WirelessWire News Technology to implement the future

by Category

世界の概況(4)携帯業界プレイヤーの変遷

2010.04.22

Updated by Michi Kaifu on April 22, 2010, 11:50 am JST

○ここまでのシリーズでは、主に携帯電話のサービスと、それを担うキャリアにフォーカスしてきたが、携帯電話業界を構成するもう一方の主要プレイヤーである「ベンダー」についても簡単にまとめておこう。

○スマートフォンの台頭が、携帯電話端末ベンダーのシェアに大きな変動をもたらしている。また、スマートフォンでは、ハードウェアよりも上位の「OS」のレイヤーに価値が移りつつある。

1. 世代交代の進む携帯電話端末ベンダー

携帯電話端末の販売は、2008年のリーマンショック以降の消費冷え込みのため、世界的に販売不振が続いていたが、2009年第四四半期は1年ぶりに、前年同期を10%以上上回り、回復の兆しが見えている(Strategy AnalyticsおよびIDCによる)。

回復を牽引しているのは、市場の最上位に位置するスマートフォンと、新興国を中心とした低価格モデルであり、かつて先進国のボリュームマーケットであった200ドル前後の「中位」フィーチャーフォン市場は上下に分離して徐々に縮小している(※出典)。

こうした中で、2009年通年の世界ベンダー別販売シェアではノキアが40%近くを占めるトップであるが、これにサムスン(20%)、LG(10%)の韓国勢2社が迫っている。トップ5社のうち、前年比で販売数を伸ばしているのはこの2社のみで、ノキアは8%、ソニー・エリクソンとモトローラは40%以上も減少している(※出典)。

201004221150-1.jpg
出典:Strategy Analytics

グラフの中で「その他」が目立って大きくシェアを伸ばしているのは、スマートフォンの2大勢力であるアップルとリサーチ・イン・モーション(RIM、ブラックベリーのメーカー)のおかげである。アップルは2009年第四四半期の販売が前年同期比100%増、RIMは40%増と、いずれも爆発的な伸びを示している。

すなわち、世界の携帯電話端末においては、ソニー・エリクソン、モトローラなどの伝統的な携帯電話メーカーから、新興の韓国勢やスマートフォン専業メーカーといった新しい顔ぶれへの世代交代が着々と進んでいるのである。

===

2. スマートフォンの躍進

携帯電話端末全体に対するスマートフォンの販売シェアは、2009年末現在で15%であり、前年の13%から順調に伸びている(Strategy Analyticsによる)。

スマートフォンという用語は、使う人によりやや異なった使い方をされてきており、調査会社(特に欧州系)においては「汎用OSを搭載している端末」という定義で、ノキア系のシンビアン搭載「高機能携帯端末」に近いものも含まれる。このため、スマートフォンの世界シェアでは、ノキアが過去一貫してシェアのトップを占めている。上記の15%は、これらを含んでいる。

しかし、ノキアの存在感が低い米国や日本では、スマートフォンといえば「フルブラウザが使える携帯端末」であり、フォームファクターとしては「qwertyキーボードを使えるもの」がイメージとして定着している。

米国では、RIMブラックベリー端末が引き続きシェアのトップを占めている。アップルiPhoneが急追しているが、ブラックベリーも引き続き順調に販売を増やしている。

これらを全部含めると、世界的には、ノキア、アップル、RIMの3社がスマートフォンのトップ・プレイヤーということができる。

201004221150-2.jpg
出典:Strategy Analytics

米国型の「ネット利用」を主眼としたタイプのスマートフォンが急成長フェーズにはいったのは2005年頃である。長年にわたって「ポケベル」的なメール専用端末であったブラックベリーが、主要キャリア全部に対応して音声機能搭載を完了した時期に当たる。その後スマートフォンが急成長を遂げた2000年代後半は、ネット上で「Web2.0」と呼ばれる潮流が大きく動いていた時期と重なる。写真やテキストなどのユーザー生成コンテンツをソーシャル・ネットワークにアップロードしたり閲覧したりするために、普通の携帯電話より適していたことが、スマートフォンの急成長を促した。

第二回で述べたように、特に米国においては、スマートフォンはキャリアにとってARPUを向上させる効果を持ってきた。音声契約に加えて、データ契約料金が上乗せされ、またビジネスマンや技術に強いハイエンド・ユーザーが中心であることがその背景となっている。このため、米国キャリアでは端末ラインアップの中で特にスマートフォンを強力にプッシュしてきており、ユーザーの嗜好もスマートフォンが「流行アイテム」と見られるようになっている。

その一方、動画系サービスなどの大きな帯域を消費するアプリケーションが使われることにより、キャリアの周波数帯域を圧迫するという問題が起こってきており、キャリアにとってスマートフォンをどのように扱うかは、戦略的に重要なポイントとなっている。

===

3. スマートフォンOSの「隣町対抗戦」

従来の音声中心の携帯電話の世界では、電話端末はそこで完結しており、音声とメール(SMS)が送れればよかったために、キャリアとユーザーの間には「携帯端末メーカー」だけしか必要なかった。しかしスマートフォンにおいては、パソコンと同様、種々のアプリケーションを載せて動かしたり、ネットと連携して利用したりすることに大きな価値があり、それを可能にする「OS」レイヤーが重要になってきた。

初期にブラックベリーの主要競合勢力であったパーム(ハード+OS)とマイクロソフト(OSのみ)は、現在勢いを失っている。世界で首位のシンビアン(OSのみ)、米国首位を堅持するRIM(ハード+OS)、2007年発売のiPhone(ハード+OS)がトップ3を形成し、これにさらに昨年末のクリスマス商戦でAndroid搭載端末が急速に勢力を伸ばした。現在、OS別ではAndroid(OSのみ)がメジャーの一角に喰い込む勢いとなっている(Gartnerによる)。

201004221150-3.jpg
出典:Gartnerによる

ちょうどパソコンにおいて、ハードウェアからOS、OSからウェブ、とだんだん上位レイヤーへと価値が移り変わった経緯と同様に、スマートフォンにおいても、現在はハードウェアからOSへと価値が移り変わるフェーズにある。ブラックベリーやiPhoneに見られるように、携帯端末においては、ハードウェアとOSはパソコンよりも深く結びついており、この二つのレイヤーは完全に切り離せない。しかし、複数ベンダーが対応しているAndroidの台頭により、この状況も少々変化しつつある。

こうした上位レイヤーへの価値の移行は、第二回で述べたように、先進国において、キャリアの統合や技術標準の統合などにより、地域や無線技術で細分化していた通信のレイヤーがかなり「広い平面」となったことで可能となった。

典型的なケースがiPhoneである。iPhone(3G)は、無線方式は3G周波数帯のW-CDMAに対応しており、欧州・米国・日本・新興国の大多数で、同じ無線チップでそのまま利用可能である。このため、基本的なハードウェアは共通な単一モデルで、主力市場である米国での販売数量によるコスト効果をその他の市場でも利用でき、薄く横に広がった形で世界で使われて、強力なブランドを確立した。この「単一モデル・単一OS」であり、なおかつ「強力なブランドにより多くのユーザーの手に既に渡っている端末」という、良好な広い平面ができたために、この上で数多くのアプリケーション開発者が新しいアプリやサービスを展開することができるようになった。

こうしてスマートフォン成長の起爆剤となったiPhoneに対抗して、グーグルの推すAndroidが急速に勢いを増している。端末販売数でなく、トラフィックで見ると、さらにiPhoneとAndroidの存在感が大きい(AdMobによる)。ネットを使ってもらうことで商売になるこれら新興2社のビジネスの性質が、従来型の端末とは違うことがわかる。

201004221150-4.jpg
出典:AdMob

アップルとグーグルの本社は、車で移動すれば30分とかからないご近所同士であり、両社の競合は「隣町対抗戦」の様相を呈している。「ネット端末」としてのスマートフォンが、ネットビジネスの中心地を本拠とすることは自然であり、シリコンバレーに集積する「ソフト開発者」を自社陣営により多く取り込もうとする争奪戦というのが、その隣町対抗戦の正体である。開発者コミュニティを味方につけるべく、「よそ者」であるノキア、RIM、マイクロソフトなども、シリコンバレーに開発拠点を置き、技術者や外部開発者の獲得戦に参戦している。スマートフォンのブレイク以降、従来は携帯ビジネスの「辺境」であったシリコンバレーが、急速に「台風の目」となりつつある。

===

4. インフラ機器でも世代交代

ユーザーの目からは見えない、キャリアのネットワークの中身を担うインフラ機器においても、最近は世代交代が進んでいる。

2Gデジタルの頃までは、携帯電話設備(基地局・交換機)の主力ベンダーは、エリクソン、ルーセント、ノーテル、アルカテル、モトローラ、シーメンスなどであった。しかし、先進国で2Gデジタルの投資が一巡し、テレコム・バブルが崩壊した2000年代前半に、インフラ機器の市場が縮小し、大規模な統合が起こった。ノーテルは倒産(エリクソンが一部買収)、アルカテルとルーセントは合併、シーメンスはノキアと合弁、モトローラは経営危機がつづいている。その一方で急速に台頭してきたのが、中国のファーウェイ(華為技術)である。

ファーウェイの主要顧客は、中国の国内キャリアである。自国主義の強い中国において、自国内の携帯市場の急拡大に伴い、販売数量を急速に伸ばした。先進国ベンダーが苦労している中で反対に急成長したために、最近では世界トップ3に食い込んでいる。地元中国の低コスト製造体質に加え、数量効果によるコスト優位も加わり、自国に続いて、同じく急成長中の新興国市場や、IP化による設備更改がそろそろ動き出す先進国市場へも展開し始めている。MWCやCTIAといった携帯電話の国際展示会において、現在最も積極的な売り込みを行なっているのはファーウェイである。その結果、現在携帯インフラ設備の世界トップ3は、エリクソンがシェア35%で1位、ノキア・シーメンスとファーウェイがほぼ同じ21%でデッドヒートという顔ぶれになっている(Dell'Oroによる)。

インフラ機器市場は、現在はまた設備投資の「端境期」にはいっているが、今年後半あたりからは、LTEへの投資がマーケットシェアに徐々に寄与してくると見られている。

WirelessWire Weekly

おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)

登録はこちら

海部美知(かいふ・みち)

ENOTECH Consulting代表。NTT米国法人、および米国通信事業者にて事業開発担当の後、経営コンサルタントとして独立。著書に『パラダイス鎖国』がある。現在、シリコン・バレー在住。
(ブログ)Tech Mom from Silicon Valley
(英語版ブログ)Tech Mom Version E