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木のオフィスビルやマンションも、木造都市は「第二の森林」—森林循環経済総論(3)

木のオフィスビルやマンションも、木造都市は「第二の森林」—森林循環経済総論(3)

Wooden office buildings and condominiums are also wooden cities are “second forests”

Updated by 森林循環経済編集部 on October 29, 2025, 06:10 am JST

森林循環経済編集部 fc_editor

バイオマス化学、建築物の木造化・木質化、林業における働き方の変化、地域創生と森林の関係、森林文化、森林と接続する社会的共通資本などに関連した話題やアイデアを発信するメディア『森林循環経済』の編集部。

木質バイオマスの新規需要に関して、木造都市の展開による建材の増加にも注目すべきだ。木造都市は、「まちの木造化・木質化」と定義している。とりわけ非住宅の木造化・木質化が進めば、大きな需要が期待できる。我々プラチナ構想ネットワークは、「2050年までに9階建て以下の新規建築物を木造化・木質化する」ことをビジョンとして掲げている。樹木は大気中のCO2を吸収して成長するが、切り出した樹木を建材として建築物に利用すると、吸収されたCO2のうち木材に残った炭素は建築物の一部として固定化される。森林は炭素を固定する「第一の森林」だが、まちの木造化・木質化は都市に「第二の森林」を形成することで脱炭素に貢献できる。

木材関連の「技術の進歩」と「政策の後押し」が背景に

木造建築は、CO2を固定するだけでなく、鉄筋コンクリート建築や鉄骨建築に比べて人や健康に優しい。木は、鉄やコンクリートよりも熱容量や熱拡散率が小さいので、温度の変化が少ない。木は湿度が高くなると湿気を吸収し、逆に低くなると湿気を放出して湿度を一定に保つ「天然の調湿機」である。樹木の発散する芳香はフィトンチッドと呼ばれる殺菌力をもつ物質で、目に見えないダニやカビ、細菌類を抑制する。木材に囲まれた空間は落ち着くと言われており、木造建築は心身の健康や業務の生産性の向上に効果があることも検証されている。

木造都市が注目されるようになった背景としては、「技術の進歩」と「政策の後押し」が指摘できる。前者は、接合金物工法やCLT(直交集成板:Cross Laminated Timber)などによる耐震性・耐久性の強化や、木質系耐火部材の開発による耐火性の強化である。後者は、地球温暖化対策計画や住生活基本計画などで木造建築の促進が位置付けられており、建築基準法も木造建築の推進を後押しする改正が行われている。特に、令和3年の通常国会で改正された「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」では、従来の公共建築物に加えて民間建築物を含む建築物一般で木材利用を促進することが宣言され、先進的技術の普及促進や人材の育成、安全性に関する情報提供等が施策化されている。

木造マンション MOCXION INAGI(出典:三井ホーム)

こうした背景に後押しされ、木造都市が動き始めている。非住宅建築物の木造化・木質化ではいくつかの先進事例がみられる。複数のゼネコンやデベロッパーが木造のオフィスビルや商業施設を建設しており、たとえば三井ホームは、「木」を主要構造材に用い、高断熱・高強度・高耐久な性能を備えたサステナブルな木造マンション「MOCXION INAGI」を世に出した。坪賃料は稲城駅周辺マンションの1.4倍だがすぐに満室になっており、中高層木造建築に対する投資の可能性が高いことを示している。

木造建築物単体での建設だけでなく、複数の木造建築物が面的に展開して街区を構成する真の意味での「木造都市」が出現すれば、まちを木造化・木質化するというムーブメントが加速する。我々の次のテーマは、面的に展開する木造都市の実現である。木造都市関連の民間企業、地銀などの金融機関、自治体などと連携し、具体的な案件の形成に取り組んでいる。(プラチナ構想ネットワーク事務局長 平石 和昭)

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※『森林循環経済』2025年5月14日の記事を転載しました。
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