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熟練者でも遭遇する雪崩事故。「北海道大学山岳部雪崩遭難事故」の教訓

2024.01.18

Updated by WirelessWire News編集部 on January 18, 2024, 12:03 pm JST


経験も知識も豊富。雪崩についての意識も高いパーティーだった

今井明子(以下、今井):今回のテーマは雪崩です。北海道大学山岳部雪崩遭難事故について教えていただけますか。

大矢康裕(以下、大矢):この事故に遭ったのは、北海道大学山岳部の6人のパーティーです。このパーティーは、1965年3月11日に日高山脈に入山しました。日高山脈は当時、整備された登山道がなく、本当に山の技術がないと登れない場所です。

パーティーは日高山脈の札内岳から流れている札内川をさかのぼり、そこから稜線に登ってカムイエクウチカウシ山や神威岳、そして百名山にも入っている幌尻岳にアタックしてから下山する計画でした。

なお、「カムイエクウチカウシ」というのはアイヌの言葉で「クマが転げ落ちる」という意味で、それだけ険しい山だということを示しています。これだけの山を登るので、日程も長くとっていて、24日に戸蔦別川(とったべつがわ)から八千代に下山する計画でした。

パーティーは、1日目の12日には札内川の八ノ沢と呼ばれる場所で泊まりました。そして13日は1日中雪が降る中進み、十ノ沢付近で雪洞という雪の洞穴を掘って泊まりました。

北海道大学山岳部は、今もそうかもしれませんが、当時テントを持って行かずに雪洞を掘って泊まるのが伝統だったようです。そして、ちょうど同じような時期に北海道大学の山スキー部が似たような場所に入っていて、この山岳部のパーティーが雪洞を掘っているところを目撃しています。これが遭難者の発見につながりました。

今井:雪洞っていうのはかまくらみたいなものなんでしょうか。きっとかまくらの中のように暖かいんですよね?

大矢:そうですね。風がさえぎられて、慣れると結構快適です。テントというのは風が強いとバタバタ鳴ってうるさいので、相当神経が太くないとなかなか眠れたものではないんですよ。

今井:雪の深いところに何度も行っているようなパーティーだから、テントなんてそもそも要らないし、掘ってしまった方が早いだろうという感じなんですね。

大矢:まあ、掘るのは大変ですけどね。だから1人では無理なので、パーティーで何人か協力して雪洞を作るんです。で、この雪洞は川から3メートルほどの高さに作りました。これは雪崩を意識してのことですね。

今井:雪崩はまず低いところに流れるから、一番低い川のすぐそばだと危ないので、それよりも高い場所に作ったということなんですね。

大矢:そうです。十ノ沢のところから稜線に出る予定だったのですが、十ノ沢自体がへこんでいて、雪崩の危険があるので、そこからは離れた反対側のところに雪洞を作ったのです。そして、ちょうど雪洞が作られた場所の上は崖のような急斜面になっていたので、この場所が一番高いところだったのでしょう。もし雪がなければ川から10メートル程度の高さの場所だったのですが、雪が積もっていたので川から3メートルの高さになりました。

また、雪洞は川のカーブの内側に作られていました。もし川伝いに雪崩が流れていくのであれば、川の流れと同じでカーブの外側のほうがスピードが速くなるんです。パーティーが雪崩の流れが比較的弱くなるカーブの内側に雪洞を作っていたことからも、本当に経験と知識が豊富だったことがうかがえます。

※本稿は、モダンタイムズに掲載された記事の抜粋です(この記事の全文を読む)。
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