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長谷川 修司(はせがわ・しゅうじ)東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授

20世紀が半導体の世紀なら、21世紀はトポロジカル物質の世紀である

Progress and Prospects in Topological Materials

2022.07.01

Updated by Schrodinger on July 1, 2022, 17:05 pm JST

リンゴを2つに切り分けると果肉の表面が出現するはずですが、このリンゴがもしもトポロジカル物質で構成されているとすると、あら不思議、この果肉の表面(断面)も皮になります。トポロジカル物質はどこをどう切り刻んでも、その断面は必ず「皮」になるのです。

皮は電気を通すけれど、果肉の部分は絶縁体になるとしましょう。そう聞くとカンの良い人は「これは次世代の半導体もしくは高性能な電子デバイスとして使えるのではないか」と思うはずです。「その通り!」なのです。

もしも、リンゴが「内部が絶縁体だけれど外部は通電するという性質を持つ物質」で構成されていれば、断面が必ず皮になるのは特に不思議なことではないことがご理解いただけると思います。

さて、このトポロジカル物質は、米ワシントン大学のデイヴィッド・ジェームズ・サウレス(David James Thouless)氏ら3人が「トポロジカル相転移と物質のトポロジカル相の理論的発見」に対して2016年にノーベル物理学賞を受賞したことで一躍脚光を浴びましたが、トポロジカル絶縁体(topological insulator)自体は、ペンシルベニア大学のチャールズ・L・ケーン(Charles Lewis Kane)らによって2005年には提唱されていました。

そして日本で最も分かりやすい「トポロジカル物質」の解説書を作ったのが、今回講師としてお招きした長谷川修司先生でしょう。

長谷川先生は、物性物理学の専門家です。半導体や金属、トポロジカル絶縁体などの結晶表面上で形成される原子層の超薄膜、原子鎖、クラスター、ナノメータスケール構造体、などの構造物性、電子物性、機能特性などを多角的に研究されています。原子配列構造、電子状態、電子・スピン輸送特性、相転移、構造マニピュレーションなどを、電子回折・顕微鏡、走査トンネル顕微鏡、光電子分光法、微視的4端子プローブ法などの実験手法を駆使して研究するのだそうです。事前打ち合わせさせていただいた時の感想としては、素粒子物理学と大差ない領域に到達されている、と感じました。

先にご紹介した(ノーベル賞受賞者の)サウレスらが「トポロジー(位相幾何学)の考え方を援用していることを強調した点」はマーケティング的にはなかなか上手だけれど、実際は少し違うんだよな、と長谷川先生はおっしゃいます。ではどう違うのかも含め、トポロジカル物質の可能性をたっぷり語っていただくことにしましょう。「対称性の破れ」「スピン流」「量子ホール効果」「ベリー位相」「ワイル粒子」「マヨラナ粒子」「アクシオン」「スピントロニクス」「仮想磁場」というような不思議な言葉が、次から次へと繰り出されるはずです。少々ハードルの高い講義になるかもしれませんが、次世代の半導体の可能性を知りたい人はぜひ6日の「シュレディンガーの水曜日」にお集まりください。(竹田)

募集要項
7月6日(水曜日)19:30開始
20世紀が半導体の世紀なら、21世紀はトポロジカル物質の世紀である

長谷川 修司(はせがわ・しゅうじ)東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授長谷川 修司(はせがわ・しゅうじ)東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授
1960年生。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修士課程修了。理学博士。日立製作所基礎研究所研究員、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻助手、同助教授、同准教授を経て、現在は東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授。専門は固体表面およびナノスケール構造の物性。

・日程:2022年7月6日(水曜)19:30から45分間が講義、その後参加自由の雑談になります。
・Zoomを利用したオンラインイベントです。申し込みいただいた方にURLをお送りします。
・参加費:無料
・お申し込み:こちらのPeatixのページからお申し込みください。


「シュレディンガーの水曜日」は、毎週水曜日19時半に開講するサイエンスカフェです。毎週、国内最高レベルの研究者に最先端の知見をご披露いただきます。下記の4人のレギュラーコメンテータが運営しています。

原正彦(メインキャスター、MC):東京工業大学・物質理工学院応用科学系 教授原正彦(メインコメンテータ、MC):東京工業大学・物質理工学院・応用化学系 教授
1980年東京工業大学・有機材料工学科卒業、1983年修士修了、1988年工学博士。1981年から82年まで英国・マンチェスター大学・物理学科に留学。1985年4月から理化学研究所の高分子化学研究室・研究員。分子素子、エキゾチックナノ材料、局所時空間機能、創発機能(後に揺律機能)などの研究チームを主管、さらに理研-HYU連携研究センター長(韓国ソウル)、連携研究部門長を歴任。現在は東京工業大学教授、地球生命研究所(ELSI)化学進化ラボユニット兼務、理研客員研究員、国連大学客員教授を務める。

今泉洋(レギュラーコメンテータ):武蔵野美術大学・名誉教授今泉洋(レギュラーコメンテータ):武蔵野美術大学・名誉教授
武蔵野美術大学建築学科卒業後、建築の道を歩まず、雑誌や放送などのメディアビジネスに携わり、'80年代に米国でパーソナルコンピュータとネットワークの黎明期を体験。帰国後、出版社でネットワークサービスの運営などをてがけ、'99年に武蔵野美術大学デザイン情報学科創設とともに教授として着任。現在も新たな表現や創造的コラボレーションを可能にする学習の「場」実現に向け活動中。

増井俊之(レギュラーコメンテータ):慶應義塾大学環境情報学部教授増井俊之(レギュラーコメンテータ):慶應義塾大学環境情報学部教授
東京大学大学院を修了後、富士通、シャープ、ソニーコンピュータサイエンス研究所、産業技術総合研究所、米Appleにて研究職を歴任。2009年より現職。『POBox』や、簡単にスクリーンショットをアップできる『Gyazo』の開発者としても知られる、日本のユーザインターフェース研究の第一人者だがIT業界ではむしろ「気さくな発明おじさん」として有名。近著に『スマホに満足してますか?(ユーザインタフェースの心理学)(光文社新書)など。

竹田茂(司会進行およびMC):スタイル株式会社代表取締役/WirelessWireNews発行人竹田茂(司会進行およびMC):スタイル株式会社代表取締役/WirelessWireNews発行人
日経BP社でのインターネット事業開発の経験を経て、2004年にスタイル株式会社を設立。2010年にWirelessWireNewsを創刊。早稲田大学大学院国際情報通信研究科非常勤講師(1997〜2003年)、独立行政法人情報処理推進機構・AI社会実装推進委員(2017年)、編著に『ネットコミュニティビジネス入門』(日経BP社)、『モビリティと人の未来 自動運転は人を幸せにするか』(平凡社)、近著に『会社をつくれば自由になれる』(インプレス/ミシマ社)、など。

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