「前週の同時刻には歌舞伎町や池袋、渋谷など限られた繁華街に人が集まっているのに、震災が発生した夜の1時には23区内に人がたくさんいることが分かります」-NTTドコモで現在研究中の「モバイル空間統計」で、震災当日の帰宅困難者の分布がはっきりと可視化された。5月25日、ワイヤレスジャパン基調講演でNTTドコモ代表取締役社長 山田隆持氏が行ったプレゼンテーションでの一コマだ。
▼3月5日(土)午前1時の東京23区の人口分布(左)と、3月12日(土)同時刻の人口分布(右)。震災当日の夜は23区中心部に多数の帰宅困難者がいるのに加え、羽田空港にも取り残されている人がいることが分かる。
携帯電話端末が電話やメールを着信できるように、携帯電話ネットワークは基地局のエリアごとに所在する携帯電話を常に把握している。モバイル空間統計は、この位置情報と、利用者の性別・年齢などの属性情報を合わせることで、時間別・地域別の人口分布や人口構成を知ることができる、統計情報である。データ作成時には属性情報のうち個人情報は完全に消去するプライバシー処理をほどこした上で集計を行う。
▼23区の時間帯別合計人口の推移。昼多く夜少ないというパターンを繰り返すが、震災直後は昼間人口が大きく減少し、元に戻るまでにほぼ3週間かかっている。
NTTドコモでは、モバイル空間統計を、まちづくりや防災計画に役立つ情報として整備運用すべく、東京大学や工学院大学などと共同研究を行っていたが(関連記事:NTTドコモと東京大学、共同で「モバイル空間統計」を利用した街づくりの研究を実施)、このたびの震災で実際に発生した帰宅困難者の数と分布が分かりやすく可視化されたことで、あらためて有用性が立証されたと言えるだろう。なお、今回発表した震災当日およびその後の帰宅困難者の統計情報は、共同研究ではなく、NTTドコモが独自に集計したデータであるとのこと。
また基調講演で山田氏は、同社の災害対策として、耐震が確保されたビル屋上などに全方位型のアンテナを設置し、非常時には半径7km程度をカバーする「大ゾーン基地局」導入の計画や、各基地局の無停電化・24時間バッテリー稼働を目指す、ビル型基地局約800局へのエンジン型発電機設置や鉄塔型基地局1100局へのバッテリー増設、パケットを利用した音声メッセージサービスの2011年内を目標にした開発などの取り組みを紹介した。
【参考情報】
・モバイル空間統計に関する情報(NTTドコモ)
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登録はこちらWirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。