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自由な楽園によるニホニウム(Nh113)の発見と「役に立たない研究」の偉大なる価値

キャヴェンディッシュ研究所(Cavendish Laboratory)ミュージアム入口(撮影:田主 裕一朗)

自由な楽園によるニホニウム(Nh113)の発見と「役に立たない研究」の偉大なる価値

The Discovery of Nh113 by RIKEN and the Great Value of "Useless Research"

Updated by Osam_Manita on November 10, 2025, 10:13 am JST

Osam_Manita Osam_Manita

小川正孝(おがわ・まさたか)博士がロンドン大学のラムゼー研究室での留学中にトリウム鉱石のトリアナイトの中に新元素を探す研究を行い、1908年に「原子量が約100の43番目の元素」を発見したと発表しましたが、追試で存在の明確な証拠が得られなかったことから発見が取り消されました。また理化学研究所・仁科芳雄(にしな・よしお)博士も1940年にサイクロトロンによって発生した速い中性子による「新同位元素ウラン237」が負電子放出のベータ崩壊を通じて93番新元素となることを発見し、論文発表しましたが、半減期が非常に長かったため、その崩壊系列の中に化学分離できず、結果として新元素発見が承認されませんでした。

一方、理化学研究所の新元素発見計画は「ジャポニウム計画」と名付けられ、今回「シュレディンガーの水曜日」にご登場いただく森田浩介博士を中心に2000年ごろから本格的に実験を続け、原子番号113番の新元素名「ニホニウム」の発見・合成に成功しました。この新元素名と新元素記号「Nh」は周期表に初めて日本発の名前が入ることになり、先述の小川博士あるいは仁科博士らによる新元素発見に成功したとしながら認定されなかった歴史に終止符を打つ快挙となりました。

しかし同時にこの“快挙”は私たちの日常生活を便利にしてくれるものではありません。要するに「役に立たない」わけです。しかしこの「役に立つ/役に立たない」の議論には大きな誤謬があります。例えば「(あなたは私のことが)好きなの?嫌いなの?」という問いかけは今や有名な不良設定問題として認識されるようになりました(「好き/嫌い」は「強い関心がある」という意味では同じ意味ですから「好き/嫌い」の反対語は「無関心」が正解になります)。同様に「役に立つ」の反対語は「役に立たない」ではなく「何の役に立つのかわからない」が正解です。森羅万象世の中に役に立たないものは存在しません。私たちにはニホニウム(Nh113)が何の役に立つのかがわからない程度の想像力しかないことを恥じるべきなのですね。

12月17日(水曜日)は、いかにしてニホニウム(Nh113)はその合成・発見に成功したのかを森田浩介(もりた・こうすけ)博士(理化学研究所仁科加速器研究センター超重元素研究グループディレクター)から、そして(一見)役に立たない研究がもたらす価値を初田哲男(はつだ・てつお)博士(理化学研究所 領域総括)から伺いつつ、これからの日本の科学技術研究のあり方を探るシュレディンガーな夜にしたいと思います。

催概要

名称「シュレディンガーの水曜日」
自由な楽園によるニホニウム(Nh113)の発見と「役に立たない研究」の偉大なる価値
開催日時2025年12月19日(水) 19:00~21:00
話題提供者
(敬称略)
森田 浩介(もりた・こうすけ)森田 浩介(もりた・こうすけ)
九州大学 特別主幹教授
1979年 九州大学理学部卒、1984年九州大学大学院理学研究科物理学専攻博士後期課程満期退学、同年理化学研究所サイクロトロン研究室研究員補、1991年同研究所サイクロトロン研究室研究員、1993年九州大学で理学博士を取得、1993年 理化学研究所サイクロトロン研究室先任研究員。2004年に113番元素(ニホニウム)を発見。2006年理化学研究所・仁科加速器研究センター・RIBF研究部門・超重元素研究グループ・超重元素合成研究チームリーダー。現在は九州大学 特別主幹教授。
初田 哲男(はつだ・てつお)初田 哲男(はつだ・てつお)
理化学研究所 領域総括
1981年京都大学理学部卒、1986年京都大学大学院 理学研究科 物理学第二専攻修了(理学博士)、同年4月高エネルギー物理学研究所 物理系理論部 客員研究員、1988年ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校 博士研究員、1990年ヨーロッパ共同原子核研究機構(CERN)理論部 リサーチアソシエイトフェロー、1990年ワシントン大学原子核理論研究所(INT)リサーチアシスタントプロフェッサー、同大学物理学科 アシスタントプロフェッサーを経て、1998年京都大学大学院理学研究科 助教授、2000年東京大学大学院理学研究科 教授。2012年から理化学研究所仁科加速器研究センター 主任研究員、理論科学連携研究推進グループ(iTHES)ディレクター、数理創造プログラム(iTHEMS)プログラムディレクターを経て2025年4月に理化学研究所 領域総括に就任。
原 正彦(はら まさひこ)原 正彦(はら まさひこ)
東京科学大学 名誉教授
東京工業大学大学院理工学研究科有機材料工学専攻、有機超薄膜の相転移などを研究し工学博士を取得。理化学研究所と東京工業大学にて、ナノテクノロジーや自己組織化、生物コンピュータ、生命の起源などの研究に従事。退職後、ドイツ・アーヘン工科大学のシニアフェロウなどを経て、現在、英国ロンドンに在住。「シュレディンガーの水曜日」世話人を兼務しつつ、アート・インスタレーションと新しい科学の可能性を探索している。
長谷川 修司(はせがわ・しゅうじ)長谷川 修司(はせがわ・しゅうじ)
東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授、一般社団法人 日本物理学会第79期および80期会長、同学会物理遺産選定委員会委員長
日立製作所基礎研究所研究員、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻助手、同助教授、同准教授を経て現職。専門は固体表面およびナノスケール構造の物性・トポロジカル物質。2018年から2023年まで公益社団法人・物理オリンピック日本委員会理事長。「シュレディンガーの水曜日」のメンバー。
実施形態と参加方法Zoomウェビナー(Webinar)を利用したオンラインイベントです。
お申し込みはこちらから
参加料無料
申込期限2025年12月17日 (水)の午前11時まで
主催「シュレディンガーの水曜日編集委員会」/スタイル株式会社
協賛一般社団法人・日本物理学会公益社団法人・応用物理学会 (申請中)

※プログラムの内容・時間などは予告なく変更となる可能性があります。ご了承ください。

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