January 27, 2026
清水 亮 ryo_shimizu
新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。
最近、筆者は経営幹部のみを対象としたAIハッカソン、通称「トップソン」を主催している。
先日も、都内有名私立中高一貫校の理事長や、国内大手運輸会社のオーナー、国内大手文具メーカーの経営幹部、国内大手電機メーカーの社員などを集めてトップソンを行った。錚々たる顔ぶれである。普通に考えれば、この人たちがプログラミングなどするはずがない。だが、2026年の今、状況は一変した。
最近のAIによるバイブコーディングの進歩は目覚ましいが、その本質的な価値に気がついている人はまだごく僅かだ。
多くの人は「AIがコードを書いてくれる」という表層的な理解に留まっている。確かにそれは間違いではない。だが、本当に重要なのはそこではない。バイブコーディングとは、「的確な指示をAIに出すこと」であり、これは通常の経営トップが普段から人間の社員に対してやっていることと全く同じなのだ。
つまり、プログラミング能力とは無関係に、「人に指示を出すスキル」が高い人間が、そのままAIへの指示出しでも優れた成果を出せるということである。これは革命的な変化だ。
トップソンでは、限られた時間で最大限の成果を得るため、通常のハッカソンで行うような事前のレクチャーをほぼ行わない。ノートPCをWiFiにつなぎ、テトリスの作り方を教えたら、すぐハッカソンに移る。
最初のハッカソンに与えた時間はわずか五分。
普通のプログラマーなら裸足で逃げ出すような短時間だ。テトリスを5分で作れ? 正気か? そう思うだろう。
だが、経営幹部でこれを行うと、あっという間に成果が出た。
参加者はみな一様にAIの進歩に驚くと同時に、自分のアイデアが形になるという「事実」に熱中した。ある参加者は「40年ビジネスをやってきたが、自分のアイデアがこんなに早く形になったのは初めてだ」と目を輝かせていた。
以前、長野の地銀である八十二銀行の経営幹部向けに行った時もそうだったが、トップソンの面白いところは、忖度なしに言えば、ただ年齢が高く、職位の高い人のほうが優れた成果を出しやすいということだ。
これは従来のプログラミング教育とは真逆の現象である。
普通、プログラミングは若い人のほうが習得が早い。新しい言語やフレームワークへの適応力も若者に分がある。だがバイブコーディングでは、その常識が覆る。
なぜか。
経営幹部は、日々の業務で「曖昧な要件を具体的な指示に落とし込む」ことを繰り返している。部下に仕事を振るとき、彼らは「なんとなくこんな感じで」とは言わない。目的を明確にし、成果物のイメージを共有し、期限を設定する。
これがまさにバイブコーディングに必要なスキルなのだ。
若いエンジニアは、自分でコードを書く能力は高いが、「他人に的確な指示を出す」経験が浅い。だから逆に、AIに対してどう指示すればいいかわからず、戸惑うことがある。
一方、経営者は指示出しのプロだ。彼らは「AIという新しい部下」に対しても、同じスキルを適用できる。
いずれトップソンはゴルフのように経営者同士が交流する場に発展していくのかもしれない。
ゴルフは長らく経営者同士のネットワーキングの場として機能してきた。18ホールを回る間に、商談や人脈形成が行われる。だが、正直に言って、時間がかかりすぎる。朝から夕方まで丸一日が潰れる。
トップソンは違う。数時間で完結し、しかも参加者全員が「何かを作る」という共通体験を持つ。この共通体験が、ゴルフのラウンドとは異なる種類の絆を生む。
「あの時、5分でテトリスを作った」という体験は、「あの時、バーディーを取った」という体験よりも、ビジネスの文脈では遥かに価値がある。なぜなら、それはその人の「発想力」と「指示出し能力」を如実に示すからだ。
トップソンは経営者限定の非公開イベントだが、筆者はもう一つ、全く異なる性質のハッカソンも主催している。全日本AIハッカソンだ。
2025年に史上初の全国大会として開催し、東日本、西日本、九州、北海道、中日本の5地方で予選を行い、秋葉原のベルサール秋葉原で決勝戦を実施した。プログラミング経験者向けの一般部門と、未経験者向けのビギナー部門の2部門制で、初心者にも門戸を開いた。
2025年大会では、一般部門で「たい焼きテクノロジーズ」というチームが優勝した。彼らは発表の数日前に公開されたばかりの3Dスキャン技術をすぐに取り入れ、AIをフル活用して開発していた。その柔軟性と実行力が評価された。
そして2026年、全日本AIハッカソンは再び全国を回る。
すでに東日本大会(3月29日@東京)と西日本大会(4月26日@大阪)のスケジュールが発表されている。一般部門は3人チームで戦い、ビギナー部門は講習会付きで個人参加も可能だ。
日本人はフィルムもカメラもゲームも自動車も発明していないが、そのすべての分野で世界一になった。AIもそうなれるだろう。そして人々にとって重要なのは、理論的素晴らしさやただ大金を投じた事実ではなく、結局のところ「それがなんの役に立つのか」という応用製品の分野なのだ。
AIをイノベーションに応用する戦いは、まだ始まってさえいないのだ。
筆者が「人類総プログラマー化計画」を掲げたのは2011年。東日本大震災が契機だった。その年の夏には福島ゲームジャムを立ち上げ、震災で産業を失った地域をプログラミングの力で復興しようとした。

さらにプログラミング教育の義務教育化を提言し、2013年に日本政府の「世界最先端IT国家創造宣言」に採択され、我が国におけるプログラミング教育の義務教育化が実現した。
しかし、それから13年余りが過ぎ、今やAIの急激な進歩によってプログラミングはもはや専門家だけのものではなくなっている。アイデアさえあれば誰でもソフトウェアを作れる時代になった。
経営者には経営者の、学生には学生の、主婦には主婦の、それぞれのニーズがある。それを形にできるのは、専門家ではなく、本人自身だ。なぜなら、自分のニーズを最もよく理解しているのは自分だからだ。
トップソンで経営者たちが目を輝かせるのを見るたびに、筆者は確信を深める。バイブコーディングは、プログラミングの民主化の最終段階なのだと。
全日本AIハッカソン2026のエントリーは、AIフェスティバル公式サイト(https://www.aifestival.jp/hackathon)で受付中だ。日本一のAIハッカーの称号を目指して、ぜひ挑戦してほしい。
そして経営者の方々には、次回の