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ジャカルタ、スマホ防災アプリよりも重要な防災対策としての社会基盤整備

Fujitsu announces smartphone-based disaster information-sharing system

2015.04.16

Updated by Hitoshi Sato on April 16, 2015, 08:21 am JST

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富士通とPT. Fujitsu Indonesia(富士通インドネシア)は2015年3月23日、インドネシア・ジャカルタ特別州防災局向けの、スマートフォンによって市民間で災害情報を共有できる、市民参加型災害情報共有システムを構築したことを発表した。2015年3月より市民約1,000万人に向けて運用を開始した。

富士通がインドネシア・ジャカルタで運用開始した市民参加型災害情報共有システムは、国際協力機構(JICA)インドネシア事務所より受託したもので、市民がスマートフォンアプリから写真とメモで送信するあらゆる地点の河川水位と雨量情報を、スマートフォンの位置情報(GPS)にもとづいて、1つの地図上にプロットして集約する。そのほか、ジャカルタ防災局の既存の災害情報管理システムと連携しており、災害時には、ジャカルタ防災局が発令した警報などをリアルタイムでスマートフォンに送信する。同システムは、水位センサーなどを備えた高度な観測設備網と比べ容易に導入でき、アプリを使って情報提供をする市民が増えるほど、市民は多くの河川水位と雨量情報を得ることができる。

2002年、2007年、2012年、および2013年に発生した大規模な洪水により、多くの市民と地域経済に影響を及ぼされたジャカルタ特別州は、災害対策を改善するため、2013年12月に、富士通による災害情報管理システムを導入した。しかし、市民はテレビやラジオ、ジャカルタ防災局のホームページでしか災害情報を入手できないことが問題となっていた。一方、ジャカルタ防災局は、水位センサーなどを備えた高度な観測網整備の資金調達が難しく、収集する情報量には限界があった。そこで、JICAインドネシア事務所は、インドネシアで普及率の高いスマートフォンを活用した、本システムの導入支援を決定した。これが今回のシステム導入の背景にある。

ジャカルタ特別州に適したソリューションであり、市民の自発的、自律的な防災・減災活動意識も高められるとJICAジャカルタ事務所は見込んでいる。

ジャカルタの洪水は「人災」:防災対策に向けて本当に必要なこと

ジャカルタでは大雨が降ると大規模な洪水にならずとも、水の流れが悪くなる。日常的な大雨(スコール)の後に、道路中が水浸しになることはよくある光景であり、人々もそれには慣れている。その原因の多くは人々がゴミを路上に捨てて、それによって排水溝や水路の流れが悪くなっていることだ。ゴミの多くはスーパーやコンビニエンス・ストアでのビニール袋だ。それらが路上に捨てられて、蓄積されて、水路を詰まらせて大雨の後に水の流れを悪くしてしまっている。

しかしビニール袋の詰りは大きな問題ではない。それ以上にジャカルタの大雨による洪水には大きな問題がある。それは西ジャカルタ南部地域の地盤沈下と洪水である。地盤が軟弱土砂で住民が生活用水を確保するために地下水を井戸から汲み上げた結果、大雨によって洪水が発生する原因となっている。つまり、地下水を汲んで生活用水にしていることにある。近年では人口増に伴う生活用水需要の増加も背景にあるのだろう。

この地区で漁港建設してきた事務所が観測した結果として、この地区の広範囲で年平均10cm沈下していることがわかった。地盤の低い地点の標高は+1.3mで高潮位より10cm低くなっている。その結果、高潮位の時間帯は常時洪水状態にある。

沈下の主要な原因は深い層の粘土層が毎年3.8cm沈下していることにある。これは地表に荷重の重い施設が建設され、更に住民が生活用水として地下水を大量に汲み上げた結果地盤沈下が発展した、と観測されている。この粘土層の残存沈下厚は27cmと推計されている。

この沈下防止の対策として、深い地層にある軟弱層に砂を圧密して強化するか、柔らかい土層を入れ替えるような地盤改良をする必要がある。

また、ジャカルタには南のボゴール市の山岳地域から大きな河川(4~5本)が市街地を通過して海に流れている。郊外の洪水がこうした河川を流れてくるが大量の土砂が運ばれてきて、流れが緩くなり河川底に溜まって、河川底が浅くなってきている。結果として、河川面積が流れる水量に対し減少してしまい、河川から水が溢れて市街地に洪水が起きる。浚渫工事を行って浅くなった河川の底を深くする対策が早急に必要であろう。

さらにジャカルタには西ジャワ州で降った大雨が流れて来てジャカルタ市の郊外から都心部の市街地に洪水になっている。西ジャワ州での河川改修等の、大雨や、洪水の処理施設が不十分で所期の機能が果たせないで、ジャカルタ市街地の洪水の1つの要因になっていると言われている。

なお、ジャカルタではモナス(独立記念塔)近辺の地下に大口径の排水管を敷設し、貯水池を設置したが、容量が集中的に発生する大量の洪水量を収用できないで、十分には機能していない。

ジャカルタでの大雨による洪水は自然災害というよりも「人災」に近い。スマートフォンで市民が河川水位上昇の写真や情報を提供することも重要だが、それ以前に水位が上昇する根本原因の対策が必要だろう。例えば既存河川を改修して、洪水で運ばれた土砂を撤去し、河川護岸の強化と解決に向けた「社会基盤整備」をやらなくてはならない。これらを解決しなければ、いつまでスマートフォンで洪水情報を収集していても根本的な解決には至らない。

防災にとって重要なのは、その根本原因を除去することである。

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▼ジャカルタのアンチョール海岸。休日には家族連れで賑わっている。
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【参照情報】
インドネシア、ジャカルタ特別州でスマートフォンによる市民参加型災害情報共有システムの運用を開始(富士通報道発表資料)

 

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佐藤 仁(さとう・ひとし)

2010年12月より情報通信総合研究所にてグローバルガバナンスにおける情報通信の果たす役割や技術動向に関する調査・研究に従事している。情報通信技術の発展によって世界は大きく変わってきたが、それらはグローバルガバナンスの中でどのような位置付けにあるのか、そして国際秩序と日本社会にどのような影響を与えて、未来をどのように変えていくのかを研究している。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。