小西 聡氏(株式会社KDDI総合研究所代表取締役所長)
Redefining 'Connectivity' in the AI-native age
May 20, 2026
WirelessWire & Schrodinger's編集部 WirelessWire & Schrodinger's編集部
AI/6Gの時代は、単独の企業や研究分野だけで未来を作ることは難しい。KDDI総合研究所は今、通信の枠を超えたパートナリングを強化しようとしている。フィジカルAIや量子技術を支える研究だけでなく、人文系など異分野との連携も視野に入れる。KDDI総合研究所で代表取締役所長を務める小西 聡氏が語るのは、技術を囲い込むのではなく、多様な知見を掛け合わせながら未来を形にしていく新しい研究機関の姿だった。
KDDI総合研究所は、最先端技術の基礎研究に重きを置く総合研究所です。KDDI総合研究所が取り扱うのは、将来、世の中でモノになるかはわからないけれど、「目がありそうだ」「将来的に期待できる」といった、どちらかというとボトムアップの研究テーマです。一方でKDDI本社では、社会実装を見据えた技術や早期に実現すべき技術の研究をしています。そうは言っても、きれいに線引きができるわけではなく、KDDI総合研究所でも社会実装を最終的には目指しています。ただし、その社会へのインパクトや価値が明らかになっていないため、「仮説」を立てて研究を行うのがKDDI総合研究所の役割です。仮説の度合いが高い対象や、社会実装のストーリーがあいまいな対象でも研究に取り組んでいます。
最終的に、KDDIのネットワークや事業において、KDDIのお客様である数千万人というユーザーをはじめ、世界中の人々に使ってもらえる技術を創りだすことが、KDDI総合研究所の研究の特徴であり、使命です。KDDIの場合、基礎研究から社会実装・商用までのパスが比較的明確なことも魅力だと考えています。一方で、研究機関なので、学術会議(学会)やコミュニティなどの場を用いて、他機関や大学などの研究員の方々と交流する機会が持ちやすいと思います。したがって、KDDI本社よりも共同研究などの研究パートナリングの問い合わせがしやすいのではないでしょうか。本社が多くのユーザーやアセットを持つ大型船だとしたら、KDDI総合研究所はスピードが早く、小回りがきくタグボートのような存在かもしれません。
もちろん電気通信事業者ですから「つなぐ」のは当たり前です。ただ、ここで考えたいのは、KDDIは電気通信事業者であり、かねてより、つなぐことを使命としています。ただ、ここでお伝えしたいのは、物理的にビットやバイト、その集合体としてのデータがつながることに価値があるのではなく、その後に何をもたらすかが提供価値だということです。私たちは「いのち」「くらし」「こころ」を持つ存在であり、人の感情が動くことによる価値や、感情が動いて大きな社会変革につながる価値が大切だと思います。KDDIはコミュニケーションの企業ですから、ネットワークさえ提供していれば良いと考えるのではなく、人と人、人とモノ、モノとモノのコミュニケーションの発展につなげていく必要があると考えています。

今年は、特に3分野で研究をより一層深めていきたいと思います。「フィジカルAI」「セキュリティ」「量子」の3つです。これらを自社だけで完結させるのではなく、多様なパートナーとの共創を通じて社会実装につなげたい。
まず、フィジカルAIは、AIの本流中の本流だと思います。労働者人口が減っていく日本では、ロボットを使って社会をより良くすることが急務です。ロボットやドローン、IoTデバイスなどが多く登場し、人間と協働するようになっていくとき、モノが動きやすいようにネットワークを作ることが必要です。モノ側が動きやすくならないと、モノと協働する人間側にフラストレーションが溜まってしまうのです。
特にロボットは、これからの日本の強みになり得る分野だと考えています。今のところ、物量では海外勢が先行していますが、人と協働するためにロボット側に必要な「きめ細かさな心配り」や「滑らかさで自然な動作」が求められる時代や利用シーンでは、日本の特徴であり強みである、「保守を含めて、モノを丁寧に使い、モノの良さを引き出す」「改善を重ねて、より良いものにする」などの心意気や技術が生きると思います。KDDI総合研究所としても、フィジカルAIを支えるネットワークやフィジカルAIの基盤技術でお客様や世の中に貢献したいと思います。
次がセキュリティ。AI時代になって、セキュリティの大事さが加速的に増しています。あまり知られていないかもしれませんが、KDDI総合研究所では古くから暗号やサイバーセキュリティなど、セキュリティ分野の研究を継続しています。セキュリティをKDDIが提供する信頼の核にしたいと考えているからです。
フィジカルAIでロボットやドローン、IoTデバイスなどがこれまで以上に広く使われるようになったとき、「それらを制御したり、運用監視する基盤をKDDIに任せたら信頼できるというサービス群が作れる」ようにしたいと思っています。「安心して使える」ためには、ネットワークの品質はもちろんですが、セキュリティが担保されていることも大切です。特にAI時代には、安全にAIやデータを活用できる基盤が不可欠です。KDDI総合研究所では、認証技術やAI利用時の回答内容を精査する「ガードレール技術」、世界最速でかつ堅牢な暗号技術を含め、「安心して使える」ための研究開発を進めています。
そして3番目が量子計算です。量子コンピュータは、量子ゲートと呼ばれる究極の量子コンピュータが世の中に使われ始めるまでにまだ時間がかかると言われています。しかし、本格的な量子コンピュータが実現するまでの過程において、すでに疑似量子コンピュータをはじめとするさまざまなコンピュータが出てきており、日進月歩で改良が進められています。このような技術的な進化の過程において、解きたい問題をAIで解いたほうが良いのか、量子コンピュータで解いたほうがいいかは、一般には判別が難しいです。この判別をKDDIが行い、お客様の代わりに課題や問題を解いたり、解くための支援をするようなプラットフォームの研究もしています。利用者は、量子コンピューターを使うことが目的ではなく、低コストで短時間に問題を解くことが目的だからです。
また、通信事業者としては、現状のネットワークに加え、将来的には量子の状態で送受信する量子通信の研究もしています。これにより、量子コンピュータ時代でも情報を安全に送受信することができます。

我々の役割は、見通しがない世界に「仮説」を立てて検証していくことだとお話しました。「こういう世界が作れるといいよね」、「こんな価値を提供できるといいよね」という思いに対して、その裏付けをするのが研究所の機能であり、立てた仮説や思い描く世界に共感する人とパートナリングを進めています。例えば、ロボットが日々の生活に溶け込んでいる時代を想像したときに、ロボットがKDDIのネットワークや技術を使っていたら、ロボットと人が、また、ロボット同士が高い信頼性と安心安全の元で、スムーズに協働できるような世界の実現につなげていきたいと思います。
KDDI総合研究所では、強みである自社技術を磨き上げながら研究開発を続けています。これは自社技術を世の中に普及するためだけではなく、パートナリングには必要不可欠ですし、さらに、新しい技術が出てきたときにも目利き力が不可欠だからです。たとえば料理に例えると、料理という価値のあるものを作るときに、他社の素材を組み合わせるだけでなく、自社の素材も入れ、さらに、その素材を作るときには土壌や肥料もこだわって選別するようなイメージです。
自分たちの技術だけを使って価値を提供できるようなことを実現しようとしても、限界はあります。特に、大きな価値をもたらすことを目指す場合はなおさらです。そのためにパートナリングはとても大切です。目指す世界や仮説に共感してもらい、解決できる技術を提示することで、KDDI総合研究所と一緒に研究開発をしてもらえたらうれしいです。
世界の大規模な研究機関や企業の研究開発部隊に比べると、KDDI総合研究所は250人ほどの小さな研究所です。それでも、さまざまな専門分野において分野を代表する一流の研究者や著名な社員がいます。専門分野によっては、世界と同等レベル、もしくは、世界をリードしている分野もあります。異分野の最新技術をすぐに知ることができる、ということは純粋に楽しいことですよね。それだけでなく、異分野の専門家が融合することで、新たなひらめきや知見が生まれ、思わぬ成果を出すこともあります。これは小さい組織ならではの利点だと思います。
ノキア ベル研究所とは共同研究の契約を結んでいます。6Gの実用化に向けて、通信技術の研究や実証実験を共同で実施するためです。ベル研究所とは、実はKDDIの前身である国際電信電話株式会社(KDD)の時代からの長いお付き合いがあります。1950年代から衛星を使ったテレビ中継や海底ケーブルによる通信などで、共同研究をした成果が多くありました。お互いにさまざまな変遷を経ましたが、再び共同研究ができるような関係を構築できました。
宇宙の通信については、京都大学の野田進 特別教授との連携もご紹介したいです。野田先生は、フォトニック結晶レーザー(PCSEL)という特殊なレーザーを開発されています。指先に乗るほどの小型の半導体レーザーなのですが、アンプを付けた大型レーザーに匹敵する高出力化と、遠方でもレーザー光が広がらない特徴を有するレーザーを実現されました。もともと、PCSELは金属などを切断・加工するときに使えていたのですが、KDDI総合研究所では、このレーザーを工業用ではなく通信用に使おうと考えました。現在、地球から月の間である38万キロもの距離を、小型衛星でも積載できるこの超小型の半導体レーザーで通信できることを目標に研究を進めています。
私たちは世界中のさまざまな人や研究機関とつながりたいと考えていますが、思いやビジョンに共感し、互いに切磋琢磨できて、かつ、互いの強みを用いて、新たな価値を提供できるような人たちと一緒に研究開発ができるといいですね。KDDI総合研究所はまだまだ認知度が低いので、広報宣伝にも力を入れていこうと考えています。
このように人や組織を「つなぐ」話をするときには、KDDI総合研究所が専門とする分野にとどまらず、自分たちがが持っていない、例えば、人文系や社会学系などの知見も活用させていただきながら、課題感やテーマを共有して大きな成果につながるような共同研究をしていきたいです。新しい世界観やビジョンを作り、大きな価値を提供するためには、自分たちの持っている研究領域に閉じていてはダメだという課題意識を強く持っています。
部長クラスをはじめとして、「前例主義ではダメ。世の中はすごいスピードで進化している。事あるごとに課題を見つけて、カイゼンするというフィードバックループを働かせよう!」と言っています。目の前の研究テーマに没頭することも必要ですが、部長クラス以上の上位職の社員は、自分が担当する研究領域はもちろんのこと、異分野にも興味を持ち、世の中の動きを捉えて、市場・競合・自社の3Cを意識して、部下を導いてもらいたいという考えです。研究所の中にもさまざまな分野の研究がありますが、分野と分野の間の研究領域にも目を向け、異分野間の融合を通じて新たな成果を生み出すための「クロスドメインの分野」に対応できるようにしたいです。複数の領域を組み合わせて価値を生み出すクロスドメインの研究には、KDDI総合研究所のコンパクトな規模感が適していると思います。野手の正面に飛んだ打球だけでなく、三遊間のゴロやポテンヒットを許さないような組織にしたいですね。
そのためにも、2025年4月の所長就任以降は、所員間のコミュニケーションを活性化するための施策を進めています。例えば、研究所全体の飲み会では、社員に対して「できるだけ異なる部署の人と話すように」お願いしています。また、社内コミュニティとして部活動を開始したりしています。スポーツ系の部活もありますが、ボードゲーム部やお城部、数学部、物理部という、研究所らしい部もできました。部は誰でも立ち上げることができ、また、誰でも参加することができるようにしています。活動内容も各部の自律性にゆだねています。部活動では、役職に関係なく社員同士がフラットな関係で接しあえて、かつ、普段見れない一面や意外な才能を知ることができ、互いを尊重する風土の醸成にも役立っているように思います。

将来に渡って、「子どもたちが誇れる国、そして、子供たちに誇れる国」であってほしいと思います。それは必ずしも、経済的な面だけではありません。他国からリスペクトされる国だったり、あの国となら一緒に働きたいねと思ってもらえる信頼される国だったりすることだと思います。そのためにも強みを持つことは必要不可欠ですし、他国と協力しながらも自立できることも必要だと思います。その要素として、「日本は信頼できるので、彼らにまかせておけば大丈夫」と思われるような心・技・体から成る基盤が必要ですし、KDDI総合研究所はこの一翼を担う責務と覚悟を持っています。社内外の皆さんと共に、世界に誇れる、信頼できる基盤を作っていきたいと思います。
KDDI総合研究所との連携研究にご興味のある方はぜひ下記からお問い合わせください。
https://www.kddi-research.jp/inquiry.html
なお、なおKDDIグループは「ワイヤレスジャパン(WJ)×ワイヤレス・テクノロジー・パーク(WTP) 2026」(主催:リックテレコム)に出展し、未来社会にKDDIグループの通信技術が提供する価値をご紹介します。KDDI総合研究所による先端の研究内容と社会実装への道筋を体感できる数少ないチャンスですのでぜひお越しください。お待ちしております。
