【島薗進氏による私塾】死にゆく人と愛の関係を再構築する技術 第1回:グリーフケアといのちの恵み
2021.04.07
Updated by Susumu Shimazono on April 7, 2021, 19:36 pm JST
2021.04.07
Updated by Susumu Shimazono on April 7, 2021, 19:36 pm JST
グリーフケア研究所所長である島薗進氏のオンライン私塾がスタートします。
塾生は月1回のウェビナーとオンライン交流会に参加が可能。6カ月間連続で開催します。
テーマは「死にゆく人と愛の関係を再構築する技術」。グリーフケアは、心理臨床や精神医療を通じた喪の仕事への対応として行われます。鎌倉時代初期の明恵上人から現代の文芸まで、詩や物語における喪失や悲嘆の表現の中に日本人にとって親しみ深い言葉が数多く発見できます。これらを紹介しつつ「愛の関係の再構築」のための深い悲嘆の表現として捉え直していきます。
第1回のテーマは「グリーフケアといのちの恵み」。オリエンテーションをかねた講義を展開する予定です。
全回を通して聞き手は医療・科学ライターの小島あゆみ氏です。
悲嘆を抱えながら、それを表現し、分かち合い、ともに生きていく。人はこのような経験をすることが多い。心が行う「喪の仕事」が先に進み、新たな光がさすように感じる。いのちの恵みを深く感じるのはそのようなときだろう。かつて、宗教はそうした「悲しみの容れ物」としての機能を果たしていた。物語やうたもそのような働きを助けることがある。日本の文芸、とくに近代の文芸のなかからそのような作品を取り上げて「グリーフケアといのちの恵み」について考えていく。
身近な悲嘆を赤裸々に描いた文芸として、近代に先立つ時期のものとして目立つのは小林一茶だ。日本の短歌や俳句には悲嘆を表現するものが多い。だが、それを現代人にも身近に感じられるような日常感覚とともに描いた人として一茶は注目すべき存在だ。
近代の悲嘆の表現としては、童謡・童話に注目したい。まず取り上げるのは、「七つの子」、「シャボン玉」、「赤い靴」などの童謡、また、「船頭小唄」という「新民謡」を作詞した野口雨情だ。もっとも人気のある童謡作詞家である野口雨情には、悲しい歌詞が多い。本人の人生の悲しみが反映しているが、悲しい歌詞の歌を歌い元気が出るというのは、そこにいのちの恵みを感じるからでもあろう。
浄土真宗の盛んな山口県の漁村に育った金子みすヾは二〇歳代で自殺してしまったから、その人生の悲しさは想像しやすい。悲しみといのちの恵みの感覚を表現して、世に知られる前に世を去ってしまった詩人だ。しかし、その作品は仏教の香りが豊かで、1980年代以降の人々の心を捉えるに至った。孤独な心が時の隔てを超えて響き合うようだ。
近代日本でもっとも人気のある詩人で物語作家でもあるかもしれない宮澤賢治の作品も取り上げてみたい。宮澤賢治の悲しい経験は妹のとし子の死だが、その前から賢治はあふれるような悲しみを表現する詩人であり物語作家だった。童話という表現形式を選びとったことと「悲嘆の人」であることはたぶん切り離せない。そもそも人の魂がもっている悲しみの源を探り続けるような生涯だった。
最後に、現代に近づけて、水俣病の被害者や遺族の悲嘆について取り上げる。石牟礼道子の『苦海浄土』にも表現されているが、石牟礼が敬愛した地域の人々、広い意味での語り部の人たちの表現について考える。現代の災害や事故・事件の被害者たちが語る悲嘆と、その悲嘆からこそ見出されていくいのちの恵みの語りの原型がそこにあるように思う。
入江杏『悲しみを生きる力に――被害者遺族からあなたに』岩波ジュニア新書
2000年の世田谷の一家4人殺害事件の遺族として、喪われた妹家族の思い出を語り、自らや母の悲嘆を語り、そうした被害を経験した人々との連携を模索してき、グリーフケアについて考えてきた著者の書だ。
美谷島邦子『御巣鷹山と生きる――日航機墜落事故遺族の25年』新潮社
1985年の日航ジャンボ機墜落事故の遺族である著者が、遺族の集いを立ち上げ、ともに悲嘆を分かち合ってきた経緯を語った書物。御巣鷹山は被害者・被災者が悲しみをともにする場となった。事故の地を繰り返し訪れる行為は、死者とともにあることを確かめることでもある。
金菱清『私の夢まで会いに来てくれた』朝日新聞出版
東日本大震災の遺族たちはしばしば死者の言葉を聞いたり姿を見たりする。夢に出てくることも多い。そのことが遺族にとってはたいへん貴重な経験で、それが生きる力を与えてくれるように感じることもある。インタビューによってそうした経験の意味を問い直した書物。
杉山春『児童虐待から考える――社会は家族に何を強いてきたか』朝日選書
自死遺族やひきこもりの家族、児童虐待の関係者を取材しながら、苦難と悲嘆からたちがろうとする人々とつきあいつつ、そのような困難を産む社会の問題を考えようとしてきた著者の虐待についての書物。
小松原織香「水俣の祈りと赦し : 1990 年代の「もやい直し」事業を再検討する」
水俣病では多くの被害者がでながら、加害者側が罪を認めなかったため、分断の状況が続いたが、1990年になってその分断を超えて、赦しと融和へと向かう展開があった。それを「もやい直し」とよんでいる。被害者自身が独自の悲嘆を通して、新たな地平を切り開いていくことができた。そのことを示そうとした論文。
または、永野三智『みな、やっとの思いで坂をのぼる—水俣病患者相談のいま』ころから株式会社
この私塾での島薗さんのお話を通して、
〈聞き手プロフィール〉
小島あゆみ
慶應義塾大学文学部卒業後、
〈開催スケジュール〉
第1回 2021年5月14日19時~(テーマ:死にゆく人と愛の関係を再構築する技術)
第2回以降は決まり次第お伝えしていきます。
交流会は翌週を予定しています。
〈料金〉
第1回は特別価格1000円。
第2回目のウェビナーより4500円です。
〈会場〉
Zoomミーティングを利用したオンラインイベントです。
〈オンライン交流会〉
ウェビナー後にはZoomミーティングを使用したオンライン飲み会を開催予定です。詳細は追ってお伝えします
〈お申込み〉
Peatixよりお申し込みください。
〈主催〉
WirelessWireNews編集部(スタイル株式会社)
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登録はこちら1948年東京都生まれ。東京大学文学部宗教学科卒業。同大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。東京大学名誉教授。上智大学グリーフケア研究所所長。おもな研究領域は、近代日本宗教史、宗教理論、死生学。『宗教学の名著30』(筑摩書房)、『宗教ってなんだろう?』(平凡社)、『ともに悲嘆を生きる』(朝日選書)、『日本仏教の社会倫理』(岩波書店)など著書多数。