• 執筆者一覧Contributors
  • メルマガ登録Newsletter
量子論から生命を眺めてみよう<br><small>開放系量子情報理論と生物力学</small>

量子論から生命を眺めてみよう
開放系量子情報理論と生物力学

Open Quantum Information Theory & Biomechanics

January 26, 2026

シュレディンガーの水曜日事務局 Schrödinger

オンラインイベント「シュレディンガーの水曜日」の運営事務局です。東京工業大学・物質理工学院・原正彦研究室で始まった、WirelessWireNewsが主催するオンライン・サイエンスカフェです。常識を超えた不思議な現象に溢れた物質科学(material science)を中心に、日本の研究開発力の凄まじさと面白さを知っていただくのが目的です。

メインコーディネータ&キャスターの桜田一洋先生(慶應義塾大学・医学部)からいただいた今回の「シュレディンガーの水曜日」の趣旨をまずはご紹介します。

「イギリス哲学の主軸となる経験論を確立したのが、デイヴィッド・ヒューム(David Hume:1711 – 1776)です。彼は、脳を感覚からの入力を知覚し、評価し、行動を決定する受動的な装置であるとみなしました。そして感覚器は、客観的かつ観察者から独立した世界を正確に捉える機能を持ち、知識は知覚的連想と帰納的推論から生じる、としました。ここでの「連想」は、観察対象の類似性、場所と時間の連続性、因果関係の三つから構成されます。この視座から、自然の対象を要素に還元し、因果関係を用いて機械のように解釈する自然科学の世界観が生まれたのです。

一方、100年前に誕生した量子力学は、この機械論と決定論からなる古典的な世界観を覆しました。量子力学は量子場理論へと展開されましたが、量子論による自然の定式化はミクロレベルの現象に制約されています。ニールス・ボーア(Niels Bohr:1885 – 1962)は、1932年8月15日にコペンハーゲンで開催された光療法国際会議で「光と生命(Light and Life)」という演題で基調講演を行い、量子論の相補性(生命を物理的な光を用いて観測しようとすると、観測行為自体が生命の現象を攪乱してしまい、本来の姿を捉えられない)の概念を物理学と生物学の関係に応用しようとする考え方を展開しました。私は高校生のときに天野清が訳したボーアの『光と生命』を読み、量子論によって生命を理解することを人生の目標とするようになりました。この想いは、古典的な機械論の枠組みで医学研究を続けるなかで、一層深まっています。

細胞、臓器、個体は空間的に拡張された粒子です。生物学と医学はこの拡張した粒子を機械に擬えて解釈してきました。しかし、現在の医学では病気の発症や進展を個別に予測できません。非線形非平衡開放系の特徴を有する生物を機械になぞらえて解釈すること自体に無理があるのです。拡張された粒子としての生物システムは、自律的な振動子としての性質を併せ持っているので、個体レベルでは、脳波、心拍、呼吸、運動、概日リズムなどの振動が観察されます。つまり、生物は粒子性と波動性を併せ持ったシステムなのです。2024年1月に、私は生命現象を力学の枠組みで表現するための「メッセージ力場」理論と最大エントロピー生成原理を発表しました。さらに、この理論を起点として生物システムを波動関数で表現し、生命現象を生物的な重ね合わせ、もつれ、非決定性(相補性)によって解釈するための研究を行っています。

開放系量子情報理論の登場

古典的な機械論の世界観から生まれた、ベイズ(古典)確率論は、人間の意思決定、推論、その他の認知プロセスを理解するための、非常に影響力のある支配的な枠組みとなっています。しかし、人間はしばしば古典的な確率論に反する非合理な判断を行います。人間の認知の背景には、ヒューリスティックバイアスがあることを示した研究成果は、2002年のカーネマン(Daniel Kahneman :1934-2024)、2017年のセイラー(Richard Thaler, 1945-)による2つのノーベル賞として評価されていて。心から身体に目を向けても同様の課題が明らかになっています。

この課題を克服するために、人間の認知、心理特性や社会現象を開放量子系と見なし、その背後にある原理を量子確率論に基づいて数理的に定式化する研究が進んでいます。量子確率論とは、物理学の要素を一切含まない量子力学に基づく事象への確率の割り当て規則を指し、このようなモデリングが「Quantum-Like Modeling(QLM)」です。

小澤正直氏(立命館大学客員教授/名古屋大学名誉教授)は、ハイゼンベルクの不確定性原理の式を修正することで、量子自身の性質である量子的揺らぎと、測定精度の限界や測定の影響を区別する「小澤の不等式」を開発したことで知られています。QLMにおいても日本の研究を牽引しており、2018年に出版された『量子と情報 ―量子の実在と不確定性原理』には、この分野の研究の考え方がまとめられています。また、2025年9月21日から26日の一週間、Ernst Strüngmann Forum(Simplicity behind Absurdity: The Power of Quantum Thinking)が開催され、Quantum Thinkingについて徹底的な議論を展開されました。このフォーラムのチェアーを務めたのが入來篤史氏(理化学研究所生命機能科学研究センター象徴概念発達研究チーム・リーダー)です。入來氏は、経路積分的因果論による進化と歴史の再定式化を通して、分岐した学知の再統合に挑戦しています。またこのフォーラムには、小澤氏、私に加えて布山美慕氏(立命館大学・文学部人間研究学域)が参加しました。布山氏は、新進気鋭の認知科学者であり、文学や芸術の分野で、不確定な理解の状態を量子確率論で科学的にモデル化し、検証する研究に取り組んでいます。」


2月4日のシュレディンガーの水曜日では、小澤正直、入來篤史、布山美慕、そして桜田一洋の4氏で、生物学、認知科学、社会科学が扱う複雑な現象を量子力学的な視点から数学的に分析・モデル化する研究の現状について議論していただきます。オブザーバとしていつもの原正彦氏(東京科学大)、長谷川修司氏(東京大学)にも参戦いただきますのでお楽しみに。

催概要

名称「シュレディンガーの水曜日」
量子論から生命を眺めてみよう/開放系量子情報理論と生物力学
開催日時2026年2月4日(水) 19:00~21:00
アジェンダ
(敬称略)
イントロダクション: 桜田一洋
第1部  生物力学: 桜田一洋を中心に、6名で議論・・・ここはできるだけ簡潔にすませて、第2部を重点に議論します
第2部 開放系量子情報理論: 小澤正直(量子情報理論とは何か)、布山美慕(認知科学への応用)、入來篤史(新たな科学の創出)からそれぞれの立場で現状を紹介していただき、6名で議論
桜田一洋
桜田一洋
慶應義塾大学医学部  石井・石橋記念講座(拡張知能医学)教授
小澤正直
小澤正直
立命館大学 客員教授/名古屋大学名誉教授
入來篤史
入來篤史
帝京大学 先端総合研究機構 AI活用部門 特任教授/理化学研究所 数理創造研究センター 量子数理科学チーム 客員研究員
布山美慕
布山美慕
立命館大学・文学部人間研究学域 准教授
原正彦
原正彦
東京科学大学 名誉教授
長谷川修司
長谷川修司
東京大学大学院理学系研究科物理学専攻・教授、一般社団法人 日本物理学会・物理遺産選定委員会委員長
実施形態と参加方法Zoomウェビナー(Webinar)を利用したオンラインイベントです。
お申し込みはこちらから
参加料無料
申込期限2026年2月4日 (水)の午前11時まで
主催「シュレディンガーの水曜日編集委員会」/スタイル株式会社

※プログラムの内容・時間などは予告なく変更となる可能性があります。ご了承ください。

Tags