1970年代のことだが、記憶したい事柄をカセットテープに自ら録音しておき、それを寝ている間に自分に聞かせて暗記する「睡眠学習」なるものが話題を集めたことがあり、専用の機材──枕にタイマー機能付きカセットレコーダーを仕込んだもの──が販売されていた。しかし、眠っている間に聞こえた内容が脳の長期記憶に入るというのは間違いで、効果があるように感じるのは結局のところ記憶したいと自分が思った内容を録音する際に声に出して読むので、その際にある程度は記憶してしまうというカラクリだったらしい。
その後、記憶に関する脳の研究が進み、確かに睡眠と記憶には深いつながりがあることが分かってきている。眼球が速く動くREM(rapid eye movement)睡眠中に、昼間見聞きしたことを脳が再構成して、短期記憶から長期記憶に移す作業が行われているらしい。
サンフランシスコのシープドッグ・サイエンス社(Sheepdog Sciences)は脳科学の専門家などが設立したスタートアップで、音楽を使って記憶の固定化を図るデバイス、BrainBoxを開発している。
勉強している間に音楽をかけておき、眠るときにはヘッドバンド型のセンサーを装着しておいて、心拍数を計測して、眠りが深くなったのを見計らって、勉強中にかかっていた音楽を再生すると、音楽が勉強した内容を想起させてくれて、短期記憶から長期記憶に移してくれるということらしい。寝ている間に勉強するのではなく、起きている間に見聞きしたことを寝ている間に記憶を定着させる手助けをする。
こうした研究は以前からあって、ノースウェスタン大学で2年ほど前に行われた実験では勉強中に聞いた音楽を寝ている間に聞くと記憶に残るということは確かにあるらしい。社名のシープドッグとは牧羊犬のことで、短期記憶でさまよっている羊たちを長期記憶に送り込んでくれる犬ということなのかも知れない。同社初の製品となるBrainBoxは目下のところベータ版で、今年のCESに出展している。
【参照情報】
・Sheepdog Sciences社のウェブサイト
・CES 2014: Revising for exams 'while asleep'
・Nature Neuroscienceの論文
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