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ChatGPTの財政危機から学ぶAI開発の問題点

Learning from ChatGPT's issues

2024.07.27

Updated by Mayumi Tanimoto on July 27, 2024, 13:31 pm JST

ここ数年、AIといえばChatGPTですが、最近発表された「The Informationの報告書」はChatGPTのみならずAI開発の問題が指摘されています。

同レポートによれば、ChatGPTの開発と運用コストは約20億ドルの収益を上回っており、今年だけで約50億ドルを失う可能性があるとされています。収入源は、ユーザーから徴収するLLMのアクセス費用になりますが、開発と運用費が約70億ドルと巨額です。

まず、モデルのトレーニングに巨額の費用がかかっており、約30億ドルに達します。さらに支出のうち約40億ドルはMicrosoftのAzureクラウド・プラットフォームのコストで、ChatGPTの推論機能の強化に必須であり、なんと35万台のサーバーがChatGPTのために常時稼働しているといいます。

予想を超える開発と運用のコストは驚くべきものです。このような非常に具体的かつあからさまな数字を見ると、業界トップのChatGPTといえども、 収益化を目指すにはまだまだ道のりが長く思ったほど大きな収入は得られないということが見えてきます。

コストのうち30億ドルがトレーニングのコストということは、AIを強化するために相当量の情報をインプットしなければならないということが分かります。もっともこれは、最近判明したことでもなく、1950年代から分かり切っていたことでもあります。AIといっても基本は電算機でありますから、質の良いデータを大量に投入できなければ使えるアウトプットが出てきません。AIをビジネスに生かすにしても、このインプットのコストを十分に理解していない経営者があまりにも多いと言えます。

そして、インフラのコストも予想以上です。世間一般の感覚だと、AI企業というのは独立した存在のような感覚ですが、安定したサービスを提供できる大手ITや通信企業に依存しなければ運用が不可能です。ChatGPTに依存しなければビジネスが運営できないというのは、皮肉なことです。

つまり、こういった技術力がありサービス運用が安定した大手ITや通信企業のインフラにアクセスできなければ、リソースを大量に消費するAI企業は開発も運用も厳しいということです。

AI時代でも、勝ち組はMicrosoftのような企業ということになります。この構図は、なんとなくITバブルの頃のネットコンテンツ企業を思い起こさせます。当時も、数多くのスタートアップが生まれましたが、結局、儲かったのはインフラ提供企業でした。

また、もう一つの視点としては、アメリカの企業にアクセスが制限されている国の企業は、AI開発でも運用でもかなり不利になるということがあります。そう考えると、ロシアや中国、あるいは新興国などは、かなり不利になるのではないでしょうか。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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