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DeepMind Healthは健康管理市場を独占するか?

Would DeepMind Health dominate the health market?

2018.06.28

Updated by Mayumi Tanimoto on June 28, 2018, 13:00 pm JST

英国では、ここ最近政府の調査報告書でGoogleの医療情報診断AIであるDeepMind Healthの危険性が指摘されたことが話題になっています。

DeepMind Health Response to Independent Reviewers' Report 2018

国の保険サービスをシステムにロックインすることで独占状態が生まれる上に、ビジネスモデルや透明性が不明瞭なので、将来的に大きな危機をもたらす可能性があると指摘されています。

Google 側はこのプラットフォームをなるべくオープンにし互換性や他社がシステムに乗り入れる余地を作っているし、将来的には診断の結果によって課金をするので、ユーザー側の負担は大きくならない、ということを述べています。

ただし、そういったモデルは完全に保証されるとは限りませんので、レビューワーのコメントはかなり厳しいものになっています。

こういった、民間のかなり先進的なシステムを国立病院に導入してしまうのも凄いですが、第三者評価をかなり厳しく行っているところも英国らしいです。とりあえず新しいことに取り組んでみて、問題があれば細かいところを見直したり、第三者が評価をして問題を解決していこうというやり方です。

最初から完璧を目指すより、スピードが違ってきてしまいます。

こういったやり方は、英国の行政では決して珍しいことではありません。とりあえず何か初期の政策を考えてみて実装し、問題があれば後々直していきます。

日本のシステム開発と英語圏のシステム開発を比べてみると、このようなやり方がよく分かるかもしれません。 英語圏では、とりあえずベータ版を出してみて、後で修正を加えて完全な製品にしていく、ということをよくやっていますね。日本は、最初から完璧を目指すのでフットワークが重くなりがちです。

英国では、DeepMind Healthがすでに国民健康サービス(NHS)が運営する国立病院で実装されていて、無償提供されています。

職場で一部負担の民間の保険に入っている人を除いて、国民のほとんどが  NHSを利用しています。 民間の保険に入っている人であっても最初の診断は GP と呼ばれる家庭医の所に行って、そこから必要があれば専門医に紹介してもらうという形になることが多いので、実質ほぼ全員が NHSを使っていると言っても差し支えありません。

このような重要性が高い国のサービスに、 Google のサービスが実装されてしまっているというのは驚くべきことなのですが、これは NHSが置かれている状況を考えると仕方がないことだといえます。

NHSの財源は加入者が支払う健康保険の他に、国の税金や自治体の補助金が当てられることがあるのですが、なにぶん国営のサービスですので常に資金不足でサービスの質は年々低下しています。

また、英国は英語圏ですから、より高い報酬が得られるカナダやオーストラリア、米国に移住してしまう医師や医療スタッフもかなりいます。

不足する人々をEU の加盟国や旧植民地から呼び寄せてはいるのですが、なかなかうまく行きません。EU離脱でEU国籍の者の就労に制限がかかる可能性も高くなっています。医師の数が限られているので、どうしても専門医に会うのには時間がかかってしまいます。そこで AI を使って病理診断を効率化する他ないわけです。

もちろん、個人情報保護の観点でも、政府調達の観点でも、たった一社の民間企業にこういったサービスを独占的に提供させるのは非常に問題があるわけですが、切羽詰まった状況なので、データが漏洩したり独占されるリスクと、サービスの効率的な運営を天秤にかけているのでしょう。

日本でも、医療サービスの崩壊や少子高齢化による健康保険への負担が問題視されてきているわけですが、こういったかなり大胆なことをやっていかなければ医療サービスの質の維持は難しいのではないでしょうか。英国政府のこのような事例は、日本で AI の導入を検討する際にとても参考になるのではないかと思います。

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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