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特別展「帰って来た橋本治展」 神奈川近代文学館で開催中(6月2日まで)

2024.05.17

Updated by WirelessWire News編集部 on May 17, 2024, 07:46 am JST

社会や世界がどうしようもなくぐらついてきたとき、
人びとは「橋本さん」を発見せざるを得なかった

これは、2019年4月に刊行された『そして、みんなバカになった』(橋本治著、河出新書)の「はじめに」と「おわりに」の執筆をご担当された作家の高橋源一郎さんの「おわりに」の中に出てくるフレーズです。

神奈川近代文学館で特別展「帰って来た橋本治展」が開催されています(6月2日まで)。ポスター、編み物、自筆原稿など約450点が、1)橋本治自身の歴史、2)作家としての仕事の歴史、3)美術系の仕事の歴史、の3ブロックに分けられ展示されています。

度肝を抜かれるのは受付入口で一番最初に私たちを迎えてくれる、大きなプロジェクタに映し出された橋本治のドキュメンタリー映像です。これは橋本治と岡田嘉夫(グラフィックデザイナー)が、2006年の着手から刊行まで8年を費やした特装本『マルメロ草紙』の制作過程を記録した映像で、関係者と白熱した議論をしている、まだ元気だった頃の橋本治に会うことができます。80分に及ぶ記録映像の上映会はすでに満員御礼のようですが「反響がすごく、劇場で一般公開する話も出てきています。(神奈川近代文学館・池上 聡さん)」とのことです。

さて、橋本治(1948-2019)は、1968年(昭和43年)に開催された第19回駒場祭で「とめてくれるなおっかさん」のキャッチコピーとともに描いたポスター(この記事冒頭の写真)で一躍有名になったわけですが、これはこの後の彼の様々な分野での仕事ぶりを見ると、少し誤解を招くデビューだったかな、という気がします。

私(竹田茂・local knowledgeプロデューサー)自身が「この人、すごいかも」と思ったのは、雑誌・広告批評(2009年4月休刊)で1997年1月から開始した連載「ああでもなくこうでもなく」に出会ったのがきっかけなので、古くからの熱心な橋本ファンとは言い難いのですが、彼の才能は「いろいろな制度やモノの構造の時空間的変化を分析し、読み解き、その構造の未来を予見する知性、考え方そのものに対する考え方」にあるような気がします。

これが「評論」という形をとることもあれば、「小説」になる場合もあり、「美術史」になったり、あるいは「編み物」、そして「イラスト」になるので、作品だけを見ていると「様々な分野で活躍する才気あふれるマルチタレント」に見えるのですが、彼の本質的な魅力は「言語学と文化人類学の基本構造を読み解いて、再構築していく科学者としての深い資質」にあったような気がします(ご本人は単に「作家」として認められたかっただけかもしれませんが)。

ですから、政治やメディアから信頼が失われた今こそ、橋本治の著作を「副読本」として活用すべきなのです。幸い、彼の著作は経時劣化しにくいので、何を読んでもいいのですが、絶版になってしまった著作も多いので、一応書棚に60~70冊程度の橋本本がある「遅れてやってきた橋本ファン」の私からの「さらに遅れてこれからやってくるかもしれない橋本ファン予備軍」の方には下記の本がおすすめかな、と思います。弊社(スタイル株式会社)で制作した動画(初台にあった橋本治事務所での収録)も併せてご覧いただければ幸いです。

二十世紀(上/下)

著者:橋本治
出版社:ちくま文庫
発売日:2004/10/6


二十世紀(上/下)

宗教なんかこわくない!

著者:橋本治

出版社:ちくま文庫

発売日:1999/08/24


宗教なんかこわくない!

また、以下の2冊は「帰って来た橋本治展」で販売しています。

はじめての橋本治論

著者:千木良 悠子

出版社:河出書房新社

発売日:2024/03/27


はじめての橋本治論

橋本治「再読」ノート

著者:仲俣暁生

出版社:破船房

発売日:2024/04/


橋本治「再読」ノート

橋本治の映像講義(YouTube)

1. 日本の学校教育はなぜ身に沁みないのか
2. 必要なのは「教科書」ではなく「副読本」である
3. 会社は「律令国家」とおなじ仕組みで動いている
4. 「女帝の時代」をみれば現代の日本がわかる

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