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「働き方チャレンジ」が今回の私たちのチャレンジ

ひとりひとりが楽しく働くことを支援するアプリが「Happiness Planet」だ。名札型ウエアラブルセンサーで培った職場の人間行動計測技術をベースにして、職場のハピネス度(組織活性度)の計測をスマートフォン内蔵の加速度センサーでも簡易的に算出できる技術を開発した。これを利用し、1人1人が毎日の働き方チャレンジを宣言しその結果をハピネス度で確認することで、それぞれの個性や強みに合った働き方を見つけていくためのアプリである。これを用いて世界中の仲間と働き方改善の集中トレーニングを行うオンラインイベント「働き方フェス」の開催を9月に控えている開発メンバーの3人に開発の経緯を聞いた。

※本記事は日立製作所の研究開発グループが運営する「開発ストーリー」の抄録です。全文はリンク先をご参照ください。

先輩が作った技術を進化させる協創プロジェクトに参加した3人

 半導体の研究者だった矢野(日立製作所・フェロー)が中央研究所のセンサーや電気回路などの技術を集めて新しい開発を始めようとしたところがこのプロジェクトのそもそもの原点だ。その結果「名札型のセンサーを体につけて対面コミュニケーションや加速度を計測すると面白そうだ」ということになり、これが出来上がった頃に私は入社した。このハードウエアを使って何ができるかを考えるところから研究がスタートした。

佐々木 国分寺、青山のデザイン本部で携帯や車載情報機器などのUI(User Interface)デザイン、先行デザイン提案などからスタートし、デザイン本部が赤坂に移転した頃からストレージ/サーバ管理製品やビッグデータ関連製品のUIデザインを担当してきた。2015年あたりから今のチームメンバーとともに、AIがハピネス度を高める働き方アドバイスを提供するというコンセプトのアプリをつくることになった。従来のデザイン的概念を超えて、サービスあるいは制度設計自体のデザインという領域に踏み込んだように思う。最初は技術そのものを理解するのが大変だったが、非常にフラットなプロジェクトだったことから比較的短期間で学習できた。チームメンバーみんなの役割が少しずつ重なっているのが逆にやりやすさになっている。

 大学でデザイン科学を学んで日立に入社して4年目になる。情報可視化、情報ビジュアライゼーションに興味があった。現在も大学で博士過程を続けているが、研究の方向も当然情報の可視化だ。私自身は、自分を研究者とエンドユーザーの間に位置する仲介者みたいなもの、と考えている。研究者はユーザーに伝えたいものをいっぱい持っていて、でも、ユーザー側でまず理解できる部分が少ないから、そこをまず私たちが咀嚼して、こういう言い方だったらユーザーはわかるよとか、ここまでは説明はしなくてもいいんじゃないかというようにデザインという手法で仲介した、といえる。

寄せ集めメンバーでもスピーディな意思決定

 このプロジェクトは「意思決定のスピードが早い」のが特徴だ。これは矢野というプロジェクトオーナーのリーダーシップと、それを影で支えてくれる先輩の存在が大きい。矢野が未来を見据えてプロジェクトのビジョンを作る。そしてそこにマネジメントが得意なスタッフが手堅く仕事を進めていくというイメージだ。

そもそも日立ではプロジェクト制自体が比較的珍しい。このプロジェクトも基本的に寄せ集めメンバーでやって、結果的に予算のあるときだけ集中的にやってパッと解散する、みたいな形で進めてきた。プロジェクトオーナーが何か新しい花火を打ち上げようとする。すると、その準備期間が2カ月で、2カ月でつくって2カ月で運用、という具合に(非常に短い時間だが)2カ月が一つの単位になって動いている。

今まではフィードバックするためのデータの可視化は全部自分たちでつくっていた。研究者は論文を書くのが仕事なので、一から十まで、全部、漏れなく、ちゃんと論理が閉じるように説明するという癖がついている。しかしこれはキリがない作業でもある。ここにデザイナーに入ってもらうことで、まずはイメージでつかんでいただくということができた。

ハピネスを自分で見つけるためのサポートに徹する
—「働き方チャレンジ」をフィーチャーする

 まずハピネス度を名札センサーで計測するところから全てがスタートする。多様性のある動きをする人は元気であることが多い。実はこのセンサーの数値を意図的に上げようとする動きをする人もいるが、多くの場合、これはハピネスにはつながらないこともわかっている。まさに「正直シグナル」(注1)だ。

「今日は会議が多いから時間どおりに終わるようにしよう」「段取りを考えていこう」というように、日常業務ではそもそも、毎日ちょっと工夫しようという気持ちを持った上で仕事をされているはずだ。しかし、会社ではそれを誰も褒めてくれない。であればまずその意思をすくい上げてみようと考えた。

それが「働き方チャレンジ」だ。「どういうチャレンジにしてみようかな」という定型文の選択肢があるだけだが、「前向きな言葉を選んで会話する」「同僚とランチに行っておしゃべりする」「休憩時間にストレッチする」「ブラックコーヒーを飲んで集中する」といった軽いものも入れたのが今回の特徴だ。

前回の働き方フェス(2018年2月実施、62 社 1,475 名が集結)のデータもすでにあるので、今回の働き方フェスでは個性とチャレンジの相関関係のようなものがわかるかもしれない、とも期待している。今回も1,000人以上の方に参加戴きたいと願っている。(注:現在9月回参加ユーザーを募集中

働き方チャレンジの宣言は楽しい

佐々木 世の中にはビジネス向けのToDo管理アプリや、健康になるための筋トレ/ダイエットアプリなどは山ほどあるが、それらの多くはチームワークを向上させるためにあるわけではない。チームで集まると何かパワーを発揮するというイメージが欲しい、というところから惑星探索隊をイメージした。「あなたたちのチームは新しい星に向けて旅立った宇宙船に乗ったメンバーです、今、岩だらけの小さな惑星に降り立ちました、皆さんの強みを活かして、この惑星をキラキラ光る大きな惑星に育ててください。」というストーリーを作った。ハピネス度の計測が続くと、だんだんトップ画面の惑星が成長し、チームの特徴に合わせて星の色が変わったり、働き方チャレンジの頑張りに応じて宝石をゲットしたりと、毎日楽しめる仕掛けを用意し、ビジュアルにもこだわった。

同じチームの他のメンバーが「今日、どういう気持ちで仕事をしようと思っているのだろう」を覗き見できるのが面白い。人は他人の宣言、つまり意図そのものを応援しようとし始める。これはチームの雰囲気を決定的に向上させる。頼まれてもいないのにお互いがサポートし合う雰囲気が醸成できる。それは「お疲れ様」と言いながらコーヒーを差し入れしてあげる、というような実空間上での行動に現れる。

ユーザーに育ててもらう開発スタイル

 一言で言うと、Happiness Planetはベンチャー的な動きが要求されるプロジェクトだ。本来、日立は重厚感にあふれた“完璧”な製品が多い。完璧に計画して、完璧につくって、完璧にテストした上じゃないとお客さんに出さないのが日立の王道だ。我々も“正確さ”を大切にしてきてはいるが、それ以上に「こういう考え方は顧客に受け入れられるだろうか」というところからPoC(Proof Of Concept:概念実証)をスタートさせなければならないと実感している。したがってある程度完成度を犠牲にしてでも「何をめざしているか」が顧客にはっきり伝わるものでなければならない、と考えている。顧客の意見を開発にフィードバックさせ、スピード重視でプロトタイピングを繰り返していく、という(日立としては珍しい)開発スタイルになるはずだ。

したがって、ユーザーも含め、社内外のさまざまな職種の人たちなど、いろいろな人たちとの“協創”そのものが開発と言うことになる。

<プロフィール>

辻聡美(tsuji satomi)辻聡美(tsuji satomi)
研究開発グループ・基礎研究センタ 主任研究員
愛読書は『魍魎の匣』。

佐々木真美(sasaki mami)佐々木真美(sasaki mami)
研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ
サービスデザイン&エンジニアリング部 デザイナー
森絵都さんが好きで、お気に入りの本は『カラフル』。自殺してしまったデッサンをやっていた主人公に乗り移ってもう一回人生をやり直す小説。一つの角度でしか見ていないと悲観的に捉えてしまうことも、別の人の観点でその人の人生を歩むとさまざまな色に見えてくる、ということがわかる。

賀 暁琳(He Xiaolin)賀 暁琳(He Xiaolin)
研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ
サービスデザイン&エンジニアリング部 企画員
書籍ではないのだが、カンディンスキーのファン。抽象画を描く人だが、色の使い方が非常にうまい、と感じる。UIデザインの方法論を考える時に非常に参考になる。

Happiness Planetとは

Happiness Planetゲーム感覚で職場の活性度を競い合いながら、一人ひとりが主体的に楽しく働き方改革に取り組めるようになることを支援するサービス。スマートフォンのアプリケーション上で、働く人が今日の働き方の目標(働き方チャレンジ)を毎朝登録すると、その効果を組織活性度(以下、ハピネス度)としてフィードバックします。

1. 毎日の短いアンケートに答える
2. 1日3時間スマートフォンをポケットに入れてハピネス度を計る
という簡単な手続きで、働き方分析(ユーザーの働き方の特徴・強みを分析)、ハピネス度ランキング(働き方フェス参加チームのみ)がわかり、楽しく働き方の実験を続けることができる。

詳細はこちら

<関連情報>

デジタル化で楽しく続ける働き方改革〜
従業員の成長を支援するHappiness Planet(日立評論

ヒューマンビッグデータによるサービス業務の生産性向上支援(日立評論)
組織の「幸福度」を測りパフォーマンスを向上〜
センサーとAIを使い幸福度を高める行動を各人にアドバイス(JBPress

Hitachi AI Technology/組織活性化支援サービス
集団の幸福感に相関する「組織活性度」を計測できる新ウエアラブルセンサ(ニュースリリース)
AIの働き方アドバイスが職場の幸福感向上に寄与(ニュースリリース)
幸福感を計測するスマートフォン向けの技術(ニュースリリース)

正直シグナル注1)『正直シグナル』アレックス(サンディ)・ペントランド(みすず書房、2013)
「場の空気」や「暗黙の了解」などの非言語的シグナルによるコミュニケーション領域における研究成果を通じて、正直シグナルが可視化される未来社会について語る書籍。


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