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スマートフォンで参加する「金環日食限界線」プロジェクト

2012.05.15

Updated by Asako Itagaki on May 15, 2012, 16:25 pm JST

1987年9月23日の金環日食(画像提供:千葉清隆氏、撮影地:沖縄)
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2012年5月21日の朝、日本では25年ぶりに観測できる金環日食が話題だ。日食のおこるしくみ、どこで見られるのか、観測方法などが連日マスメディアやネットで取り上げられている。スマートフォンで参加できる観測として、この金環日食を全国で観測することで「金環日食限界線」を求めるプロジェクトを紹介したい。プロジェクトを実施しているのは、天文学の研究者、天文施設関係者、学校教育者、アマチュア天文家などにより構成されている「金環日食限界線研究会」だ。

参加する方法は、当日、日食グラスを使ってそれぞれに日食を観察し、観測後、最も欠けた時に金環日食(ドーナツ状の太陽)が見えたか、部分日食(ドーナツがつながらず切れたまま)だったかを、スマートフォン用の報告ページから報告する。データにはGPSで取得した位置情報が付加される。プロジェクトでは地域ごとに報告をとりまとめ、日食グラスの観測による「金環日食限界線」の実測値を決定する。

「金環日食限界線」とは、観測できる日食が、金環日食になる場所と部分日食になる場所の境界線となるライン。5月21日に日本で金環日食が見えるのは下の地図でグレーの部分で、それ以外の日本全国で部分日食が観測できるが、グレーの部分のふちが金環日食限界線となる。

今回の金環日食が見えるエリア(国立天文台・特設サイトより)
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金環日食限界線は太陽と月の大きさと、太陽・月・地球の位置関係から計算できる。現在算出されている限界線には、300メートル前後の不確かさがあり、この誤差は太陽の半径の不確かさに起因するものであるという。

最新版の理科年表に記載されている太陽の半径は69万6000kmであるが、これは1891年と100年以上も前に求められた値であり、最近の測定でも695,500kmから696,200kmまでばらつきがあるなど、真の値がいくつなのかははっきりしていない。そもそも、太陽の半径が変化しているものなのかどうかも定かではない。

5月21日には、研究者らにより、望遠鏡によるベイリービーズ(日食時、月表面の凹凸によって太陽のふちが途切れ途切れに隠れる現象)観測による太陽半径の精密測定が計画されている。日食グラスによる金環日食限界線の観測は、この精密測定を補完するデータとなる。同研究会では、13000報告を目標としている。「金環日食限界線についてこれほど大規模な共同観測が行われることは、おそらく史上初めて」(同研究会ウェブサイトより)とのことであり、科学研究におけるクラウドソーシングの一例としても興味深い事例となりそうだ。

【観測時の注意】
太陽の光は非常に強く、太陽表面の95%以上が隠れた金環日食の状態でも、直視すると「日食網膜症」の危険がある。観測時には必ず市販の日食グラスを使用し、絶対に太陽を直接見ないよう注意が必要だ。下敷きや黒いビニール袋、感光済みフィルムなどの代用品では、目に有害な波長の光を十分に遮蔽できないため危険である。写真撮影用のNDフィルタによる遮光も、人間の目には不十分なので避ける。

(追記)日食グラスを使用しない観測法としては、木もれ日の光を観察する方法、ピンホールを使う方法などがある。JAXA宇宙教育センターでは、「みんなで木もれ日を撮ろう」キャンペーン を実施する。木もれ日、ピンホールその他の観測方法については、上記サイトや次ページで紹介するリンク先を参照。

【プロジェクト情報】
みんなで日食マップをつくろう!(金環日食限界線研究会):参加方法の詳細、報告ページなどが掲載されている。報告の受け付けは5月21日午前7時から。

次のページでは、金環日食の観測に役立つアプリ・情報源を紹介する。

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2012年5月21日 金環日食関連情報

iPhone用アプリ

  • 金環食2012:地図、カウントダウン、見え方のシミュレーションなど。ARで日食時の太陽の高度、方位を確認できる。
  • 金環アプリ2012:アストロアーツ提供。ARによる見え方シミュレーション、カウントダウン、観測時の注意など。

天気予報

当日の天気予報を確認できるサイト。予報は変わりやすいので直前まで確認を。

インターネットで見る

あいにく天候に恵まれなかったり、通勤途中で空を見上げる余裕がない時は、中継で見ることができる。

  • 金環日食(Ustream):20以上の金環日食関連番組を配信予定。
  • SOLiVE24 Ch. - ウェザーニュース:日本とアジアの7カ所から中継。また、スマートフォン向けアプリ、モバイルサイトでも、利用者からよせられた写真を紹介する。
  • ECLIPSE LIVE FROM FUJIYAMA by SOLAR POWER:パナソニックによる富士山頂からの金環日食中継。あらかじめ太陽光で充電した蓄電池で、100%自然エネルギーによる中継を目指す。

その他の金環日食関連情報

次に日本国内で金環日食が観測できるのは2030年6月になる。晴天を祈って、めったに出会えない天体ショーを楽しみたい。

▼2012年5月21日 金環日食を楽しもう!(国立天文台・2012年金環日食映像制作委員会)

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。