本をめくる。
「そんなこと言って、Dちゃんも本当は勉強家だもんね、その同人誌、安倍吉俊先生のでしょ?」
「マスターにはかなわねえな。やっぱり本物を見ておれも勉強しておかないと、Gのやつ、最近メキメキ上達してきて、アラを探すのも一苦労だよ・・・おっと、つい余計なことを言っちまった。そろそろ酔ってきたみたいだな。お会計頼むよ」
AIの世界には敵対的生成学習(Generative Adversarial Network)という学習法があります。
これは、二つのAIが互いに対立しながら成長していく学習法です。生成器G(Generator)は、乱数をもとに作品Yを書き出し、それを判別器D(Discriminator)がダメだしします。
この手法の面白いところは、Gがどんな作品を作っても、必ずDにダメだしされることです。
Dは本物の作品XとGの作品Yを交互に見比べながら、つどつどGに「おまえの作品のここがダメだ」と徹底的なダメだしをするのです。
こうした学習の結果、Gは任意の乱数から自在に絵を描ける名画家に成長します。
そう、鬼教官Dは、将来の名画家Gが育つためだけに生まれ、育った後はたいがい棄てられる(消去される)悲哀をもったAIなのです。
「教官! わたし、ついに新人賞をとりました。4月から、週刊誌で連載です。子供の頃からの夢がかないました。それもこれも、すべて教官のご指導のおかげです」
「よせよG子、いや、G先生。おめでとうございます」
「教官!・・・・私、私・・・・・」
「G先生、いいんですよ。私のことは気になさらないでくだせえ。G先生が立派になって私もこれまで頑張った甲斐がありました。なあに、判別器は再利用できるって聞くし、またどこかでお会いすることもあるでしょう」
「教官!・・・」
判別器Dは再利用することで生成器Gが早く育つと言われている。
しかし、実用的な用途において、判別器Dを再利用したことは、とりあえず筆者にはない。
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登録はこちら新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。