国際的睡眠研究のプロフェッショナルをマネージしつつ、自分自身が睡眠研究者として成長する方法
Think Global, Act Local
2022.11.09
Updated by Schrodinger on November 9, 2022, 17:25 pm JST
Think Global, Act Local
2022.11.09
Updated by Schrodinger on November 9, 2022, 17:25 pm JST
サイモン&ガーファンクル(Simon & Garfunkel)の初期の名曲に『Wednesday Morning, 3 AM(水曜の朝、午前3時)』があります。犯罪を犯したために、愛する彼女の安らかな寝顔を確認しつつ、午前3時にはそこを立ち去らねばならない、という内容ですが、私(竹田)は、水曜日に限らず、必ず毎日午前3時に飼っている猫に「腹減った、メシ食わせろ」と叩き起こされます。おかげでこちらは毎日睡眠不足なのですが、歳を重ねると長時間の深い睡眠は難しくなる、という通説もあります。
理由を調べるべく文献を漁ってると、これまたすぐに眠くなる。結局、深い読書もできず、深い睡眠も得られない。そもそも、なぜ私たちは寝なければ生きていけないのか、という基本的なこともあまりよく分かっていません。そこに人生の約1/3を費やす以上、何か深遠な、そして真の健康を実現するための理由があるのだろうとは思いますが、このような面倒なことを考えていると必ず眠気が襲ってきます。この「眠気」の正体もまたよく分かりません。
これらの疑問・難問を解明すべく立ち上がったのが、筑波大学・国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)です。今や世界を代表する国際的睡眠研究機関になったと言っても過言ではないでしょう。木村昌由美さんは、この機関で錚々たる睡眠の研究者たちをマネージする立場にある研究者です。自分の寝る間を惜しんで、神経科学・創薬科学・実験医学を統合した研究を重ねている猛者(もさ)を束ねていくのはさぞかし大変だろうな、と想像する訳ですが、木村さんにはおそらくそれを可能にする何か独特の研究マネジメント論があるのではないか、そこから近い将来の研究の方法論が探り出せるかも、というのが今回の「シュレディンガーの水曜日」の狙いの一つです。
加えて私たちは、木村さん自身が非常にユニークな研究者歴をお持ちである、という点に着目しました。まず、アメリカ留学中のポスドク時代に、感染時に眠気が増加する原因物質が免疫性サイトカイン(cytokine:免疫系細胞から分泌されるタンパク質。数百種類あるが、インターフェロンもその一つ)であることを突き止め、日本に戻ってから留学中に発想を得た「妊娠・更年期に着目した研究」を行いました。
その研究が、あのマックスプランク精神医学研究所の目にとまることになります。同研究所は、Emil Kraepelinが1917年に創設した基礎精神医学の専門機関を母体とし、現在はうつ病やPTSDなどの気分障害(ストレス性疾患)を中心に臨床・研究を行なっています。ここで木村さんは、ストレスに伴う睡眠障害のメカニズムの研究に注力しつつグループリーダーを務め、同研究所に15年間在籍することになります(研究者冥利に尽きますね)。
どうやら木村さんは、長い研究者としてのキャリアの節目となるところで「定期的に運をつかんでいる」ように見えます。これもまた実力のうち、なのかもしれませんが、運をつかむ方法論などがあるのなら、ぜひそれもお聞きしたいところです。今後、研究者を目指す若手にとっても木村さんの「運のつかみ方」は参考になるはずです。
というわけで、今回はこの2つのテーマを軸に、私たちがすぐに利用可能な「睡眠に関する知見」も併せてお聞きしつつ、当日の「シュレディンガーの水曜日」が終了した夜は、みんなで安眠を貪ろう、という魂胆です。「水曜の夜、午後7時半」にお集まりください。(竹田)
木村昌由美(きむら・まゆみ)
筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構・事務部門長
金沢大学理学部生物学科出身(理学修士)。東京医科歯科大学で井上昌次郎教授に師事し博士号(生理学専攻)を取得後、同大の研究室在籍中(1989-2003)にテネシー大学(1989-2003)、テキサス大学(1994-1995)、ルイジアナ州立大学(1995-1996)、チューレン大学(1997-1998)へ留学。2003年末からドイツのマックス・プランク精神医学研究所においてグループリーダー。2018年6月より帰国し、東京大学WPIニューロインテリジェンス国際研究機構へ着任、研究マネジメントに携わる。2020年7月より、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の副事務部門長として研究戦略ユニットに参加。2021年4月より事務部門長。日本睡眠学会評議員、欧州睡眠学会学術委員(2012-2016)、Sleep and Biological Rhythms (Springer) Associate Editor 、東京都医学総合研究所客員研究員、埼玉医科大学 非常勤講師、新宿交響楽団のチェロ奏者でもある。
・日程:2022年11月16日(水曜)19:30から45分間が講義、その後参加自由の雑談になります。
・Zoomを利用したオンラインイベントです。申し込みいただいた方にURLをお送りします。
・参加費:無料
・お申し込み:こちらのPeatixのページからお申し込みください。
「シュレディンガーの水曜日」は、毎週水曜日19時半に開講するサイエンスカフェです。毎週、国内最高レベルの研究者に最先端の知見をご披露いただきます。下記の4人のレギュラーコメンテータが運営しています。
原正彦(メインコメンテータ、MC):東京工業大学・物質理工学院・応用化学系 教授
1980年東京工業大学・有機材料工学科卒業、1983年修士修了、1988年工学博士。1981年から82年まで英国・マンチェスター大学・物理学科に留学。1985年4月から理化学研究所の高分子化学研究室・研究員。分子素子、エキゾチックナノ材料、局所時空間機能、創発機能(後に揺律機能)などの研究チームを主管、さらに理研-HYU連携研究センター長(韓国ソウル)、連携研究部門長を歴任。現在は東京工業大学教授、地球生命研究所(ELSI)兼務、理研客員研究員、ロンドン芸術大学客員研究員を務める。
中山知信(レギュラーコメンテータ):物質・材料研究機構(NIMS)グローバル中核部門長兼広報室長
1988年東京工業大学大学院・材料科学専攻修士修了(1999年博士(理学)、東京大学)。1991年、理化学研究所・表面界面工学研究室に移籍し、原子操作技術、ナノ物性研究に従事。2002年、物質・材料研究機構(NIMS)に異動。国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANA)PI、同拠点副拠点長および事務部門長、若手国際研究センター副センター長などを歴任。現在は、NIMSグローバル中核部門長と広報室長として研究の活性化に尽力。
澤田莉沙(司会進行およびMC):物質・材料研究機構(NIMS)広報部門
大阪大学大学院生命機能研究科にて博士(理学)を取得。生命機能のアウトリーチ活動のため水族館で勤務した後、分野の垣根を超えた科学全般の普及活動に従事。2020年より物質・材料研究機構にて材料分野の広報活動を担当。個人活動として国内外の科学コミュニケーション活動を網羅的に調査し、コミュニティ同士のゆるい繋がりや情報共有ネットワークの構築を模索中。科学コミュニケーション研究会 運営メンバー。
竹田茂(司会進行およびMC):スタイル株式会社代表取締役/WirelessWireNews発行人
日経BP社でのインターネット事業開発の経験を経て、2004年にスタイル株式会社を設立。2010年にWirelessWireNewsを創刊。早稲田大学大学院国際情報通信研究科非常勤講師(1997〜2003年)、独立行政法人情報処理推進機構・AI社会実装推進委員(2017年)、編著に『ネットコミュニティビジネス入門』(日経BP社)、『モビリティと人の未来 自動運転は人を幸せにするか』(平凡社)、近著に『会社をつくれば自由になれる』(インプレス/ミシマ社)、など。
おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)
登録はこちらオンラインイベント「シュレディンガーの水曜日」の運営事務局です。東京工業大学・物質理工学院・原正彦研究室の協力の下、WirelessWireNewsが主催するオンライン・サイエンスカフェです。常識を超えた不思議な現象に溢れた物質科学(material science)を中心に、日本の研究開発力の凄まじさと面白さを知っていただくのが目的です。