○ここ数年、米国の携帯端末に関する話題の中心といえばスマートフォンであるといえるだろう。技術革新と新たなプレイヤーの登場により、今まさに市場は急拡大すると同時に、大きな変化が起こりつつある。今回と次回の2週にわたり、米国スマートフォンの現状と、米国市場における位置づけについて見ていこう。
米国では、ここ数年スマートフォン・ブームが続き、その勢いは未だ衰えを見せていない。
調査会社により少々スマートフォンの定義が異なるが、世界編第四回で言及したように、米国でのスマートフォンといえば「フルブラウザーが使える携帯端末」であり、また伝統的にタイプライターに慣れた米国人ユーザーにとってブラウザーやメールを利用するために不可欠な、qwertyキーボードが使えるのが普通である。
全携帯端末に占めるスマートフォンのシェアは、米国では世界全体よりもやや高く、2009年末の保有ベースで17%(comScoreによる)、四半期販売ベースでは2009年第二四半期で28%(NPDによる)を占め、その時点で年率50%近い成長率であるため、現在では新規販売端末の3割を超えていると見られる。
このセグメントには、端末とOSが一体であるリサーチ・イン・モーション(RIM)社のブラックベリーや、アップル社のiPhoneのようなケースと、両者が別になっているAndroid(端末はHTC、モトローラなどが提供)やマイクロソフトOS(WindowsMobile、およびWindowsPhone7、端末はサムスン、モトローラなどが提供)などのケースの両方がある。これらのシェアを比較するときには、OS別に比較することが多い。
▼ブラックベリーの多数のモデルのうち、最大の売上を誇る安価な普及型Blackberry Curve(RIMウェブサイトより)
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ニールセンの2009年末までの推計によると、端末数量ベースではブラックベリーがトップを安定して維持しており、これをiPhoneが急速に追い上げる構図となっている。また、昨年終わり頃からAndroidが急増しており、NPDによる別の調査では、2010年5月現在でAndroidがiPhoneを追い越し、ブラックベリー36%、Android 28%、iPhone 21%と推計している。
一方、下のグラフはアプリケーションのダウンロードのシェアであり、これで見るとiPhoneがトップとなっている。なお、いずれの指標で見ても、世界ではトップのシェアを占めるSymbian(ノキア系のスマートフォンOS)はずっと低空飛行がつづいている。
さらに、モバイル広告へのアクセス・シェアでは、Androidがトップとなっている。次のグラフはモバイル広告大手で最近グーグルが買収を発表したAdMobによる統計である。Androidの躍進には、2009年のクリスマス商戦において、トップキャリアのベライゾンがAndroid対応端末を発売し、「1台買ったら2台目は無料」などといったキャンペーンを強力に展開したことが大きく寄与している。なお、このときのAndroid端末のテレビ広告では、ベライゾンがライバルのAT&Tと「3Gカバレッジがこんなに違う」という露骨な比較を行い、AT&Tが「これは誤解を招くものだ」と裁判所に提訴するといった騒ぎが起こり、話題となった。
このように、スマートフォンと一口に言っても、米国のスマートフォンの「ポジショニング」は大きく分けて3つある。トラディショナルな端末の延長に位置する「ブラックベリー」、アプリのダウンロード・マシンとしての「iPhone」、広告配信をビジネスモデルとする「Android」という棲み分けである。現在勢いのあるこの3つのOS陣営は、それぞれの強みを強く打ち出した「とんがった」性格となっており、こうした「とんがり」を打ちだせずにいるマイクロソフトやパームは、どの指標で見ても、長期低落傾向となっている。
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ENOTECH Consulting代表。NTT米国法人、および米国通信事業者にて事業開発担当の後、経営コンサルタントとして独立。著書に『パラダイス鎖国』がある。現在、シリコン・バレー在住。
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