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カンボジアの携帯電話事情(3) - CooTelのスマートフォンでMcWiLL方式を試す

2015.03.02

Updated by Kazuteru Tamura on March 2, 2015, 16:00 pm JST

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中国の信威通信産業(Xinwei Telecom Enterprise)グループはカンボジア王国(以下、カンボジア)において現地法人のXinwei (Cambodia) Telecomを設立し、McWiLL方式で移動体通信サービスを提供している。世界的に商用サービスでMcWiLL方式を採用する事例は少なく、McWiLL方式で携帯電話サービスを提供する事例はより少ない。したがって、Xinwei (Cambodia) TelecomはMcWiLL方式で携帯電話サービスを提供する数少ない移動体通信事業者と言える。

筆者はカンボジアの首都・プノンペンに渡航し、Xinwei (Cambodia) Telecomの展開を視察してきたので、今回はXinwei (Cambodia) Telecomの現状をお伝えする。なお、Xinwei (Cambodia) Telecomはブランド名のCooTelで展開しているため、以下からブランド名で表記する。

McWiLL方式でサービスを提供

McWiLLはMulti-Carrier Wireless Information Local Loopの略で、SCDMA方式をベースとして移動体通信および固定通信の両方で採用されることを想定して開発された。音声通話やデータ通信に対応し、復信方式は時分割複信(TDD)を採用する。開発は信威産業通信グループの中核企業である北京信威通信技術(Beijing Xinwei Telecom Technology)を中心とした複数の中国企業が主導し、北京信威通信技術はMcWiLLを登録商標としている。中国ではしばしばWiMAX方式の競合規格として比較されることもある。

国際電気通信連合(ITU)は初期の3Gと比べて性能などの面で発展した通信方式は4Gとの呼称を認める声明を発出しており、その影響かCooTelの公式ウェブサイトではMcWiLL方式を4Gと呼称している。

CooTelは2013年10月31日にプノンペン市内でプレスカンファレンスを開催し、カンボジアにおいて携帯電話サービスの提供を開始すると発表した。カンボジアには2015年初めの時点で7社の移動体通信事業者が存在するが、CooTelは最も新しい移動体通信事業者となる。McWiLL方式の周波数は1785.0〜1805.0MHzを使用しており、プレフィックス番号は038が割り当てられている。

▼プノンペン市内にある本社併設の販売店。
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▼プノンペン国際空港に設置されているブース。
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SIMカードを採用しないSIMlessが特徴

CooTelはMcWiLL方式の特徴の一つとしてSIMカードを採用しないSIMlessを挙げている。CooTelの利用者には1つの電話番号につき1つのアカウント番号(UID)が与えられており、そのアカウントに対してユーザ名やパスワードを設定できる。CooTelはアカウントにログインするためのウェブサイトやアプリケーションを用意しており、ウェブページからはユーザ名とパスワード、電話番号とパスワード、アカウント番号とパスワードの3つのいずれかの組み合わせでログイン可能だ。また、Androidスマートフォン向けに提供しているアプリケーションからはユーザ名とパスワードでログイン可能となっている。端末を変更した場合はログインするだけでサービスの利用が可能となるため、SIMカードを抜き挿しする煩わしい手間を省けるとして、Facebookと同じような感覚でログインして利用できると手軽さをアピールしている。

なお、CooTelが販売するスマートフォンにはログインするためのアプリケーションがプリインストールされており、ユーザ側でインストールする必要はない。また、ユーザ名の変更など一部機能はログイン中かつMcWiLLネットワークに接続中の場合に限り利用可能としている。

▼CooTelのスマートフォンには複数のCooTelのアプリケーションがプリインストールされている。カンボジアの象徴的な存在であるアンコールワットの壁紙もプリインストールされている。
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▼プリインストールされているAccountがCooTelのアカウントを管理できるアプリケーションである。
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スマートフォンなどMcWiLL対応端末を販売

McWiLL方式に対応した端末はあまり流通しておらず、基本的にCooTelのサービスを利用する場合はCooTelが提供する端末をレンタルまたは購入することになる。CooTelはスマートフォン、タブレット、フィーチャーフォン、据置型電話、無線LANルータなど豊富なラインナップを用意しており、用途に合わせて端末を選べる。

McWiLL方式は北京信威通信技術が主導して開発したこともあり、McWiLL方式の開発段階の頃から端末の開発まで信威通信産業グループが手掛けている。McWiLL方式は採用事例が少ないだけに、他社がMcWiLL方式に対応した端末を積極的に開発するとは考えにくく、充実したラインナップを提供するのであれば、端末開発まで信威通信産業グループで手掛けるしかない。

具体的には信威産業通信グループの重慶信威通信技術(Chongqing Xinwei Telecom Technology)が端末の開発を手掛けており、CooTelのサービス開始と同時に投入されたCooTel Mi106とCooTel Mi108が世界初のコンシューマ向けMcWiLL対応スマートフォンとなる。携帯電話サービスにおけるMcWiLL方式の採用は広がっておらず、コンシューマ向けのMcWiLL対応スマートフォンはCooTelのみが販売していると言って差支えない状況にある。

▼CooTelが販売しているCooTel Mi106の化粧箱。
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▼CooTel Mi106のフロント。OSにはAndroid 4.0.4 (Ice Cream Sandwich)を採用する。
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▼CooTel Mi106のリア。リアカバーにはPowered by McWiLLとプリントされている。
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スマートフォンでMcWiLLを試す

CooTelの端末はレンタルもしくは購入の2パターンを選べる。カンボジアではローエンドのスマートフォンでさえ決して安価なものではなく、手軽に利用できるようにするためレンタルも用意している。プノンペン国際空港のブースでもレンタルや購入を受け付けており、カンボジアを訪問した外国人でも利用できる。

筆者はCooTel Mi106を購入してCooTelのMcWiLLネットワークを試すことにした。プノンペン市内に構える本社に併設された販売店に足を運んでCooTel Mi106を購入した。端末価格は89米ドルで、2米ドル分のトップアップを購入したため、支払総額は91米ドルとなった。米ドルが通用するカンボジアでは現地通貨のカンボジアリエルも流通しているが、価格はすべて米ドルで表記されていた。釣り銭がカンボジアリエルとなる場合はあるが、あえてカンボジアリエルを用意する必要はない。また、購入の際にはIDカードまたはパスポートを提示する必要がある。

データ通信はサービス名をCooSurfとして提供しており、パッケージは2米ドルのCooSurf2、5米ドルのCooSurf5、10米ドルのCooSurf10で計3種類が用意されている。いずれも有効期限は1ヶ月で、データ通信容量はCooSurf2が1.5GB、CooSurf5が5GB、CooSurf10が無制限となる。なお、CooSurf10には無制限のCooTel同士の音声通話およびSMSが含まれている。CooSurf10に加入せずに無制限のCooTel同士の音声通話およびSMSを利用する場合は、データ通信のパッケージとは別に専用のプランを申し込む必要があり、有効期限は1ヶ月で2米ドルとなっている。SMSで0382038039宛に指定の文字列を送信することで、パッケージなど各種プランへの加入や残高の確認ができる。

筆者がMcWiLL方式のサービスを試してみたところ、プノンペン市内の中心部であれば屋内も含めて圏外となることは滅多になかった。しかし、ハンドオーバーに難があるためかハンドオーバーの際に一時的に切断されることがしばしばあった。

McWiLL方式は端末によって通信速度の理論値が異なっており、CooTel Mi106の場合は最大1.6Mbpsである。実測値では下りが0.8〜1.4Mbps、上りが0.2〜0.6Mbpsほど出ており、ウェブサイトの閲覧程度であれば問題なく使えた。ただ、動画の視聴や大容量ファイルの送受信は厳しく、それらを快適に使いたければ他の移動体通信事業者を選ぶしかないだろう。

▼McWiLLネットワーク接続したCooTel Mi106で通信速度を測定した。
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CooTelのスマートフォンはSIMスロットも搭載

McWiLL方式はSIMカードを採用していないが、CooTelのスマートフォンはSIMカードスロットを備えており、McWiLL方式以外にGSM方式またはW-CDMA/GSM方式に対応する。SIMロックフリーであるため、通信方式と周波数が合えばCooTel以外の移動体通信事業者も利用できる。

同じ移動体通信事業者同士であれば通話料などが割安となる場合が多く、カンボジアでは複数の移動体通信事業者のSIMカードを保有することも多い。そのため、McWiLL対応スマートフォンに他の移動体通信事業者のSIMカードを挿入すれば、1台のスマートフォンでCooTelともう一つの移動体通信事業者を使うことが可能で、通話相手によって回線を使い分けることで通話料を安く抑えられる。また、郊外などでCooTelの提供エリアに不安がある場合、他の移動体通信事業者のSIMカードを挿入しておけば安心感も得られる。また、CooTelは国際ローミングを提供していないが、海外へ渡航する際はCooTelのスマートフォンに現地のSIMカードを挿入して使える。筆者はマレーシアでCooTel Mi106に現地の移動体通信事業者であるCelcom AxiataのSIMカードを挿入して利用した。

CooTelは通信速度や提供エリアの面で決して優位なわけではないが、日本で販売されている端末はSIMロックが掛けられていることが多いため、プリペイドSIMカードは購入せずにCooTelの端末をレンタルしてテザリング機能を活用するような使い方ができる。わざわざCooTelのスマートフォンを購入する必要はないが、世界的に見てMcWiLL対応スマートフォンは流通量が少ないため、カンボジア訪問記念と割り切って購入するのも悪くないだろう。

▼SIMカードスロットを搭載する。ラベルには信威通信産業グループのロゴや開発元の重慶信威通信技術の社名、電池パックにも信威通信産業グループのロゴが入る。
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▼マレーシアでCelcom AxiataのSIMカードを挿入した。McWiLLのアンテナは圏外であるが、Celcom AxiataのGSMネットワークに接続されている。
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▼プノンペン市内にある本社ビル。
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田村 和輝(たむら・かずてる)

滋賀県守山市生まれ。国内外の移動体通信及び端末に関する最新情報を収集し、記事を執筆する。端末や電波を求めて海外にも足を運ぶ。国内外のプレスカンファレンスに参加実績があり、旅行で北朝鮮を訪れた際には日本人初となる現地のスマートフォンを購入。各種SNSにて情報を発信中。