2020年4月、本サイトにて「パンデミックをつくったのは誰か」の論考を公開したが、筆者が「モノの見方をデザインする」という立場から実践研究してきた「風景異化論※」という理論に基づき、今回のパンデミックについて改めて整理した。本稿では、2022年1月25日に上梓された拙著「まなざしの革命 世界の見方は変えられる」より一部抜粋しお届けする。
このパンデミックによって、物理的に世界の風景は大きく変わってしまった。誰もがマスクをつけ、互いに距離を取り、近づかないように透明のパーティションが立てられた。街から人が減り、飲食店は閉められるようになった。このように実際に目に見える様相が変化したが、最初はそうだったわけではない。そこに至るまでにはいくつかのプロセスがあった。
まず危険な新型コロナウイルス発生の一報があり、その情報は世界に出回った。そこでは国を超えて流行する可能性が指摘され、国連機関であるWHO(世界保健機関)がパンデミックを宣言した。マスコミの連日の報道と政府の方針によって、周囲の人や物、場所や空気までも感染の危険性がある対象として人々に認識された。そして私たちにもマスクをつけ、三密を回避し、ソーシャルディスタンスを取ることが勧められた。緊急事態宣言が発令され、街では外出や集会が避けられ、海外への移動も制限された。ウイルス感染の検査が実施され、それが集計されて情報として出回った。そして人々の間にはパーティションが立てられ、飲食店が閉められた。
このようなプロセスが積み重なることで、目に見えて風景が変化した。しかしそれ以前にすっかりと変わってしまったのは、私たちの世界の見方である。今では同じ場所を見ていても以前とはまるで違った風景に見えている。それは物理的なものが変わった以上に私たちの意識や認識が変わったからである。この私たちの内部での意識の変化が、本当の意味で風景が変わることを意味する。風景異化論ではそれを「認知」の変化と呼ぶ。
風景とは対象物だけで生まれるのではなく、私たちのモノの見方、つまり「まなざし」との関係で生まれる。その関係は視覚的なものだけではなく、心理的なものもある。だから対象物は何も変わらなくても、私たちのまなざしが変われば、風景はガラリと姿を変える。風景異化論では図1のように風景をつくる要素を、客体と主体の軸と、物理的特性と心理的特性の軸で分け、それぞれを「環境」「知覚」「記号」「認知」の4つに整理している。この理論から捉えると今回のパンデミックで私たちに起こった風景異化のプロセスが見えてくる。
※「これまで見ていた風景がある時を境に違うものに変わる現象」を指す。その風景異化を意図的に起こすための方法の一つが「まなざしのデザイン」である。
日程 2022年2月1日 (火)
時間 19:00〜20:30
開場 18:30〜
料金 会場:1,540円(税込) Zoom:1,320円(税込)
定員 会場:70名 Zoom:300名
会場 青山ブックセンター本店 大教室
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登録はこちら1976年生まれ。博士(緑地環境計画)。大阪府立大学経済学研究科准教授。ランドスケープデザインをベースに、風景へのまなざしを変える「トランスケープ / TranScape」という独自の理論や領域横断的な研究に基づいた表現活動を行う。大規模病院の入院患者に向けた霧とシャボン玉のインスタレーション、バングラデシュの貧困コミュニティのための彫刻堤防などの制作、モエレ沼公園での花火のプロデュースなど、領域横断的な表現を行うだけでなく、時々自身も俳優として映画や舞台に立つ。「霧はれて光きたる春」で第1回日本空間デザイン大賞・日本経済新聞社賞受賞。著書『まなざしのデザイン:〈世界の見方〉を変える方法』(2017年、NTT出版)で平成30年度日本造園学会賞受賞。