先週、首都圏を走る主要路線の電車に掲出されている女性向けのファッション誌「AneCan」の中吊り広告に、思わず目を奪われました。専属モデルの押切もえさん、蛯原友里さんの写真に...ではなく「今月のAneCanは小さいサイズも同時発売!!」という告知が出ていたのです。
「AneCan」では初めてのことのようですが、同誌を出版する小学館は今年5月、働く30代の女性向けファッション誌「Domani」の6月号で業界初の試みとして実施。通常号の約77%の大きさのミニサイズ版を発行して、同じ価格であるにも関わらず完売するという実績を出していました。当時、このことを取り上げたmsn産経ニュースの記事「小さく軽い(縮小版)女性ファッション誌)」によると、「働く30代女性は仕事に子育て、習い事...と、忙しい。自宅でじっくり読めない代わりに、バッグに入れて通勤時などで気軽に手に取れるようにした」(小学館マーケティング局・権藤彩子さん)とのこと。今回はその実績を踏まえて「AneCan」でも取り入れたということでしょう。
また「Domani」の次にミニサイズ版を刊行した世界文化社の「家庭画報」編集長の秋山和輝さんは、msn産経ニュースの記事「ハンディサイズ家庭画報編集長に聞く 「小さく軽い」家庭画報の狙いとは?」の中で、「今回のハンディサイズも含め、読者の選択肢を増やすことが大切」と語っています。大判で迫力あるビジュアルが魅力の家庭画報の中心読者層は52歳。この試みはそれより下の40代前半をターゲットとしたそうで、通常版では1580グラムもする重さを820グラムと軽くしたことが「まだ家庭画報を買ったことのない人々に、まずは手に取ってもらうきっかけ作り」となったのか、売上も好調だったようです。
さて、通信業界に目を向けてみると、実は同じようなことが起きていることに気が付きます。そう、タブレット端末です。Appleの「iPad mini」、Googleの「Nexus 7」、Amazonの「Kindle Fire HD」、SAMSUNGの「GALAXY Tab 7.7 Plus」、そして国内勢でもNECの「MEDIAS TAB」、SHARPの「AQUOS Pad」など、まさにミニサイズのタブレット端末が目白押し。各社ともこれまで主流だった10インチサイズの通常版より小さい7インチサイズです。
各社の製品ページに並ぶキャッチコピーも、「スリムで軽く、持ち運びに便利なGoogleの7インチタブレット」(Nexus 7)、「世界で最も売れている7インチタブレットの後継機種」(Kindle Fire HD)、「大画面7.7インチの有機ELディスプレイ搭載。あらゆる情報を鮮やかに、美しく」(GALAXY Tab 7.7 Plus)、「世界最軽量 7インチタブレット誕生」(MEDIAS TAB)といった感じで、7インチであることを前面に出してアピールしているのがわかります。私自身、iPadの大きさと重さに辟易して持ち歩くのを辞めてしまったタイプの人間なので、この7インチという大きさのタブレットには興味があります。
しかしこうして比べてみると女性ファッション誌の方が、ミニサイズ版をターゲット層へアピールするのは上手だな、という印象を持ちます。ミニサイズ版のことを「AneCan」「Domani」は『バッグサイズ』、「家庭画報」は『ハンディサイズ』と言い換えることで、通常版の77%の大きさであることを伝えています。読者が想像しやすい言葉に置き換えることで、理解促進と興味想起を図っているわけです。一方のタブレット端末のほとんどは「7インチ」というワードを使っています。WirelessWire NEWSの読者の方なら「7インチはこれくらい」とわかるかもしれませんが、普段タブレット端末にさほど関心がない人にはこの「7インチ」がどれくらいの大きさかを想像するのは容易なことではありません。
仮に想像しやすいように「インチ」ではなく、私たちが日常で使う「センチ」に直して表記すると7インチ=17.78センチとなりますが、小数点下2ケタまで表記することが訴求力を高める部分ではありませんし、そもそもインチを基準に作られたものですから、当然数字のキリは良くありません。
またこのインチが「画面の対角線」の長さであることを知っている人は、意外に多くないでしょう。まして、同じ7インチ(17.78センチ)でも4:3の縦横比(例えばiPad)と16:9の縦横比(例えばAQUOS Pad)では端末サイズが違いますし、その違いを端的に伝えるのは難しいことです。
キリが良い「7インチ」というワードを使うことで「何となくわかった」感じにして誤魔化しているだけで、実際には「画面対角線17.78センチ」と言っているに過ぎません。人に置き換えれば、履歴書の自己PRの欄に「身長180cm」とか「体脂肪率15%」と言っているようなものです。これでは、誰に何を伝えたいのかわからないですよね。
私なら、例えば「AQUOS Pad」は、「大きく新聞を広げて読むより、手のひらサイズのこれで新聞を読む方がスマート」="新しい「スマート」がみえてきた"と、新聞社とタイアップしておじさん達にアプローチしますが、どうでしょうか?ディスプレイを得意げにスワイプしているおじさんたちが目に浮かびませんか?(笑)
モノ雑誌やガジェット系サイトでは「タブレットが来る!」と報じています。私も、いよいよ7インチサイズの登場で市場が広がるであろうと予想していますが、自分がいかに優れているかのスペック自慢をするのではなく、使うシーンや取り入れることで便利になることが相手に伝わる言葉で語って、新しい市場をもっともっと開拓して欲しいと思います。
文・長尾 彰一(通信・IT系コンサルタント)
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