○現在の米国携帯市場は、市場の大半を占める大手4社とその他の零細キャリアから成る。元々は地域別をベースに多数のキャリアが存在したが、買収統合を繰り返して今の形となっている。
○大手4社の中でもそれぞれ3割のシェアを占めるAT&Tとベライゾン・ワイヤレスは、固定電話も持つ総合キャリアであるが、採用している無線通信の方式や端末戦略などは大きく異なっている。北米編第一回では、両者の特徴を見てみよう。
米国の携帯事業者は、大手4社が市場シェアの大半を占めるが、その他に数多くの零細キャリアがひしめいており、2006年末現在で180社程度存在する。(CTIAによる)米国では、携帯だけでなく固定電話1も、非常に数多くのキャリアが存在する。日本ならば、ISPほどの規模と企業数の感覚と思えばいいだろう。
80年代、アナログ携帯電話(800MHz帯)の免許を割り当てる際に、地域電話会社のエリアをベースに734の地域に分け、地域電話会社と新規参入者に割り当てた2。その後、買収統合が進んだが、90年代半ばのデジタル(2G、1.9GHz帯)免許割り当て3の際に再度数が増えた。このときも、従来よりは少し大きな区域分けにしたものの、やはり数多くの地域に分かれ4、かつ周波数を全部で6つに分けた膨大な数となり、また数多くの新規参入があった。その後また買収の繰り返しによって、ようやく180まで数が減ってきた、というのが現状である5。米国では固定電話でも、「AT&T独占」と言われた時代ですら、1万以上の「独立系電話会社」があり、長年にわたって統合を繰り返してきた歴史がある。「多数キャリアで出発、その後買収統合の繰り返し」というプロセスは、ほとんど米国通信業界の「習性」ともなっている。
これらのうち、現在トップは老舗のAT&Tとベライゾンの2社でシェア30%台を確保。これらに、デジタルからの新規参入スプリントと、外資系のTモバイルを合わせた4社が「メジャー4社」であり、これに新旧合わせた多くの中小キャリアが続く。
AT&Tとベライゾンの2社は、固定電話も持つ総合キャリアであり、スプリントとTモバイルは固定電話はほとんど持たない専業キャリアである。
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2009年末現在で加入者シェア・トップのベライゾン・ワイヤレスは、大手固定電話キャリアのベライゾンと英国のヴォーダフォンの合弁会社であるが、ブランドも経営方針も完全にベライゾンが主導、無線方式も現在のところCDMA2000方式で、ヴォーダフォンの影響はほとんど見られない。全国でサービス展開しているが、親会社ベライゾンは東海岸が本拠地である。
ベライゾンの特徴は「ネットワーク品質」であり、テレビ広告でも、端末やアプリなどよりネットワーク品質を強調するものが多く、「高品質」のブランドイメージを作り上げている。特に3G移行以後、この傾向が強まっている。
ベライゾンの採用するCDMA2000方式は、2GのCDMA方式と後方互換性があるため、設備を3Gに更改しても2G端末を持つユーザーをサポートすることができ、このため3Gへのネットワーク更改を早く進めることができた。日本のKDDIと同様の事情である。買収統合の過程でも、大多数はCDMA方式のキャリアだけを買い集め、全体の整合性を取ることができた。2009年のクリスマス商戦で、Android対応スマートフォン、Droidシリーズを鳴り物入りで発売した際、ベライゾンとAT&Tの3Gカバレッジの地図を使った露骨な比較広告を行ったことで話題になったが、こうした「ネットワーク品質へのこだわり」は同社の大きな特徴であり、またユーザーの評価も高い。
米国のアナリストが携帯キャリアを評価する際、売上や利益とともに、ARPU、解約率、プリペイド比率などの「顧客の質」も大きな要素となるが、こうした点でもベライゾンは常に高い評価を得ている。
一方で、「つながらない」「切れる」「アプリが動かない」などのサービス品質問題に対して非常に敏感であり、このため動画配信などの容量を大量消費する使い方に制約が多い、コンテンツ・サービスやアプリケーションなどに対する審査が厳しい、などといった「頭が固い」「ダサい」「保守的」のイメージも、アプリケーション開発者を中心に定着している。
顧客層としては、高品質を重視するビジネスマンとその家族が主力ターゲットであり、そのために現在の主力端末ラインアップは「Blackberry」や「Droid」を中心としたスマートフォンである。販売網も強力であり、ベライゾンが売りだした途端にAndroidのシェアが急上昇し始めた。
▼「ファミリー向け」と「3Gカバレッジ」を強調した最近のテレビCM。
ベライゾンは、2008年に行われた700MHz帯の周波数オークションにおいて、米国本土を完全にカバーできる免許を取得した1。現在この新しい周波数に次世代LTE方式の設備を建設中で、2010年中にLTEのサービスを開始する予定である。LTEは欧州でも次世代の主流方式となっており、ようやくベライゾンのパートナーであるヴォーダフォンとも方式統一が図れることになっている。
なお、ベライゾンの固定電話事業と携帯電話事業の間にはまだあまり相互関連性がないが、販売網の相互乗り入れや人事交流などの組織面で統合努力がここ数年行われており、また固定ブロードバンドでのIPTVと携帯の統合サービスなども試されている。
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3. AT&Tワイヤレスの特徴
第二位のAT&Tワイヤレスは、iPhoneおよびiPadを独占的に扱うキャリアであり、日本のソフトバンクと同様、iPhoneの魅力で加入者を順調に増やしている。テキサスを本拠として主に米国西部をテリトリーとする固定電話のAT&T(旧SBC)の一部門であるが、買収統合の過程はベライゾンと比べてはるかに複雑であり、2GではTDMAとGSM方式が混在し、全体の無線ネットワークやバックエンド・システムを統一するのに長い時間がかかっている。
米国では、2Gデジタル移行時に、世界標準の3G周波数と一部重なる1.9GHz帯を競売し、3G用にとっておくべき周波数帯に2Gを入れてしまった形となった。日本では、W-CDMAに移行する際、まっさらな3G周波数帯に新しい設備を建設することができたが、米国では3G移行を同じ周波数帯の中で行わなければならなかった。前述のように、ベライゾンはCDMA2000の後方互換性のおかげで、2G端末を持つユーザーを気にせず一気に3Gに転換できたが、AT&Tは2GでTDMAとGSMが混在しており、いずれも次世代のW-CDMAと互換性がなかった。このため、まずTDMAをGSMに移し、次にGSM(2G)端末を持つユーザーをサポートできる容量を残しながら、一部分ずつW-CDMA(3G)を入れていくという手間のかかる移行作業を行う必要があった。ベライゾンや日欧に比べて、米国のGSM系キャリアの3Gネットワーク展開が遅れているのはこのためである。
AT&TがiPhoneの独占販売契約を行ったのは、こうした苦労がつづいている最中のことだった。iPhoneでは、端末販売やアプリケーションの販売や、ユーザーとの関係といった面で、キャリアの主導権が大幅にアップルに奪われ、データ・トラフィックが増大してしまうと予測されていたが、それでも敢えてインパクトのある端末を導入する意味は、当時のAT&Tにとっては大きかった。
iPhone導入が当たってAT&Tは加入者を大幅に伸ばしたが、予想通りiPhoneにはヘビーユーザーが多く、YouTubeなどの大容量アプリケーションも寄与してトラフィックが急増。前述のようにもともとネットワークがやや弱いため、ユーザー密度の高い地域では容量逼迫が起こってきた。現在、同社はこれを解消すべく容量拡張を進めている。
品質では苦労しているが、アナログ時代からの基地局設備や販売網を持っており、またGSM/W-CDMA方式が欧州と共通であるため、欧州系の端末がはいりやすく、国際ローミングも容易という特徴もあり、3位以下を引き離した地位を確保している。
顧客ターゲットはベライゾンほどはっきりしておらず、iPhoneとその他の端末を含め、ほぼ「全方位」のマス顧客をターゲットとしているように見える。
▼iPadが最後に少し登場する、最近のイメージ広告
AT&Tは、4G用の700MHz免許1をすでに一部持っていたアロハ・ワイヤレスを買収しており、アロハの持っていない地域を2008年のオークションで補い、ほぼ全米をカバーできる免許を獲得済みである。同社もLTEを導入予定であるが、現在のところ、具体的なサービス開始スケジュールは発表していない。
また、AT&Tでもベライゾンと同様、社内での固定・携帯の交流や統合を進めている。固定の光ブロードバンドでも、ベライゾンと比べて展開が遅れているが、IPTVと携帯の統合もベライゾン同様に取り組んでいる。
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ENOTECH Consulting代表。NTT米国法人、および米国通信事業者にて事業開発担当の後、経営コンサルタントとして独立。著書に『パラダイス鎖国』がある。現在、シリコン・バレー在住。
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