July 16, 2026
清水 亮 ryo_shimizu
新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。
職業柄「ChatGPTに質問したとき、自社の製品が一番に出るようにするには?」みたいなことを聞かれることがよくある。
かつてのSEO(検索エンジン最適化)のように、エージェンティックAI最適化ができるのではないかという期待から、おそらくこういうことを聞いてくるのだろう。最近では、AIO(AI最適化)、LLMO(LLM最適化)なんていう怪しいキーワードもオマケで聞かれたりする。
聞かれたりするので調べるのだが、少なくとも仕事として10年、各種大学や研究機関でAIを研究してきた経験からすると、そもそもAIに向けて特定の情報や知識を与えて能力を損なわないように最適化するのは仮に手元にAIがあっても難しい。ましてやクラウドの向こう側にあるChatGPTだのGeminiだのGoogle AIモードだのに向けて最適化するというのは原理的に不可能と言える。
ファインチューニングを不用意に行うと、破滅的忘却によって元の知識や能力が損なわれることがある。これを防ぐためには、継続学習(Continual Learning)やContinued Pretraining、Replay、正則化手法などを用いて、元の分布をある程度維持しながら追加学習を行うのが一般的である。必ずしも事前学習データ全体を再学習する必要はないが、高品質な追加学習には依然として相応の計算資源が必要となる。
ただ、それは手元にAIモデル(LLM)の本体がある場合であって、SEOやAIOの目的はGoogle AIモードやChatGPTに聞いた時に自社の製品を有利に見せることだから、そもそもこの方法は使えない。
ChatGPTやGeminiのようなエージェンティックAIに対してフレンドリーなWebサイトは構築できるだろうが、それは一般のWebサイトと何ら変わりない。したがってAIに最適化したWebサイトの作り方など誰も知らないというのが本当のところだ。
ところが顧客の無知に付け込んで、あたかもこういう夢のようなことができるように見せかける商売が密かに横行し始めているようだ。だからめぐりめぐって筆者に質問が来るのである。「そんなことは本当に可能なの?」と。
しかし、AIのことはAIに聞けばもっと簡単にわかる。AIに聞くと、「基本的には従来のSEOと同じことをやるしかない」と返される。
ただ、従来のSEOと同じとは言ったが、AIによる作文が溢れている現代においては、SEOの作法も少し異なってくる。
AIは、AI生成された文章を人間よりも敏感に見分けることができる。
例えば友人が書いたおそらくほとんどはAI生成のページをChatGPTに分析させたら80%がAI生成であるという結論が得られた。これは筆者自身の感覚としてもおそらくそうだろうなというところだ。
筆者もLLMが登場してからしばらくの間は、面白がってLLMに原稿を書かせていた。だが自分で読む気がしないものばかりが量産されてきて、LLMを使うのをやめた。筆者にとって文章を書くことは楽しいことで、それが全く苦にならないから売文業を40年も続けてこられた。その楽しみをAIに奪わせてみたが、AIはちっとも楽しい文章を書いてくれない。大袈裟すぎるか、視野が狭すぎるか、とにかくどうでもいいことばかり書く上にリズム感がない。
しかし、世の中にはAIで書かれた文章が溢れるようになった。文章だけでなく画像も動画も、AIを使ってないもののほうが相対的に少なくなってきている傾向がある。人間が一冊の本を書く間にAIは百冊分の文章を生成できる。画像や動画ではこの差がもっと開く。最新のAIは、1.8秒で5秒の音声付き動画を生成できる。もう消費するより生成するほうが高速化されたので、それを見る時間を捻出するほうが難しくなる。
もしも筆者がGoogleやOpenAIのエージェンティックAIの設計者、もしくはMicrosoftやGoogleの検索エンジン設計者だったとしたら、検索エンジンのアルゴリズムにはAIで作成されたと思われる文章のスコアを下げる方向に調整するだろう。
LLMが登場するまで、文章や画像の「質」を機械的に判定することは不可能だった。
しかし今、文章の判定は人間よりも高速かつ正確にAIが行うことができる。その文章がどのくらい有用か、人間に好まれているか、広く知れ渡っているか、今のAIはリアルタイムに解釈することができる。
それがいわゆるページの重要度を評価するスコアに影響を与えないようにし続けるモチベーションは検索エンジン側にはない。
ということは、AIによってかよらずかに関わらず、文章の質を上げることがもっとも重要なSEO/AIOということになる。かつてSEOといえば、大量のダミーサイトを作りダミーリンクを張り巡らせて意図的に「全く重要でないサイトを重要であるかのように見せかける」ほとんど詐欺的な手段が横行していた。
しかし今やそうしたダミーサイトは、いとも簡単にAIに見破られてしまう。したがって、「従来のSEO」と呼ばれるもののうち、詐欺まがいの手段はすべて封じられると考えたほうが良いだろう。
それよりも「文章の質」「サイトの質」「画像の美しさ」などが優先的に評価されるようになる。
すると重要度を増すのは、「実際に立派な製品をつくり、価値ある情報を発信し、美しいサイトを作ること」になる。
かつての世界は、インターネットというのは現実世界のオマケに過ぎなかった。現実世界がまずあり、インターネットという世界は、現実世界につけられたアノテーションのようなものだった。Webサイトを持たない会社というのも20年ほど前はざらにあった。
しかし今や、多くの人々にとって、インターネットは現実世界そのものか、より重要なものになっている。
そうした人々にとって、インターネットに存在しないものは、現実に存在していないのに等しい。少なくとも認知されてはいない。逆にインターネットに存在しているものは、どんなものであれ、誰かに知らない人に認知され得るものとなっている。
さらに世界が進むと、エージェンティックAIが認識または検索できないものは、そのAIとそのユーザーにとって存在しないに等しいということになる。
Claude Codeを使っていると、最新のモデルに簡単な指示を出しても、一年か二年前の手法で解決しようとすることがある。それを横で見ていて「ちょっと待て、お前の手法は古いぞ」と指摘して、最新の論文のURLを貼り付けると、「すみません。もっといい方法があるんですね」とそちらを見にいくようになる。
これはAIモデルの知識的カットオーバーが、だいたい1年か2年前だったりするからだ。もちろんこれを補うために、随時検索を使ったりもするのだが、その検索にしてからが結局、インターネットにないものは検索できないわけだから、エージェンティックAIの知識は検索エンジンと同様の偏りを持つことになる。
Googleはしずかに検索APIの終了を始めている。Google Custom Search APIは、新規受付を中止し、2027年1月1日に廃止が決定した。Claude Codeや各種カスタムエージェントに、Google Custom Search APIを検索ツールとして接続している開発者もいることを考えるとこの影響は小さくはない。
それ以降に一般的なWebを検索するには、Gemini APIを使う必要がある。これはGoogle的にはかなり大きな変更となる。
つまり、一般的なWebの検索サービスはAPIとしては提供せず、かならずAIを通して使わなくてはならないということだ。
Googleが公開している代替策の一つが、Gemini APIのGoogle Search Groundingだ。ただし、これは従来の検索APIと同じものではない。従来は検索結果のタイトル、URL、スニペットをアプリケーションが直接受け取り、独自の基準で選別して任意のAIに渡せた。Search Groundingでは、Gemini自身が検索語を作り、検索し、結果を選別して、引用付きの回答を生成する。
Googleは全Web検索を必要とする法人向けに個別問い合わせ窓口も案内しているため、「今後Google検索を使うには必ずGeminiを通さなければならない」とまでは断定できない。しかし、一般開発者が安価なAPIキーだけでGoogleの検索結果一覧を取得する道が閉じられ、公開された標準ルートがAI統合型へ移ることの意味は大きい。
つまり、自作のエージェンティックAIの機能水準を保つには、独自の検索エンジンを持つか、ほかの検索エンジンサービスを使う必要が出てくるということになる。
独自の検索エンジンを持つのは一般家庭ではかなり難しいので、しばらくは代替手段としてBrave Searchなどが使われると思われるが、これまで長きにわたって検索APIを提供してきたGoogleの立場から考えると、完全にインターネットとの向き合い方をWeb-人間ではなく、Web-AI-人間という三層構造にしようという意図が伺える。
このようなときにAI向け最適化を通り一遍の手法でできるとは考えにくい。手順はあるものの、単純に検索エンジンがよりインテリジェント化してしまうので、Webサイトに公開されている情報の信憑性はもちろん、その質が激しく問われることになる。正攻法で「よいWeb」を作るしか、真のAIOは達成できない。つまりこのことは、決して人任せにはできないのである。