Updated by 中村 航 on October 28, 2025, 06:39 am JST
中村 航 wataru_nakamura
1985年生まれ。福岡県福岡市出身。翻訳者。テクノロジーやファッション、伝統工芸、通信、ゲームなどの分野の翻訳・校正に携わる。WirelessWire Newsでは、主に5G、セキュリティ、DXなどの話題に関連する海外ニュースの収集や記事執筆を担当。趣味は海外旅行とボードゲーム。最近はMリーグとAmong Usに熱中。
新型コロナウイルスのmRNAワクチンが、感染症対策だけでなく、一部のがん治療にも良い影響を与えているかもしれない。米テキサス大MDアンダーソンがんセンターらの研究チームが発表した観察研究によると、ワクチンを接種したがん患者は、接種していない人に比べて生存期間が長い傾向が見られたという。
mRNAワクチンは、ウイルスの遺伝情報の一部を体に覚えさせ、免疫を活性化する仕組みで知られている。一方、がんの分野では、免疫の力を利用してがん細胞を攻撃する「免疫療法」が注目を集めている。しかし、免疫療法を受けてもすべての患者が効果を得られるわけではなく、治療反応に差があることが課題となっていた。
今回の研究では、免疫療法を受けている一部の皮膚がん(悪性黒色腫)や肺がんの患者を対象に、mRNAワクチン接種の有無と治療結果を比較した。その結果、肺がんではワクチン未接種群の平均生存期間が21か月だったのに対し、接種群では37か月と約1.8倍に伸びたという。特に、治療開始から100日以内に接種した患者は、未接種者に比べ3年後の生存率が2倍に達した。また、転移性黒色腫では、未接種群の平均生存期間が27か月だった一方、接種群は追跡期間終了時点でも中央値が算出できないほど長期生存が確認された。
研究者は、ワクチンが体の免疫システムを活発にし、結果的にがん細胞に対する攻撃力を高めた可能性があると考えている。これは、ワクチンが“免疫のスイッチ”を押し、がんへの防御を後押しした形だ。
この結果は、感染症対策として開発されたmRNAワクチンが、思わぬ形でがん治療にも役立つ可能性を示している。ただし、今回の研究はあくまで観察によるもので、因果関係が確定したわけではない。今後は、ワクチン接種と免疫療法を組み合わせた臨床試験を通じて、効果の仕組みをより詳しく検証する必要がある。
参照
ESMO 2025: mRNA-based COVID vaccines generate improved responses to immunotherapy | MD Anderson Cancer Center
A surprise bonus from COVID-19 vaccines: bolstering cancer treatment | Science | AAAS
People with some cancers live longer after a COVID vaccine