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日本を支配する、暗号と空気のダイナミズム

2024.02.08

Updated by WirelessWire News編集部 on February 8, 2024, 07:09 am JST


英語にはない「甘え」のニュアンス

かつて土居健郎という精神分析医が書いた『「甘え」の構造』という本が大ベストセラーになったことがある。この本は、日英両方の言葉をしゃべれる外国女性が、自分の子供について英語で語っていた時に、「この子はあまり自分に甘えない」という部分だけ日本語でしゃべって土居が驚いたという逸話から始まる。その理由を聞くと、この内容は英語では表現できないからだという。

この出来事から著者は、日本語でしか言えないような様々な表現をてこに、日本独自の精神構造を分析するという独創的な立場を打ち出した。結果、この本は斬新な日本人論としてバカ売れし、噂ではその収益で出版社が立派なビルを立てたというが、真偽のほどは定かではない。

実際、英語では「甘やかす」はspoilだが、これはいきなり否定的である。(自発的に)甘えるという言い方は、behave like a child とか、fawn on(媚びる、お世辞をいう)という訳が書いてあるが、これではおちおち甘えることすらできない。

この本は英訳もされたが、タイトルはThe Anatomy of Dependence、つまり甘えは「依存」になってしまっている。しかし甘えるという言葉が持つ、微妙に肯定的なニュアンスは、この訳語では表せない。英語では、independence(独立、自立)が基本的に称賛すべきな姿勢で、dependenceはよろしくない。他方甘えは、あまりベタベタされても困るが、しかし全く甘えないというのも何か寂しい感じもする。たまたま学生時代にこの英訳者と会う機会があったが、その点について問うと、他に訳しようがなかった、と困惑した表情で答えていた記憶がある。

元祖フロイト(S.Freud)の精神分析は、彼のユダヤ教的背景の影響からか、父子関係を非常に強調する内容だったが、研究が進むにつれ、特に英国を中心とした対象関係学派と呼ばれる一派の間から、フロイトが軽んじていた母子関係を精査する流れが生まれた。バリント(M.Balint)という精神分析医のように、「受動的対象愛」という概念によって、殆ど甘えに似た内容の感情をそこに見い出した。日常用語では明示されていないものの、詳細に分析してみると、甘えに似た関係性が分かってきたのである。

※本稿は、モダンタイムズに掲載された記事の抜粋です(この記事の全文を読む)。
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