2013年の課題と展望、あるいは希望(1) Apple篇
2013.01.21
Updated by WirelessWire News編集部 on January 21, 2013, 10:22 am JST
2013.01.21
Updated by WirelessWire News編集部 on January 21, 2013, 10:22 am JST
2013年の1月9日。成田空港からロンドンへと新生401便が羽ばたいたこの日は、経営再建を進める日本航空(JAL)にとってターニングポイントとなる日でした。
先日、毎年クリスマスシーズンに「GALAXYカフェ」になる六本木ヒルズのヒルズカフェでJALが国際線に投入した新シートを展示していました。経営再建中で思うように設備投資できなかったJAL。収益の要となる国際線で競合のANAがシートを更新しビジネス客を奪っていくのを、彼らは黙って見ているしかありませんでした。2010年1月19日の経営破綻から3年。2000億円を超える過去最高益を出し再上場も果たして、いよいよその時が訪れたということでしょう。遅れをとっていたJALの久々の新シートの実物大のモックアップを持ち込んでのイベントでした。
空港によって発着回数が決められている中で、航空業界は限られた運行回数の中でいかに利益を上げられるかが業績を左右します。最近は安い料金を武器にLCC(ローコストキャリア:格安航空会社)が一気に参入し、レガシーキャリアと呼ばれる既存の航空会社は一層厳しい競争環境に置かれています。一番求められるのはもちろん安全性ですが、LCCもレガシーキャリアも、ボーイングとエアバスという主に2つの選択肢から飛行機を選びそれぞれの戦略で機内をデザインし、提供するサービスの質や料金で差別化するという意味においては、マーケティングの構造がいまのスマートフォン業界にちょっと似ています。この目線で航空業界をあらためて見るといろんな気付きがあって面白いですよ。
さて、1月も下旬になろうとしていますが、CESも終わりスマートフォン業界各社の戦略の片鱗が見えてきました。すべてが明らかになるのはモバイル業界最大のイベント「Mobile World Congress」が終わる3月以降になると思いますが、今回から数回にわけて主要各社の2013年の課題と展望(あるいは希望)を、私の独断と偏見で考えてみます。1回目となる今回取り上げるのは「Apple」です。
年始になって日経が「iPhone 5 パネル減算 液晶大手、計画の半分に」と報道しました。報道によるとAppleは「1~3月期に計約6500万台分のパネルを発注する計画だったが、半分程度に減らすことを通告した」とのこと。週刊ダイヤモンドもこの件を詳しく報道しています(iPhone5が大幅減産で "アップル依存列島"に大打撃)が、どうやらそれは液晶パネルだけでなく主要部品においても大きく「減産モード」となったとみられています。
この減産が事実だとすれば、対前年同期比で売上高や利益を更新するという金字塔を打ち立ててきたAppleには株価に大きな影響を与えます。事実、iPhone 5の発売前には700ドル前後だった株価は、減産の報道を受けて500ドル前後にまで下がりました。
Appleはその強いブランド力、統率されたプロモーションでiPhoneの販売数を増やし、高い価格設定と低い原価率によって売上と利益を確保してきました。しかし、低い価格の商品を求める購買層にまでスマートフォンの市場が広がるにつれ、Appleのシェア獲得は以前ほど勢いを失っています(IDCのプレスリリース "Smartphones Drive Third Quarter Growth in the Worldwide Mobile Phone Market, According to IDC" を見ても、その様子がわかります -グラフは同プレスリリースより引用)。
販売計画の下振れを起因とする減産となると、打ち立てた金字塔を守るためにも、AppleはiPhone 5以外で台数を確保する必要があります。今までそれは新製品の投入と販売キャリアの増加による需要増でそれをまかなっていましたが、5から半年も経たないこの時期にそれは考えにくそうです(7ヶ月で新製品を出したiPadの例はありますが)。
ここで注目したいのが、ティム・クックCEO訪中のニュース(米アップルのクックCEOが訪中、1年足らずで2度目 - Reuters )です。欧米はクリスマス商戦を終えたばかりですが、中国はこれから春節(旧正月)を迎えます。春節は中国の人にとって1年で最も大事な休暇で、勤め先から特別ボーナスなども出るため「春節商戦」が存在します。つまり、世界で最も大きな市場規模を誇ると言われる中国で最大需要期が、これから始まるのです。
しかし、iPhone 5は減産モードなのに中国で拡販というのは、一見矛盾しているようにも見えますが、もしこれが5ではなくiPhone 4Sだと考えるとどうでしょうか。中国ではまだLTEはサービスされていませんし、価格の高いiPhone 5ですら発売から3日間で200万台も売れる市場です。大量に生産しさらに原価率を抑えることができるであろうiPhone 4Sなら、LTEを必要としない中国では戦略的価格に設定すれば、まだまだ主力になるでしょう。
また、つい最近まで販売ランキングにしばしばiPhone 4Sが登場していた日本でも、これから春商戦を迎えます。春商戦の最大顧客は新生活を迎える学生。実際に料金を支払う親(=イニシャルもランニングも安くしたい)とケータイではなくスマートフォンが欲しい学生(=本当は5が欲しいけど、買ってもらえるなら4Sでもいい)親子向けに、安い一括価格でかつ高いLTE向けプランではない学割対応の通信料金で、iPhone 4Sを目玉商品としてソフトバンクやauが投入する...なんてことはない???かもしれませんが、そういうニーズはありそうですね。
妄想はさておき、iPhone 5がAppleの目論見通りにならなかったとするなら、次の5Sに相当するiPhoneは、消費者が抱くAppleらしさへの期待値を越える製品が求められます。主役がスマートフォンに移行して構成要素での差はほとんど出せなくなりました。しかしハードもOSもユーザビリティも、完成品としてはまだコモディティ化したと言うレベルにはまだ達していません。似たりよったりだったスマートフォンの外観デザイン一つとっても、Windows Phone 8でカラフルさを前面に打ち出すものがようやく現れました。使い勝手を左右するユーザビリティも、各社が試行錯誤の連続です。
時は遡って2007年の1月9日。サンフランシスコで開かれたMacworldでiPhoneは発表されました。ジョブズCEO(当時)が「5年は追いつけない」とプレゼンした通り、まさにそれからの5年間はiPhoneが主役だったといえます。また、この日は社名を「Apple Computer, Inc.」から「Apple Inc.」に変えるとも発表した、ターニングポイントとなる日でした。あれから6年が過ぎました。2013年、Appleは、よりAppleらしい誰にも追いつけない新しいiPhoneを求められています。
文・長尾 彰一(通信・IT系コンサルタント)
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