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玉ねぎ 調理 イメージ

5)玉ねぎは茶色になるまで炒めないとダメなのか?

2019.04.13

Updated by Toshimasa TANABE on April 13, 2019, 15:16 pm UTC

師匠のメヘラ・ハリオム氏は、「玉ねぎは茶色くしなくて良いのですか?」とよく質問されるという。以下、ハリオム氏のブログの内容を中心に、本人の口調で展開するインドカレーにおける玉ねぎについての「セオリー」である。


確かに、玉ねぎを茶色く小さくなって嵩が減るまで炒めるというカレーの作り方は、テレビ番組などでよく紹介されておりますし、実際インドでも「飴色のたまねぎ」的な作り方がほとんどではあります。特にプロの場合は、十中八九その作り方ですし、インドの家庭でも同様です。だから、「おいしいカレーの作り方のコツ」として、広く紹介されているのだと推測します。

しかし、私の場合はちょっと違います。インド料理教室では、これまでほぼ100種類の「インドカレー」を紹介させていただいておりますが、玉ねぎを茶色く炒めるレシピは一つもありません(シェフのレシピ)。

インドカレー的には、プロでも家庭でも飴色が常識ということは、誤解を恐れずに言えば、私がみなさんにご紹介している料理はある意味で邪道なのかもしれませんね。少なくとも王道ではない、といえるかもしれません。

でも、玉ねぎを茶色くしなくても、美味しいインドカレーはできるんです。そんなに時間をかけなくても、美味しいインドカレーができます。そんなにたくさんの種類のスパイスも要りません。

私のご紹介するインド料理

インド料理でよく使うスパイス

ただし、玉ねぎを茶色くしないカレーは、できたての味と比較して時間が経つにつれて、茶色いたまねぎをベースにしたカレーよりも味の変化が大きいのです。ですから、何日も置かないでできるだけ早く食べるようにしてください。もっとも、通常のご家庭ではその日のうちか2日目には全て消費されるでしょうから、その程度であれば全く問題ありません。

味だけのことを考えれば、家庭料理の場合は「美味しい!」ことが一番。家庭の場合は、日持ちするかどうかや、時間の経過と味の変化などを気にする必要はないので、玉ねぎは軽く炒めるのがオススメです。

たまねぎのみじん切りのコツ(動画)

まな板を使わないたまねぎのみじん切り(動画)

そういうわけで、私のレッスンでは「玉ねぎを茶色くする必要はありません」というのがひとつのポリシーみたいなもので、いままでのレッスンでも飴色玉ねぎのレシピをご紹介したことがないのです。

私が推奨している透明になる程度で良いというのは、インド料理業界的には邪道、というのは言い過ぎかもしれませんので少数派くらいにしておきましょうか。

私は個人的に、飴色にする必要がないと思っています。むしろ、飴色でない方が美味しいかもしれないと思っています。飴色に炒めるのと軽く炒めるのを使い分ける必要はなく、いつも軽く炒める作り方でOKです。

もし、飴色玉ねぎとそうでない場合の違いを知りたいという場合は、同じレシピで軽くいためたものと、じっくりいためたものを両方同時に作ってみて食べ比べてみることをオススメします。その結果、「どちらが美味しいか?」というかなり主観的な結論になります。

もしかすると、二つ作ってもあまり違いがわからないかもしれません。あるいは、むしろ軽くいためたカレーの方が美味しいかも。だったら簡単な方がいいよね、というのが私の結論です。

インド料理に使う玉ねぎについては、みじん切りが一番多いと思いますが、スライスもありますし、ペーストという使い方もあります。私の知る限りでは、特にこのカレーだとこの切り方で作らないといけない、というようなルールや法則のようなものはないと思います。

同じ名前の料理でも、いろいろな作り方があります。それは、家庭でもプロの料理人でも同様です。全体のバランスを考えて、どの切り方が最適かを考えるということはあると思うのですが、それも人によって意見が分かれるところだと思います。

私のインド料理教室でみなさんにご紹介しているレシピの場合は、私がこの料理に最適だと思う切り方でご紹介しております。もちろん私の中でも、「この料理はこうでないと」というのはあるにはあるのですが、具によって変わる場合もありますしケース・バイ・ケースなので「コレの場合はコレ」というように、決め打ちで紹介するのは難しいのです。

・ダブル玉ねぎのカレー「●●・ド・ピアザ」
唯一、玉ねぎの姿が確認できないと料理として成立しないのが「チキン・ド・ピアザ」や「マトン・ド・ピアザ」ですね。これは、鶏(あるいは羊)と2種類の玉ねぎという名前の料理で、カレーベースには姿の見えない玉ねぎが使われていて、さらに具材として玉ねぎが入っている、という料理です。この場合、玉ねぎが確認できないと料理として成立しないので、具となる玉ねぎは大きめに切ることになります。火は入れ過ぎないようにして、玉ねぎの食感を残すようにします。

・インドの玉ねぎは「赤」
インドでは赤い(紫?)玉ねぎが普通です。サラダもカレーも、みんな赤い玉ねぎで作ります。日本で普通に売っている茶色いたまねぎは、インドでは「山の玉ねぎ」(たぶん北部で収穫されるからなんだと思います)と呼ばれていて、年間で1カ月か2カ月くらいしか流通しません。でも、赤い玉ねぎは年中売っています。


以上がハリオム氏の玉ねぎについての見解と解説である。自分でカレーを作っていて感じるのは、茶色くなるまで炒めた玉ねぎのコクよりも、素材の味わいやスパイス感が際立っている方が、カレーとしてはフレッシュで美味しいのではないか、ということだ。アルジラの回で紹介したように、ジャガイモと玉ねぎの味噌汁と対比して考えると分かりやすいかもしれない。玉ねぎを茶色くなるまで炒めた場合とそうでない場合の違いを味噌汁で想像してみると、なんとなくその感じが分かるのではないだろうか。

そういうわけで、時間もかかることだし、玉ねぎは軽く炒める程度でカレーを作るようにしている。とはいえ、例えば味にちょっと厚みが足りないなどの場合もあるだろう。そんな時には、コク出しのために市販の炒め玉ねぎやフライドオニオン(どちらも便利ですねぇ)を使う、などという方法もある。実際そうすることは滅多にないが。

次回は、インドカレーの中でもポピュラーな「チキンカレー」の鶏肉について、セオリーを考えてみたい。


■記事へのコメントの御礼と現段階での簡単なご回答
アルジラの回にコメントをいただきました。ありがとうございます。
なぜ、ジャガイモにはクミンなのか、その詳しい理由を知りたい、という内容でした。

これは、例えば和食でいうと、マグロの刺身にはワサビ、イカ刺しならショウガかワサビで迷うところ、白身の刺身なら醤油かポン酢か、それも薄造りかそうでないかで変わってくる、というような感じで、インドカレー的にはジャガイモにはクミン、なのですね。

他には、例えばナスにはアジョワン、羊なら独特の匂いがあるのでブラックカルダモンなどのちょっと強いスパイスを組み合わせる、などが定番です。

例えば、ジャガイモにコリアンダーをメインスパイスとして組み合わせて、それが個人の好みでクミンより好きなのであれば、それはそれで良いと思います。また、含まれているものから考えてこの組み合わせが良いはずだ、と思っても、実際に美味しいかどうかは別問題でしょうし、最終的には一人ひとりの好みや味覚の感性に委ねられます。

食文化として、その組み合わせが長きに渡って多くの人々に愛されてきた、素材の味わいをスポイルしない相性が良い組み合わせだと認知されてきた、ということだと思うのです。

ショウガやワサビには毒消し作用がある、あるいはシュウ酸が多く含まれているホウレンソウはお浸しにするときはカルシウム豊富なシラスなどをトッピングすると、消化するときにカルシウムがシュウ酸と化合してシュウ酸カルシウムになりシュウ酸の排出が促進されるのでシュウ酸が原因の結石になりにくい、などというのは、かなり後付け的な理屈であって、昔の人の知恵、とはちょっと違うと思うのです。

ただし、こういうことも言えます。科学的な根拠はそれとして、食文化というのはその地の知恵「ローカルナレッジ」の結晶です。例えば、サバの刺身。福岡や長崎あたりでは、サバは生のまま刺身で食べます。一方で関東では、塩で締めてから酢に漬けるシメサバが中心です。これは、海域によってサバの餌が異なるので、サバに寄生しているアニサキスの性質が異なるからなのです。

九州のサバのアニサキスは、内臓寄生が多くサバの死後も筋肉に移動する割合が低いそうです。逆に関東のサバは、筋肉寄生が多い。海域によってアニサキスの種類が違うのです(参考文献:わが国におけるアニサキス症とアニサキス属幼線虫(PDF))。これを昔の人は、体感的に知っていたのですね。だからこそ、その地の食文化として、サバの食べ方が地域によって刺身とシメサバに分かれるのでしょう(シメサバにしたからといってアニサキスが完全に死ぬわけではないのですが)。

人間は、
・食べたことがないものは食べない人
・食べたことがないものを食べてみる人
の二種類に分かれます。

前者によって人は生き延びてきた、しかし、後者によって多くの犠牲を伴いながらも食を広げてきた、と思うのです。そして、両者の食の営みの中でローカルナレッジが確立されてきたのではないでしょうか。

最近ではサーモンなどといって、輸入物の鮭を生で食べますが、北海道では鮭は生ではなくルイべ(冷凍してから半解凍したもの)で食べるのが普通でした。これは、アニサキスがマイナス20℃以下で24時間以上経過すると死ぬからなんですが、こんなことは先人たちは知る由もなく、真冬の北海道でカチカチに凍った鮭を融かしてそのまま食べても中らないのに、獲ったばかりの新鮮な鮭を生で食べると中る、という経験に裏打ちされたローカルナレッジがあったのだと思うのですね。

ジャガイモとクミンの間にどんなローカルナレッジが隠されているのか、連載を続けるうえでの課題の一つにしておきたいと思います。


※本連載は、横浜市都筑区のインド家庭料理「ラニ」のオーナーシェフであるメヘラ・ハリオム氏と、同氏を師と仰ぐ田邊(富士山麓のcafe TRAILでカレーを提供中)の共著という形で、インドカレーのセオリーについて考え、それを分かりやすく提示する試みです。もちろん、いくつか代表的なカレーのレシピも掲載していきますが、いわゆるレシピそのものを紹介すること自体は目的ではありません。このレシピはなぜこうなっているのかを理解することで、レシピを見なくても、自分にとって美味しいインドカレーが作れるようになることを目指しています。また、各種スパイスについての解説は、食材やスパイス同士の組み合わせや相性を中心とし、スパイスの歴史や特性などについては、他に優れた本がたくさんあるので、それらにお任せするというスタンスです。

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田邊 俊雅(たなべ・としまさ)

北海道札幌市出身。システムエンジニア、IT分野の専門雑誌編集、Webメディア編集・運営、読者コミュニティの運営などを経験後、2006年にWebを主な事業ドメインとする「有限会社ハイブリッドメディア・ラボ」を設立。2014年、新規事業として富士山麓で「cafe TRAIL」を開店。2019年の閉店後も、師と仰ぐインド人シェフのアドバイスを受けながら、日本の食材を生かしたインドカレーを研究している。