August 10, 2026
清水 亮 ryo_shimizu
新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。
最近は特に動画生成AIが熱い。
Seedance2.5が世界を驚かせたかと思えば、同等以上の表現力を持つMiniMaxH3がオープンウェイトで登場する。
まさにデッドヒートだが、そこにBlackforestLabがFlux3を投入してくる。いまや動画生成戦国時代の様相だ。
どのモデルも性能は折り紙付きと言えるが、一長一短がある。
動画生成AIのオープンモデルでは長らくAlibaba社のWan2.2がトップをひた走ってきた。
しかし、続くWan2.3、Wan2.7が発表されるもオープンウェイトが公開されず、コミュニティの信頼を次第に失っていくと、次にLighttricks社のLTX2.3が颯爽と登場する。
Wan2.2は動画生成のみだったが、LTX2.3は音声を含めた動画生成を行うことができ、しかもユーザーが自分で新しい動画を学習させて使うことができるツールキットまで用意されていた。
これがコミュニティをまた加速し、しばらくLTX2.3のブームが起きた。
世界中で動画生成AI愛好家は数多くいるが、その中心的な興味は「果たしてAIは本格的な映像制作に使えるのか、使えるとすれば、それは今なのか、それとももっと先なのか」ということを知ることである。
現在TBSで放送中の人気テレビドラマ「VIVANT」の中では一部生成AIによるフッテージが使われているという。ここではGoogleのNanobananaとVeo3が使われているそうだ。筆者もそのシーンはリアルタイムで見たが、不覚ながら生成AIとは気づかなかった。
完全にAIによる生成画像だけを用いて作られた映画作品も出始めている。
映画『第9地区』で知られるニール・ブロムカンプ監督が作った生成AI映画は、『NIGHTBORNE(ナイトボーン)』
全てのフッテージがByteDance社のSeedance2.0で作られているという。
こうしてみると、動画生成AIは実用域に達しつつあると言って良いと思う。ただし限界もある。
その限界は、もはや技術的なものではなく、ビジネスモデルや倫理観と言った部分に起因する。
例えば、最新のSeedance2.5では、リアルな人物を含む動画を生成させようとすると、それが架空の人物であったとしても、「実在の人物を使っている可能性があり、生成できない」と拒否されてしまう。

確かに政治的に危険なメッセージなどに悪用される危険性があるのでこういう措置をとるのはある意味で当然だろうと思う。しかし、有料プランに入って利用者個人が特定される状況でさえ人物を含む動画を生成できないのでは画竜点睛を欠くと言わざるを得ない。
おそらくByteDance社は、人物を含むフッテージの生成については特別な契約を必要とすることでビジネスに繋げようとしているのではないか。映画スタジオやテレビ局と直接大口の契約をして、その場合だけ「人物を伴う合成」を開放する。そんな算段だったのかもしれない。
ところがそこをぶち壊したのがMiniMaxH3だ。
MiniMaxH3は機能面ではByteDanceのSeedance2.5と並びながら、オープンウェイトで提供されている。いわゆる「オープンソース」ライセンスではないが、オープンウェイトの特性を活かして、様々な改良が加えられたり、高速化されたりといった動きが活発になっている。クローズドソースではこのスピード感で高速化されることはないだろう。
ただし、MiniMaxH3のライセンスは少々複雑だ。
まず基本的にEU、英国、韓国、米国では使用できない。つまり日本で使うことは許可されている。
ただし、もしもYouTubeやNetflixなどで世界配信可能な状態にすると、ライセンスに抵触する可能性がある。
尤も、EU、英国、韓国、米国であっても、事前に申請をして個別ライセンス契約を結べば、使用することはできる。これはかなり微妙なライセンス形態だ。
もしくは、オープンウェイトではなく、MiniMax公式APIを使う方法もある。この場合は、全世界に向けて提供されているので自由に使うことができる。ただしAPIなのでお金はかかる。
ただし注意が必要なのは、MiniMaxH3は、日本国内での使用であっても、その作品が年間2000万ドル(約31億円)以上を産む場合は、別途契約が必要とのこと。普通に考えると公開する前から大ヒットがわかってる映画は限られるので、我々インディー映画製作者には関係のない話ではあるが、映画制作が本業の会社からするとここは二の足を踏んでしまう部分だろう。
MiniMax H3は、登場当初、5秒の動画を生成するのに筆者の環境では15分ほどかかっていた。ところがオープンウェイト公開から一週間も経たないうちに、コミュニティからサンプリングステップを大幅に削減する「高速化LoRA」が登場。筆者の環境では生成時間が約5分まで短縮された。その後も高速化LoRAの改良や、Attention、キャッシュ、オフロードなどの最適化が急速に進んでいる。
必要なハードウェアのハードルも下がった。大容量VRAMを持つGPUが現実的と考えられていたモデルだが、量子化やVRAMオフロードの改良により、現在ではVRAM 8GBのGPUで動画生成を完走した例も報告されている。速度や解像度には大きな制約が残るものの、オープンウェイト化によって公開直後から第三者による高速化・省メモリ化が進んだ好例と言える。
条件をかなりきつく絞り、最先端のRTX PRO 6000チップを使えば、5秒の動画を生成するのに20秒前後で完了するという報告もある(864×480、124 frames、24fps=約5.17秒、音声付き Turbo v4 6 steps 19.266秒)。
オープンウェイトであるため、参照画像をエンコードする専用プロセッサと、デコードする専用プロセッサなどの構成も考えられる。
例えば、5060tiでの動作報告もあるため、大きめのVRAMのGPUを一枚、エンコード専用にして、安価な5060tiを複数枚回すことで全体のスループットを上げコストパフォーマンスを高めるといったことにも使える。
動画生成AIをめぐる戦いは、もはや我々一般庶民とは無関係なところに行きそうだ。つまり、「大手映画スタジオ vs 動画AI提供企業」と、「貧乏インディーAI映画監督 with オープンウェイト」の世界だ。
1990年、筆者が中学生の頃、ようやくホームビデオカメラが普及し始めた。
そのとき、学校の放送室にあったホームビデオカメラを手にした筆者は、夢中になって級友を撮った。
毎月一回放送の校内番組を「放送委員会」の委員として作り、コンピュータグラフィックスのワイヤーフレームで校舎を再現した。
2台のビデオデッキを使ってダビングしながら編集するという技を覚え、卒業記念に全クラスの活動を動画におさめた。理由はわからないが、当時のビデオはダビングされ、級友たちに配られたはずだ。
現在の動画生成AIはその頃のホームビデオカメラと同じ匂いがする。
持つ人の想像力を拡張し、クリエイティビティを加速する。
道具は、そこにあるだけではただの道具だ。
道具を目的を持って使った時、それは武器になる。