アメリカでは、自宅にプールやホットタブを持つことはそれほど珍しいことではない。ホットタブというのは日本では見かけないけれども、数名が同時に入ることができる大きな浴槽（バスタブ）のことだ。屋内や屋外に置いておいて、水着などで入る。

日本の住宅事情と比較して考えれば羨ましい限りだが、自宅にプールがある楽しみも大きいけれども、その維持管理の負担も大きいはず。水を張ったプールを長期間放置すれば、コケが生えたり、落ち葉やゴミが浮き、雑菌や昆虫が増殖してしまう。

専門の業者に頼めば高くつくから、ホームセンターなどで買ったモップやネットで掃除をして、自分で塩素系の漂白剤などを投入するのだが、プールやホットタブを買った人のほとんどは、フィーリングと勘に頼って、いわば適当にメンテナンスしている。
 
 
AT&T、AppleやeBay、Comcastなどのハイテク企業で技術畑を歴任したJustin Miller氏は、困っている人が多いならば、技術で解決できると考え、2014年にカリフォルニア州パロアルトでConnectedYardを立ち上げpHin（「フィン」と読む）というプールのメンテナンスを支援するガジェットを発売した。発売以来ネット通販のみで売られてきたが、今年からAce Hardwareという大手小売チェーンがアメリカ国内での販売に乗り出したので、お店で実物を見てから買うことができるようになった。

pHinは、化学センサー、温度計、バッテリーとBluetooth無線ユニットを防水のケースに入れたもので、プールやホットタブにぷかぷかと浮かべて使う。専用のWi-Fiブリッジをプール近くのコンセントにつなぐと、pHinをクラウドに接続してくれる。そして、水の塩素と臭素のレベル、pH、水温をクラウドに送り続け、なんらかのアクションが必要になったら、AndroidまたはiOSのアプリに通知が届くというもの。

塩素レベルやpHの値を適正レベルにするために、あらかじめ登録したおいた水の量に応じて投入する薬剤（ショック塩素など）の量が表示される。またシステムは、薬剤の消費量をトラッキングしてくれており、なくなる前に自動的に発注してくれる。

もし、プールの状態が単なる薬剤投入ではどうにもならない場合には、アプリからメンテナンス事業者を選んで、例えばフィルター交換などの作業を依頼することもできる。また、リトマス試験紙のような試験用の紙をプールの水に浸して、色が変化したものを写真に撮影し、クラウドにアップロードすることもできる。これによって、pHin本体のセンサーで計測できない化学量も実測し、専門家に分析してもらうことができる。
 
 
pHinは、製品というよりも、薬剤の配送や業者の手配を含めたサービスなので、当初は会費制だった。入会金499ドル、年会費399ドルがかかるけれども、pHinのハードウェア自体は無償で届けられ、薬剤も必要なだけ宅配され、本体の化学センサーとバッテリーの寿命が切れる２年で交換されるというもの。

しかしその後、pHinのみ299ドルで購入して薬剤は自分で入手するパターン（２年目から年間99ドル）と、薬剤がなくなる前に届けられるパターン（４ヶ月なら408ドル、１年なら598ドル）に分けられた。どちらの場合も、バッテリー切れやセンサーの故障などでpHin本体のハードウェアが動かなくなったら、アプリがそれを察知して、無償で交換してくれる。

住宅用のプールの所有者が、自分の勘だけに頼って、薬剤を買ったり買わなかったり、使ったり使わなかったりでは、安心してプールに飛び込めない。pHinがあれば精神的な負担が軽減される。その代わりに薬剤やサービスを定期的に正しく利用するようになるから、その薬剤を届けること、業者を紹介することがConnectedYard社の事業ということになる。つまり、ConnectedYard社は、ハードウェア販売ではなくサービス提供を行う会社といえるだろう。
 
 
＜参考情報＞
ConnectedYard Announces pHin Smart Water Care Solution Now Available in Ace Hardware and Pool Supply Stores Nationwide

ConnectedYard Secures $7 Million in Series A Funding

pHin Monitors pH, Chlorine, Alkalinity of Pools and Hot Tubs