写真:PeopleImages.com - Yuri A / shutterstock
AIがもたらす「感覚」の変化。新技術は生まれるたびに人の知覚を変えてきた
2024.08.06
Updated by WirelessWire News編集部 on August 6, 2024, 10:52 am JST
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2024.08.06
Updated by WirelessWire News編集部 on August 6, 2024, 10:52 am JST
新技術がもたらすのは、利便性や速効性だけではない。それは人の感覚そのものに変化をもたらす。かつてガラスが人類にもたらした感覚の変化を紐解き、AI技術が何を供しようとしているのかを考えるヒントにしてみよう。
写真や映画などの複製技術は、知覚の変化をもたらす
広大な歴史の時間の内部で、人間集団の相対的な存在様式が変化するのにともなって、人間の知覚のあり方も変化してゆく。人間の知覚がどのように組織化されるか、すなわち「人間の知覚が生じる場である媒質メディウム」は、自然の条件だけでなく、歴史的条件にも制約されるのである。
ヴァルター・ベンヤミン「技術的複製可能性の時代の芸術作品」(1935年)
写真や映画などの「技術的複製」に関する論考の中で、このように述べるヴァルター・ベンヤミンにとって、これらの技術/メディアは、単に「一回性を克服」するためのものではなく、クローズアップやスローモーションのような様々なテクニックによって、人間の知覚のあり方を大きく変えるものでもあった。クローズアップは空間を拡大させ、スローモーションは時間を延伸させることにより、それまで見えていなかったもの、知覚されていなかったものを初めて感じ取れるようにする。そしてベンヤミンは、そうした知覚の変化をただ記述するに留まらず「知覚の変化となって現れることになった社会的大変革を明らかに」することの必要性を論じている。
前回の論考で扱ったセロハンの透明性も、そうした「歴史的条件に制約される」人間の知覚に変化をもたらしたものだといえるだろう。今回は、引き続き透明性の社会的/文化的意味に注目し、新しい技術がいかに人間の感覚体験や認識に影響を及ぼすのか、主にガラスに焦点を当てて論じることとする。
さらに後半では、AIやデジタル技術に論点を移しつつ、技術が(社会的/文化的に)「透明」になってしまうこと、つまり、私たちの意識からすり抜け所与の存在となることの意味について考えてみたい。
ガラスは「新時代をもたらすもの」だった
セロハンは、市場に出回るようになった20世紀初頭から半ばにかけて、単なる透明なパッケージフィルムとして使用されただけでなく「近代的モダン」なるモノとして様々なメディアで表象された。
同じく透明な素材であるガラスも文化的意味を獲得し、建築家やデザイナー、批評家らから注目されるようになった。ガラスは、古代から製造が始まっていたものの、大幅な技術発展により工業化が進んだのは19世紀後半である。そして20世紀以降、大量生産が可能となったことで、窓ガラスのような建材や様々な消費財の材料として広く用いられるとともに、ガラス内の不純物を除去する技術の発展で、その透明性も高まっていった。
※本稿は、モダンタイムズに掲載された記事の前半部分です。
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