Updated by 岩元 直久 on October 30, 2025, 06:39 am JST
岩元 直久 Naohisa Iwamoto
WirelessWire News編集長。日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。ITジャーナリスト、フリーランスライターとしても雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。
ノキアがAIを核にしたネットワークの変革に注力している。「ノキアは時代や業界、顧客の要望に基づき、ポートフォリオを柔軟に変更してきた。携帯電話、5Gが普及し、今度はAIが一般個人レベルでも普及し始めている。AIに対するネットワークがますます重要になっている中で、ネットワークが感知し、考え、行動する未来を目指した『AIネイティブなネットワーク』が顧客のビジネス基盤になる」。ノキアソリューションズ&ネットワークス 代表執行役員社長の加茂下哲夫氏は、2025年10月に日本で開催された同社イベント内でこう語った。
そうしたノキアのAIへの取り組みが新たなステップに入ったことを示したのが、2025年10月28日に発表されたノキアとNVIDIAの戦略的パートナーシップの締結だ。NVIDIAはノキアに対し10億ドルの出資をし、6G向け AI ネイティブなモバイルネットワークとAIネットワークインフラストラクチャの開発と展開を加速する。NVIDIAの技術を搭載した商用グレードのAI-RAN(無線アクセスネットワーク)製品が、ノキアのポートフォリオに追加されることになる。通信事業者にとっては、NVIDIAプラットフォーム上でAIネイティブの5G-Advancedおよび6Gネットワークを構築できるようになる。
6GではAIが無線のデザインに組み込まれる
AIネイティブなネットワークの実現に向けて動き出したノキアとNVIDIA。その兆しは、10月の東京のイベントにも現れていた。ノキア フェロー 特別研究員のハリー・ホルマ氏は、「ノキアの無線ネットワークを利用している通信事業者のアンケートでは、収益の最大化に向けたアーキテクチャ変更として5G SA(スタンドアロン)に次いでアプリケーションAI(AI-on-RAN)、エッジコンピューティング(AI-and-RAN)への注目が高い。デバイス側もAI・XR製品の進化によりネットワークへの要件を高度化させている。アップリンクのパフォーマンスがより要求されるようになり、効率を高められる6Gがユースケースを可能にする」と語る。
そうした中で、ホルマ氏は「6Gでは、AIは無線のデザインに組み込まれていく。AIにより、無線リンクのパフォーマンスを上げる無線の効率化や、消費電力削減とスループット向上の実現、ビームフォーミングの効率化などが可能になる。モビリティのパフォーマンスや信頼性向上をAIで提供する」とAIの適用範囲の広さを語る。
さらに6Gでは、通信とセンシングを1つの無線基盤で提供するISAC(Integrated Sensing and Communication)が新しい価値を提供すると語る。「ドローンのセンシングや識別、交通監視、製造業などの産業、ヘルスチェック、環境など、多様な用途で6Gの無線とセンシングを組み合わせた新しい収益化の可能性が広がる」(ホルマ氏)。
運用管理の効率化もAIが支援する時代に
ノキア 製品管理部門責任者/RAN製品ラインマネジメントのブライアン・チョー氏は、「複雑性が増す6Gでは、AIによってRANのオペレーションを変革する必要がある。ノキアの運用管理プラットフォームのMantaRayにより、AIによりインテリジェントで自律的な無線ネットワーク運用が実現できる」と語る。AIと機械学習により、目的や意図(インテント)を入力するだけで、ネットワークをオーケストレーションすることが可能になり、その先では運用の自動化にもつながる。
AIはネットワークの効率化だけでなく、通信事業者にとっての新しい収益源の創出にも貢献する。固定無線アクセス(FWA)では、「5G技術を使った家庭向け通信サービスの加入者が世界で1400万人を超えた。トラフィックの半分をFWAが占める国もあり、AIによるトラフィック予測と負荷分散が不可欠になっている。6Gを待つ必要はなく、AIのメリットを享受するための機能はすでにノキアの5Gの無線機に入っている」(ホルマ氏)。 ノキアが描くAIネイティブネットワークでは、AIを通信の隅々に組み込み、設計・運用・収益化のすべてを自律的に最適化する。NVIDIAのGPUとAIアクセラレーション技術を活用し、RAN制御やトラフィック最適化をリアルタイムに行う基盤を構築することが考えられる。ノキアとNVIDIAとのパートナーシップは、こうしたAIとネットワークの蜜月化がより具体化していくことを示唆する。AIネイティブなネットワークが社会インフラとして新しい価値を提供していくための、新しい一歩が踏み出される。