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事象を科学観点からアート的感覚で捉えなおす

事象を科学観点からアート的感覚で捉えなおす

Updated by 八十雅世 on October 24, 2025, 06:22 am JST

八十雅世 masayo_yaso

情報技術開発株式会社 経営企画部・マネージャー 早稲田大学第一文学部美術史学専修卒、早稲田大学大学院経営管理研究科(Waseda Business School)にてMBA取得。技術調査部門や新規事業チーム、マーケティング・プロモーション企画職などを経て、現職。2024年4月より「シュレディンガーの水曜日」編集長を兼務。

KYOBASHI ART WALL Group Exhibition

東京駅から徒歩圏内、京橋の一角にTODA BUILDINGがあります。TODA BUILDINGは、建物低層部にはアートギャラリーやミュージアム、高層部にはオフィスフロアと、“アートとビジネスが交錯する場所”として、2024年11月に開業しました。この開業にいたるまでの建設期間中である2021年から2024年、工事現場の仮囲いを活用してアーティストの創作や発表の場を提供するプログラム「KYOBASHI ART WALL―ここから未来をはじめよう」が実施されました。そして今、このアートプログラムで入選したアーティスト、合計16名によるグループ展覧会「KYOBASHI ART WALL Group Exhibition」が、2025年7月から2026年3月まで、4期にわたってTODA BUILDINGにて開催されています。2025年10月28日(火)~11月8日(土)には、その3期目にあたる「KYOBASHI ART WALL Group Exhibition Vol.3」が行われます。

「KYOBASHI ART WALL Group Exhibition」では、アーティストたちの共通項から各期のテーマが定められています。1期目は”幼少期の自身の体験や視覚的に得たイメージから制作へと繋げているアーティスト”、2期目は“「誰か」の存在を作品に投じストーリーを立ち上がらせる作品を展開するアーティスト”、4期目は“あらゆるアプローチで疑問を浮き彫りにするアーティスト”を掲げています。そして3期目のテーマは“実験的に事象の見方を変え続け、変化を捉えて制作に繋げるアーティスト”とし、大竹 奨次郎氏、戸田 沙也加氏、そして諏訪 葵氏の作品が出展されます。

事象を「科学」でみるか、「アート」でみるか

諏訪 葵
≪Scanning Painted Moment≫
2025
スキャナー上で描画/取り込み

諏訪 葵氏は、その作品制作につながる原体験として「小学校の時に理科の先生が見せてくれた、化学反応で液体の色が変わる化学実験」を挙げています(諏訪葵 AOI SUWA)。諏訪氏は、“その時は、理科の先生がフラスコの中に液体を入れて、それを振った途端、液体の色がパッと鮮やかに変わったんです。その瞬間の美しさと驚きは、今もはっきりと覚えていますね。”といい、“化学の現象、広く言えば自然現象の美しさを、数学的に記述していくのではなくて、その驚きをそのまま残しておくことのほうにより興味があるという感じでしょうか。”と語ります(意識と無意識のあわいを映像に。科学とアートの関係を考える【アワード受賞者・諏訪葵氏インタビュー】)。

私たちはどうも、自分の身の回りに起こる事象の見方・観点を、固定・限定してしまっている節があります。化学に関する事象は、あくまで科学的アプローチで分析しなければならない、というルールはどこにもありません。しかし、無意識にそれに囚われていることはないでしょうか。ただただ「美しい」と感じてもよいのです。ものごとへの観点は、複数のものが交錯し混じり合うこともあり、そこに創造性がある。そのようなことを、諏訪氏は示唆してくれているように思えます。

さらに本展において諏訪氏は、アートの概念を科学で観測される現象のように扱う、逆向きのアプローチによる作品を発表します。≪Scanning Painted Moment≫という作品では、絵画制作に使用する道具であるペインティング・ナイフをスキャンし、美術の観念である「描き」を、ある瞬間の現象的な事実として捉え直しています。アートと科学という異なる2つの領域の境目を、諏訪氏は自由に行き来します。

事象への観点が変わる感覚を得るために、京橋に足を向けてはいかがでしょうか。

展覧会名称:KYOBASHI ART WALL Group Exhibition
会期:Vol.1 2025年7月25日(金)~8月7日(木)
   Vol.2 2025年8月26日(火)~9月6日(土)
   Vol.3 2025年10月28日(火)~11月8日(土)
   Vol.4 2026年2月26日(木)~3月11日(水)
会場:TODA BUILDING 3階 APK ROOM
〒104-0031 東京都中央区京橋1-7-1
開館時間:11:00~19:00(最終日のみ17:00まで)
休館日:日・月曜日
詳細は公式サイトをご確認ください。

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