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日本の個人情報保護が見落としていること

Japanse personal information protection needs balance

2021.06.23

Updated by Mayumi Tanimoto on June 23, 2021, 12:00 pm JST

イギリスは、ワクチン接種がかなり進み、人口の半分以上が1回目は接種済みという状況で、世間の話題は夏の休暇の事ばかりでありますが、イギリスを始めワクチン接種がものすごく早く進んだ国には、実は共通することがあります。

それは、何らかの形で国民の医療情報というものを国が包括的に管理できている、ということです。

例えばイギリスの場合は、以前ご紹介したように、国民保険番号で国民の処方箋から病院の訪問日時、治療内容、健康診断の内容まで全ての情報を国が包括的に管理しています。

驚くべきことは、世界で最も個人情報保護法が厳しいヨーロッパにあるイギリスがやっていて、しかも民主主義国であり、日本よりもはるかに訴訟社会である、ということなんですね。

GDPR(EU一般データ保護規則)の規制は、日本の個人情報保護法よりもはるかに厳しいですし、情報漏洩やずさんな管理に対する罰則は、日本よりもイギリスの方がはるかに厳しいんです。

しかしそういう状況でも、国が国民の医療情報を一括して管理することに対して反対する声はゼロです。

なぜかといえば、今回のワクチン接種でわかるように、統括することのベネフィットが漏洩した場合などの問題点を上回っているからです。

この事例を見て日本のユーザーや政府が熟考すべきことは、個人情報保護というのはあくまで利益と想定される問題点のバランスを考えた上で運用するものであって、理想論を語るものではない、ということです。

これは、ワクチンを接種するということもそうですし、薬を飲むことも同じです。人間が作り出したものに完全なものはなく、必ず副作用や問題が起こる可能性があります。

しかし、我々はそれを理解した上でベネフィットの方が大きいから使っているわけです。個人情報保護に関しても、そのようなバランスを理解するべきなんですが、なぜか日本では、理想論の方が上回ってしまうわけです。

そういった「現実的思考のなさ」が行政事務の膨大な無駄につながっているわけですし、 DXが進まない理由でもあります。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。