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Foxconn傘下となる計画の亞太電信 - LTEの開始と同時にブランドを刷新

2015.03.20

Updated by Kazuteru Tamura on March 20, 2015, 18:30 pm JST

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台湾では2014年5月下旬以降に3大移動体通信事業者である中華電信(Chunghwa Telecom)、遠傳電信(FarEastone Telecommunications)、台湾大哥大(Taiwan Mobile)が相次いでLTEサービスを開始し、それに遅れて2014年8月下旬には威寶電信(VIBO Telecom)を吸収して新規参入を果たした台湾之星電信(Taiwan Star Telecom:以下、台湾之星)がLTEサービスを開始した。

LTE時代への突入や移動体通信事業者の新規参入など大きな変化を見せた台湾の移動体通信業界であるが、活発な動きはまだ収まる気配がない。ここにきて、これまであまり目立つことがなかった亞太電信(Asia Pacific Telecom)が存在感を示しつつある。

ブランドを刷新

亞太電信は2014年12月24日よりLTEサービスを正式に開始した。正式なサービスの開始に先立ちトライアルを開始したが、同時にこれまで使用していたブランド名「A+World」から新ブランド「Gt」を展開している。GtにはGood Time, Good Technology, Get Togetherといった意味が込められている。

ブランドの刷新に伴って直営のサービスセンターもリニューアルしており、お洒落な内装に仕上げられた店舗も存在する。これまで亞太電信の巨大な広告はあまり見かけなかったが、ブランドの刷新後は台北市内で巨大な広告を目にする機会が増えるなど、これまでにない広告展開を行っていることが見て取れる。また、コーポレートカラーは赤系から緑系の色に変更し、スローガンをGt智慧生活としている。

▼亞太電信本社そばにある亞太電信の台北南港サービスセンター。ブランドの刷新と同時にリニューアルされた。入り口にはiPhone 6の広告が見られる。
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▼お洒落な雰囲気に仕上げられている亞太電信の台北南京サービスセンター。こちらも全面的にリニューアルされた。
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▼台北市内で見かけた亞太電信の巨大な広告。
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Foxconnの意向を反映

亞太電信の生まれ変わりには鴻海科技集団(Foxconn Technology Group:以下、Foxconn)の意向が反映されている。Foxconnは傘下の國碁電子(Ambit Microsystems)を通じて周波数オークションでLTE用の周波数を獲得し、移動体通信事業への参入が決まった。

携帯電話サービスの提供を狙うFoxconnであるが、國碁電子は3G用の周波数を保有しておらず、VoLTE対応スマートフォンの普及状況を考えるとLTE方式のみで携帯電話サービスを提供することは現実的ではない。既存の移動体通信事業者との統合または提携が有力視される中で、國碁電信と亞太電信を統合する案を打ち出した。統合案は亞太電信を存続会社として両社を統合するが、統合後の亞太電信の株式をFoxconnが取得して筆頭株主となり、亞太電信をFoxconn傘下とする計画である。この統合案は亞太電信の取締役会でも承認されている。

國碁電子と亞太電信の統合は未完了であるが、すでに亞太電信にはFoxconnの意向が反映されている。ブランド名の刷新もFoxconnの意向であるが、Foxconnが関係する最も重大な動きと言えば、やはり台湾大哥大(Taiwan Mobile)との戦略的提携だろう。

Foxconnは台湾の3大移動体通信事業者の1社である台湾大哥大と戦略的提携を締結した。既存の移動体通信事業者である台湾大哥大は移動体通信に関するノウハウを保有し、Foxconnは戦略提携によって技術を習得する狙いがある。戦略的提携には出資や周波数の売買なども含まれている。台湾大哥大は國碁電子への出資と國碁電子から周波数の買収、Foxconnは台湾大哥大への出資で合意している。

台湾ではLTE用の周波数オークションを実施する際に保有可能な帯域幅に上限が設定されている。そのため國碁電子と亞太電信が統合すれば5MHz幅を手放す必要があり、國碁電子が保有する700MHz帯(Band 28)の5MHz幅を台湾大哥大に売却することになった。700MHz帯では國碁電子と台湾大哥大が保有するブロックが隣接しているため、台湾大哥大は隣接する5MHz幅を取得すれば周波数オークションで獲得した15MHz幅と合わせて連続した20MHz幅でLTEサービスを提供できるメリットがある。

台湾大哥大のLTEサービスは開始当初700MHz帯の15MHz幅で提供しており、2014年8月下旬に1.8GHz帯(Band 3)の5MHz幅も運用を開始、そして2015年3月には一部地域から700MHz帯における20MHz幅の運用も確認されている。

また、亞太電信による台湾大哥大のネットワークを用いたローミングも戦略的提携の一つだ。亞太電信はLTEサービスの開始当初よりローミングを提供しているが、後に大きな問題となる。これについては後ほど詳しく述べる。

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これらのほかに、細かな部分でもFoxconnの意向が反映されている。Foxconnと言えば電子機器受託製造(EMS)企業のイメージが強いが、数多くのグループ企業を抱えるFoxconnはグループ企業を通じて様々な事業に参入している。リニューアルされたサービスセンターの一部にはFoxconnのグループ企業が特殊加工を手掛けた素材が用いられており、グループ企業が保有する多様な技術を集結している。これは予備知識がないと気づきにくいと思われるが、随所にFoxconnの息がかかっていると言える。

▼台北南京サービスセンターの内装には木材を多用しており、他店舗とは異なる雰囲気である。
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▼台北南京サービスセンターのカウンターにはQiに準拠したワイヤレス充電台が備えられている。
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▼端末の展示台にもカウンターと同様にワイヤレス充電台を備えている。
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Foxconn製の端末が増加

あらゆるところに反映されているFoxconnの意向は、当然ながら端末のラインナップにも反映されている。亞太電信のラインナップにはLTEサービスを始める少し前からInFocusブランドのスマートフォンが増えている。InFocusは米国のブランドであるが、製造はFoxconn傘下で香港のFIH Mobileが担当している。InFocusとFIH Mobileはスマートフォンの開発や製造などで提携しており、InFocusブランドのスマートフォンがFoxconnのスマートフォンとして展開されることもある。その証拠に携帯電話販売店が集まる台北市内の商業施設ではInFocusブランドのスマートフォンをFoxconnの携帯電話を意味する鴻海手机として販売する様子も見られる。

亞太電信には複数のInFocusブランドのスマートフォンが投入されているが、その中にはInFocus M2+, InFocus M510t, InFocus M518といった亞太電信専用で投入されたスマートフォンも存在する。InFocus M518はLTEサービスの開始と同時に投入されており、カラーバリエーションには亞太電信のコーポレートカラーと同じ緑系の色も用意している。また、LTEサービスの開始を記念して台数限定の特別版としてInFocus M810 藍寶石特仕版が投入された。

Gtブランドを冠した端末も存在しており、Gtブランドのモバイル無線LANルータが販売されている。Gtブランドを冠した初の端末で、Foxconn傘下の鴻海精密工業(Hon Hai Precision Industry)が製造を担当する。このように、亞太電信の端末ラインナップには亞太電信とFoxconnの関係が色濃く出ている。

余談ではあるが、亞太電信はLTEサービスのトライアル開始と同時にFoxconnが製造を手掛けることでよく知られるAppleのiPhone 6およびiPhone 6 Plusの販売を開始し、フラッグシップ級の扱いとしている。亞太電信による取り扱いの開始日には本社そばの台北南港サービスセンターで小規模なイベントを実施し、コーポレートカラーとAppleをかけて青リンゴの配布も行われた。

▼台北南港サービスセンターの外壁にInFocus M810の大きな広告が見られた。iPhone 6とiPhone 6 Plusに次ぐ準フラッグシップと言えるような扱いである。
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▼台北南京サービスセンターの店内には台数限定のInFocus M810 藍寶石特仕版の広告が見られた。
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▼InFocusブランドのスマートフォンでは最上位となるInFocus M810。
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▼亞太電信専用として投入されたInFocus M518。
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▼低価格なInFocus M2+。他の移動体通信事業者に投入されたInFocus M2と大きな差異はないが、こちらも亞太電信専用である。
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▼亞太電信のサービスセンターではないが、携帯電話販売店ではInFocusブランドのスマートフォンを鴻海手机とアピールしていた。
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亞太電信と國碁電子の統合申請却下でFoxconnの戦略見直しも

Foxconnと台湾大哥大の戦略的提携の一環で、亞太電信はローミングとして台湾大哥大のネットワークを利用している。亞太電信と台湾大哥大はローミングと謳っているが、実態はローミングとは言い難く、亞太電信が台湾大哥大のネットワークに依存する状況にある。中華電信、遠傳電信、台湾之星がこの件に反発を示したが、それは当然のことだろう。

台湾の行政機関で通信関連を管轄する国家通訊伝播委員会(NCC)は亞太電信と台湾大哥大のローミングについて調査に乗り出し、ローミングとは言い難いとの結論を出している。また、台湾大哥大に頼る亞太電信は基地局の設置が事業計画通りでないことも判明した。

亞太電信と國碁電子は統合の申請を国家通訊伝播委員会に提出したが、亞太電信の現状が事業計画に沿っていないことなどを理由に却下された。すべてはFoxconnの戦略で進めてきたが、統合案が却下されたことでFoxconnは戦略の見直しを強いられている。亞太電信はFoxconnにコントロールされるようになってからは新たなブランドの展開などでようやく存在感を示せるようになったが、悪い意味でも目立ってしまうことになった。Foxconnが繰り出す次の一手に要注目である。

▼台北南港サービスセンターの店内。白が基調の落ち着いた雰囲気であるが、Foxconnや関係各社は落ち着ける状況ではないだろう。
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田村 和輝(たむら・かずてる)

滋賀県守山市生まれ。国内外の移動体通信及び端末に関する最新情報を収集し、記事を執筆する。端末や電波を求めて海外にも足を運ぶ。国内外のプレスカンファレンスに参加実績があり、旅行で北朝鮮を訪れた際には日本人初となる現地のスマートフォンを購入。各種SNSにて情報を発信中。