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日本のカイシャ文化とDX

Japan Inc and DX

2021.09.06

Updated by Mayumi Tanimoto on September 6, 2021, 07:00 am JST

前回は、中国を始め北米や欧州では、職場に対して執着しない人が多いため、転職は頻繁で早期引退も多くなり、仕事のやり方を刷新するDXを導入しやすい、とご紹介しました。

では、日本人にとって「カイシャ」とは何なのでしょうか?

日本の場合は、会社に行くのは金を稼ぐというよりも、コミュニティの一員となって周りの人々と人間関係を構築し、そこで自分のアイデンティティや所属先というものを確認する、という心理的なサポートの側面が大きくなっています。

ですから日本の職場というのは、賃金が安めではありますが、雇用自体は他の国に比べると安定しています。 

そして、職場になるべく長く滞在したがる人が少なくありません。 職場で何をしているのかというと、黙々と働いているわけではなく、大部屋のオフィスで延々と雑談をしているような人も多いのです。自販機前やタバコ部屋、社食でのおしゃべりも多い。日本の人は職場での雑談が大好きです。日本の職場はとにかく私語が多いですし、大半が大部屋のオープンオフィスです。

話している内容も、昨日のテレビ番組であるとか健康診断の結果など、実に無駄な内容が多いのですが、これは日本のコミュニティではこの様な雑談を通したコミュニケーションがコミュニティの一員として関係を作り上げる上で重要だ、ということです。

イタリア、スペイン、トルコ、ギリシャあたりの人々は、職場の人とも日本のような一見無駄に思える内容の雑談を長々とやっています。やはり、コミュニティの一員として円滑なコミュニケーションを取るのに重要だからなのです。つまり日本は、南欧や中東の文化圏に近いということでもあるのです。

北部欧州だと、オフィスではあまり喋らず、黙々と仕事している人も多いです。イギリスでは、同僚とのティータイムなんてありません。そんなことは時間の無駄だからです。イギリス人は、そもそも時間がもったいないので、ランチすら同僚と外に食べに行きません。持参したサンドイッチ(毎日同じ中身)をデスクで齧って終了です。ドイツ人やオランダ人などは、本当に要件しか話しません。日本から働きに来ると、その冷酷さに面食らいます。

ただし、イタリアやスペイン、トルコやギリシャなどは、同僚との会食が大好きです。さらに、やたらと職場主催の行事があったり、同僚と飲みに行きたがります。カイシャに生活のコミュニティを求めているのです。

さらに日本の場合は、自分の会社の外の人とは人間関係を作ろうとしない、ということもいえます。これはなぜかというと、現在所属している会社が自分の村であり、その村の外に所属先を求めるという動機がないからです。目的が「どこかに所属すること」なわけですから、既に所属先があるのであれば、外にその場を求めなくてもよいというわけです。

日本では、非正規の人々がぐんと増えましたが、心の問題を抱えてしまうことも多いのはここに要因があります。会社が所属先を確認するための社会的な存在なので、正社員として採用されず会社のコミュニティに正式に迎えられていない、という感覚が心を蝕むのです。

しかし、そういった感覚はイギリスや中国の場合はあまりありません。むしろ、正職員よりも賃金が割高な非正規になって、短期間でさっさと稼いで早く引退したい、という考え方の人が多いのです。

自分の所属先は家族や趣味の集まり、あるいは私的な友達の中に存在しますから、わざわざ会社を所属する先にしたり、そこにアイデンティティを求めなくても済むわけです。

日本は、南欧や中東の文化に近いところがあり、カイシャというものがかつての村や町内に相当しているわけです。そういう場ではやはり、年齢や立場が上の人や社歴が長い人の面目を潰すわけにはいかないので、若い者や外部から来た人DXなどの導入でやり方を刷新するということはできないわけです。

確かに南欧や中東は、中国や北部欧州やアメリカに比べるとDXの導入がかなり遅れており、社会も非効率な事だらけです。

デジタル化というのは便利な半面、伝統社会の序列や面目といった「非効率性」と相反するものなのかもしれません。確かにここ30年の間に、新興IT企業や音楽業界、流通、出版などの様々な業界にデジタルが浸透し、業界構造を破壊してきました。伝統社会との対立といったものが、DXの本質なのかもしれません。

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。