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総評とこぼれ話

2011.02.19

Updated by Tatsuya Kurosaka on February 19, 2011, 22:40 pm JST

MWCも無事全日程を終えた。最後にこぼれ話と総評をまとめておく。

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【Firefoxのコーヒー】
会場の出入口近くでは、いつも様々な人たちが何かを配っている。出展者であれば勧誘のためのノベルティグッズだし、あるいは市内のレストランが割引券を配っていたりもする。特に人の動きがある朝晩には活発だ。

そんな中、WebブラウザのFirefoxが、キツネの着ぐるみを着てコーヒーを配っていた。野球場のビール売りが背中にタンクを背負っているが、あれと同じ仕組みである。バルセロナは東京よりは暖かいとはいえ、朝はまだ冷え込んでおり、ありがたい限りである。

MWCは移動体通信の展示会だから仕方ないのかもしれないが、Webコミュニティとの親和性は従来からそれほど良くなかった。それでも今年は、例年なら閑古鳥が鳴いているHall 7(アプリケーションを集めた展示会場)が大盛況と、スマートフォンの台頭による変化が感じられた。

来年は、入口でコーヒーを配るのではなく、MWCの公式パーティのスポンサーになるくらいに、両者の協調が進んでいれば、この業界はもっとおもしろいことになると思う。

【つながらない無線LAN】
スマートフォン利用者が増えたせいか、今年はシスコのスポンサードで会場内に無線LANが無料で提供された。ところがこれが全然つながらず、あちこちで大ブーイング。電波は見えるがシグナルが取れないとか、いつまで経ってもIPアドレスが振られない等、混乱状態だった。

2日目にはプレス向けに別途無線LANが改めて用意され、一般利用と分けられたのだが、これも焼け石に水。結局はどちらをつかんでもまともに通信できない状態で、有線LANが用意されたメディアセンターは終始大混雑。「モバイルの展示会なのに有線頼みとは...」と苦笑も聞かれる始末だった。

こうした状況そのものも、筆者には興味深かった。理由の一つは無線LANによるオフロードの現実が垣間見えたような気がしたから。無線LANはチープな技術ではあるが、それゆえに大規模かつ広域に安定的なコネクティビティを供給するには、高度な運用技術が必要となる。そのことを改めて直視させられた格好だ。

またもう一つは、知らず知らずのうちに我々の無線通信への依存度が上がっているのを、逆説的に感じさせられたから。日本のみならず海外のプレスも「無線LANが使えない」と不満タラタラだったが、もとより無線通信は不安定なものであったはず。それが「使えないことにイライラする」ということは、それだけ社会的な地位が上がったということでもある。

【来年の開催時期】
来年のMWCは、2月27日(月)~3月1日(木)に開催されることが、すでに発表されている。年度末を控える日本勢としては現状でさえ厳しいスケジュールの一方、イベント規模はリーマンショックを乗り越えて再び拡大傾向にある。少なくとも筆者はトンボ帰りを余儀なくされるだろうと考えると、諸々頭の痛いところだ。

ところでこの日程変更の理由について、海外のプレスから、中国の旧正月の休暇明けを意識してのことらしい、という噂話を耳にした。真偽の程は定かでないが、年々プレゼンスを増している中国勢から、より多くの参加を目論むのであれば、さもありなんといった印象だ。

単なる開催時期の話というなかれ。実はMWCで日本勢の元気がない理由の一つとして、前述の「年度末を間近に控えて、カネもココロも余裕がない」ことを挙げる関係者が、少なくなかったのである。反対に、会計年度とカレンダーが一致している企業にとっては、(予算面も含めて)春を迎えて気持ちが大きくなっているところ、なのだろう。

日本の国際競争力を云々するには、実はこうした些細な(しかし極めて重要な)違いにも、着目する必要があるのかもしれない。

【総評】
毎年定点観測を続けている立場としては、ここ2-3年の中では最もおもしろく、盛り上がったMWCだったと思う。リーマンショック直後で意気消沈していた2009年、景気は回復基調だったがいま一つ論点が定まらなかった2010年に比べると、今年は方向性が概ね揃ったように感じられた。それをキーワードで示すと、

・3G/4Gの移行の本格化に伴う課題の顕在化
・スマートフォンの台頭とAndroidへの集約
・バックヤードとしてのクラウド・コンピューティング
・ビジネスモデルとしてのプラットフォーム

といったあたりに絞られると思う。おそらくWirelessWireの読者であれば既視感漂う論点であろうが、世界的に方向感が揃うということは、相応のインパクトがあることである。現に記事では紹介できなかったが、そうしたトレンドに沿った様々な技術開発の動きが会場内外で散見された。世界はそちらに向けて動いているのだろう。

一方、論点が揃うことによる新たな課題も見え始めた。筆者が感じたのは、

・強者を追わざるをえないことによる停滞
・トラフィック爆発とインフラ整備のミスマッチの深刻さ
・webカルチャーとの足並みの揃わなさ
・Androidアプリの絶対的な不足

といったものである。たとえば「強者追随による停滞」とは、スマートフォンに集約されるにつれて、部材開発の方向や規模がジャイアント・プレイヤー、つまりアップルとサムスンの調達によって決められてしまうため、多くの事業者が両者の調達を見ながら動くようになっている、ということである。実際これは、表示技術の進化や、LTEの通信モジュールの開発等に、少なからず影響を及ぼしている。

また、論点が揃うということは、雌雄が明確化してくる、ということでもある。既報の通り、かつての王者ノキアの弱体化が露呈するところからMWCが開幕したことも、それを象徴しているように感じられた。

来年はおそらく、アプリやコンテンツがより大きくアピールされる年になるだろう。すでに今年もHall 7が活況を呈するという「変化」が見られたが、その勢いは今後も増していくはずだ。そして本来であれば、その領域は日本勢もそれなりの競争力を有しているはずだ。場合によってはどこぞのホールを一つ借り切って「日本館」を(官民協調も含めて)ぶちあげるのも、一つの手かもしれない。そんな前向きな気分にさせる、今年のMWCであった。

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クロサカタツヤ(くろさか・たつや)

株式会社企(くわだて)代表。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)在学中からインターネットビジネスの企画設計を手がける。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティング、次世代技術推進、国内外の政策調査・推進プロジェクトに従事。2007年1月に独立し、戦略立案・事業設計を中心としたコンサルティングや、経営戦略・資本政策・ M&Aなどのアドバイス、また政府系プロジェクトの支援等を提供している。