Photo AC
May 20, 2026
中村 航 wataru_nakamura
1985年生まれ。福岡県福岡市出身。翻訳者。テクノロジーやファッション、伝統工芸、通信、ゲームなどの分野の翻訳・校正に携わる。WirelessWire Newsでは、主に5G、セキュリティ、DXなどの話題に関連する海外ニュースの収集や記事執筆を担当。趣味は海外旅行とボードゲーム。最近はMリーグとAmong Usに熱中。
体調が悪いとき、「この症状なら病院に行くべきか、それとも自宅で様子を見るべきか」とAIに相談したことはないだろうか。近年、スマートフォンのアプリなどを通じて、対話型AIを健康相談に活用する人が増えている。
これまで、AIへの医療相談には共通の弱点があった。それは、軽い症状であっても「念のため受診を」と過剰に勧めてしまう傾向だ。
AIはルールに忠実で、安全性を最優先する。そのため、少しでもリスクがあると「病院へ」という判断に偏りやすい。その結果、本来は自宅で安静にしていれば回復するケースでも、不必要な通院を促し、医療機関の混雑につながる可能性が指摘されていた。
こうした中、ドイツのベルリン工科大学の研究チームは、人間の医師が行うような「直感的な考え方」をAIに学ばせることで、より状況に応じた適切な助言ができる可能性を示した。
研究チームは、ChatGPTを含む10種類の大規模言語モデルを使い、新しい指示の方法を検証した。そこで注目したのは、ベテランの医師や救急隊員が、限られた情報の中で瞬時に判断を下す「熟練の勘」だ。
具体的には、AIに単に知識を検索させるのではなく、ベテラン医師の思考法そのものを模倣させた。
例えば、
「過去の似た症例」を思い浮かべながら症状を分類する
「本当にその判断でよいのか」を頭の中で何度も確認する
といったものだ。
いわば、AIに“経験豊富なプロの思考のクセ”を学ばせた形だ。
検証の結果、新しい手法を用いたAIは、自宅での安静やセルフケアで十分なケースを正しく判断できる割合が劇的に向上した。従来の指示では約13%だった正答率が、約30%近くまで改善したという。一方で、見逃してはいけない緊急性の高い症状を正しく見抜く精度は、高い水準を維持したままであった。
研究チームは、現実の医療現場では患者の説明が曖昧なことも多いため、単なる計算的な処理よりも、人間のように状況を整理しながら考える仕組みが有効だったと分析している。
この技術が進歩すれば、例えば「夜中に子どもが熱を出したとき、すぐに夜間外来へ行くべきか、朝まで様子を見ていいか」といった不安な場面で、より冷静で的確なアドバイスをくれる存在になるかもしれない。
ただし、研究者らは「現段階ではまだ限定的な環境での検証であり、一般利用での安全性についてはさらなる研究が必要だ」と慎重な姿勢も示している。
(中村 航/翻訳家)
参照
Reasoning like a human: New prompting strategy boosts AI accuracy in healthcare advice | EurekAlert!
JMIR Biomedical Engineering – Increasing Large Language Model Accuracy for Care-Seeking Advice Using Prompts Reflecting Human Reasoning Strategies in the Real World: Validation Study