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飯島澄男(いいじま・すみお) 名城大学終身教授・国立研究開発法人 産業技術総合研究所 名誉フェロー

なぜ私はカーボンナノチューブ(CNT)を発見できたのか

Why was I able to discover carbon nanotube

2023.04.25

Updated by Schrodinger on April 25, 2023, 18:45 pm JST

炭素(carbon:原子番号6)は、単体としての地球上における重量は0.08%に過ぎませんが、最外殻(一番外側にある電子軌道)の電子数が4という特徴から他の元素と非常に結びつきやすいという性質があり、地球上に存在する 7,000万種類を超える化合物のおよそ80%が炭素を含んでいます(これが有機化合物ですね)。

食品から石油まで、そして人体そのものも、そうですが、人類が必要とするものすべてに炭素が含まれていると言っても過言ではありません。そもそも人類の貯蔵可能なエネルギーの歴史も、木を不完全燃焼させてできた木炭から始まっています。人類の歴史は、炭素の高度化利用の歴史とも言えるくらいです。

従って、環境省が「脱炭素ポータル」などというプロパガンダ・サイトで「脱炭素」を連呼することによる若年層に対する教育的悪影響が懸念されます。どうしても脱炭素を主張したいのなら、植物が「脱酸素」を主張する権利を認めてから、でしょう。

本来、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることが目的だったはずですが、これが「脱炭素」というプロパガンダになってしまうと、取り返しのつかない誤解が蔓延することが懸念されます。プロパガンダは、連呼しやすい短い言葉になると誤解が増幅され、一人歩きを始めます。その時、「いや、そういう意味で主張したわけではない」という言い訳は全て削ぎ落とされてしまいます。

先に申し上げた通り、「人類の歴史は炭素の高度利用の歴史」なので、さらなる炭素の高度利用という観点での技術開発と問題解決が望まれているはず、と思うのです。

近年の炭素の高度利用としては、1985年のフラーレン(fullerene:炭素原子が球状の構造 = 優れた超伝導体としての活用)の発見、そしてそのフラーレンの大量合成方法の発見(1990年)、さらに衝撃的だったのは、その翌年に発表された、当時NEC基礎研究所に在籍されていた、そして今回話題提供をお願いした飯島澄男氏によるカーボンナノチューブ(CNT)の発見です(この時に公開された論文は今も引用され続け、歴代被引用論文ベスト100の第36位に入っています)。

カーボンナノチューブの最大の特徴は、これが地球上で論理的・科学的に考えられる最も強靭な材料、ということです。そもそも炭素繊維(carbon fiber)が強靭なのは、それが「炭素原子同士だけ」の結合だから、ですが、カーボンナノチューブにはその炭素繊維よりも遥かに高密度で規則的という性質があります。欠陥のないカーボンナノチューブで作った直径1cmのロープは1200トンの重量物を釣り上げることが可能なのだそうです。なんだか凄いです。

今回の「シュレディンガーの水曜日」では、なぜこんな発見が可能だったのか、他にも似たような研究をしていた研究者がたくさんいたはずなのに、なぜ飯島氏だけがカーボンナノチューブを発見できたのか、当時の研究体制や飯島氏の思考の軌跡などをご本人から語って頂きつつ、若い研究者に対して研究の進め方に関するアドバイスをいただければ、と考えています。(竹田)

注1)今回は『炭素文明論』(佐藤健太郎 著、新潮選書、2013)で紹介されている数値を適宜引用させていただきました。「脱炭素」がいかに理不尽なキャンペーンかが素人にもよくわかるように記述されているので、ご一読をお勧めします(私が購入した同著はすでに8刷でした)。

5月17日(水曜日)19:30開始
なぜ私はカーボンナノチューブ(CNT)を発見できたのか

飯島澄男(いいじま・すみお) 名城大学終身教授・国立研究開発法人 産業技術総合研究所 名誉フェロー飯島澄男(いいじま・すみお)
名城大学終身教授・国立研究開発法人 産業技術総合研究所 名誉フェロー

1963年電気通信大学電気通信学部電波通信学科卒、68年東北大学大学院理学研究科物理学専攻博士課程修了、68-74年東北大学科学計測研究所助手、70-82年米国アリゾナ州立大学固体科学研究センター研究員、79年英国ケンブリッジ大学客員研究員、82-87年新技術開発事業団(現 科学技術振興機構)創造科学推進事業 林超微粒子プロジェクト基礎物性グループ グループリーダー、87年からNEC特別主席研究員、99年から名城大学教授、2001-15年独立行政法人 産業技術総合研究所ナノチューブ応用研究センター長、05-12年成均館大学(韓国)ナノテクノロジー先端技術研究所所長、07年から名古屋大学 特別招聘教授、10年から名城大学終身教授、15年から国立研究開発法人 産業技術総合研究所 名誉フェロー

・日程:2023年5月17日(水曜)19:30から45分間が講義、その後、参加自由の雑談になります。Zoomミーティング形式で実施します。
・「シュレディンガーの水曜日」は2023年5月から招待制に移行しました。ご了承ください。


「シュレディンガーの水曜日」は、水曜日19時半に開講するサイエンスカフェです。毎週、国内最高レベルの研究者に最先端の知見をご披露いただきます。下記の4人のレギュラーコメンテータが運営しています。

原正彦(メインコメンテータ、MC):ドイツ・アーヘン工科大学 シニア・フェロー原正彦(メインコメンテータ、MC):ドイツ・アーヘン工科大学 シニア・フェロー
1980年東京工業大学・有機材料工学科卒業、83年修士修了、88年工学博士。81年から82年まで英国・マンチェスター大学・物理学科に留学。85年4月から理化学研究所の高分子化学研究室研究員。分子素子、エキゾチックナノ材料、局所時空間機能、創発機能、揺律機能などの研究チームを主管、さらに理研-HYU連携研究センター長(韓国ソウル)、連携研究部門長を歴任。2003年4月から東京工業大学教授。現在はアーヘン工科大学シニア・フェロー、東京工業大学特別研究員、熊本大学大学院先導機構客員教授、ロンドン芸術大学客員研究員を務める。

中山知信(レギュラーコメンテータ):物質・材料研究機構(NIMS)グローバル中核部門長兼広報室長中山知信(レギュラーコメンテータ):物質・材料研究機構(NIMS)グローバル中核部門長兼広報室長
1988年東京工業大学大学院・材料科学専攻修士修了。91年、理化学研究所・表面界面工学研究室に移籍し、原子操作技術、ナノ物性研究に従事。2002年、物質・材料研究機構(NIMS)に異動。08年からは、国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANA)PI、同拠点副拠点長および事務部門長、若手国際研究センター副センター長を務める。現在は、NIMSグローバル中核部門長と広報室長を兼務して研究の活性化に力を入れている。

澤田莉沙(司会進行およびMC):物質・材料研究機構(NIMS)広報部門澤田莉沙(司会進行およびMC):物質・材料研究機構(NIMS)広報部門
大阪大学大学院生命機能研究科にて博士(理学)を取得。生命機能のアウトリーチ活動のため水族館で勤務した後、分野の垣根を超えた科学全般の普及活動に従事。2020年より物質・材料研究機構にて材料分野の広報活動を担当。個人活動として国内外の科学コミュニケーション活動を網羅的に調査し、コミュニティ同士のゆるい繋がりや情報共有ネットワークの構築を模索中。科学コミュニケーション研究会 運営メンバー。

竹田茂(司会進行およびMC):スタイル株式会社代表取締役/WirelessWireNews発行人竹田茂(司会進行およびMC):スタイル株式会社代表取締役/WirelessWireNews発行人
日経BP社でのインターネット事業開発の経験を経て、2004年にスタイル株式会社を設立。10年にWirelessWireNewsを創刊。早稲田大学大学院国際情報通信研究科非常勤講師(1997-2003年)、独立行政法人情報処理推進機構・AI社会実装推進委員(2017年)、編著に『ネットコミュニティビジネス入門』(日経BP社)、『モビリティと人の未来 自動運転は人を幸せにするか』(平凡社)、近著に『会社をつくれば自由になれる』(インプレス/ミシマ社)、など。

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