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北米編(5)米国のモバイル・ネットワークの仕組み

2010.06.10

Updated by Michi Kaifu on June 10, 2010, 14:00 pm JST

○米国では、固定もモバイルも、非常に数多くのキャリアが存在することを北米編第一回で紹介した。これほど携帯キャリアが細分化しているケースは世界でも珍しい。携帯電話が登場した当初は、現在よりもさらにキャリアの数が多かった。

○キャリアが細分化された状況が、米国特有の携帯電話ネットワークの構成や、周波数オークションの導入につながっている。

1. 米国の携帯電話ネットワークの特徴

米国の携帯電話の音声ネットワーク(回線交換)は、「固定網の端に携帯電話網がぶら下がる」という、シンプルな構成となっている1。コンセプトとしては、携帯端末から基地局交換機、モバイル交換機にはいり、ローカル・キャリアのクラス5(加入者交換機)またはクラス4(タンデム交換機)につなぎこむ。そこから先は、ローカルおよび長距離の固定電話網で呼が運ばれる。

この構成だと、携帯キャリアが相互接続する相手は、当該地域のローカル・キャリアだけ、ということになる。現在では、ローカル・長距離・携帯電話を同じキャリアが一括で提供するケースが多くなっていてこの限りではないが、現在でもこの仕組をベースに、料金・接続体系と番号体系ができており、これらが日本と大きく異なるネットワークの特徴である。

▼図1 米国携帯ネットワーク(音声)の構成
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出典:ENOTECH

1)携帯への着信の場合は受信者が料金を払う

固定電話向けの呼は、発信側携帯キャリア(上図A)からローカル・キャリア(B)へ、場合によっては長距離電話会社(C)を経由して、受信側のローカル・キャリア(D)で終端する。この中での接続料金精算は、「携帯分」がA→B、「固定分」は通常の固定電話網接続の仕組みの中で行われる。

携帯キャリアからローカルキャリア携帯電話向けの場合は、CまたはDから受信側携帯キャリア(E)に呼が渡される。AとEの間には直接の接続契約はなく、EはDとしか接続していない。EがDから接続料金を受取るためには、多くの経由キャリアに関して接続料金契約が必要となり、非常に煩雑になってしまう。このため、Eの「携帯分料金」は「受信側加入者」がEに支払う仕組みになっている。

加入者の携帯電話の請求書明細には、「発信した呼+発信先電話番号」と「着信した呼+発信元電話番号」が記載されており、通話時間分の料金がチャージされる。一方、発信者側は、固定電話番号に発信した場合と携帯電話番号に発信した場合の料金は同じである。

アナログ携帯電話の仕組みが登場した当初は、もっぱら「発信用」に使われ、通話相手は固定電話が主流であったために、これでもあまり問題がなかった。ユーザーは、携帯電話で受信すると、自分の意思と関係なく料金を払うことになってしまうため、携帯電話番号を他人にあまり知らせなかった。携帯電話が大衆化する局面でこのことが問題となってきたが、90年代半ばのデジタル移行の際、一ヶ月500分といった、たくさんの無料通話をつけた料金プランが登場し、受信分がその中に含まれても月額支払料金は変わらないという状況となった。その後、ようやく携帯電話番号への着信に抵抗感がなくなり、携帯電話を他人に知らせて着信にも利用するようになった。

  1. データは、これとは別系統でネットと接続する。

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2)番号体系は固定と同じ

携帯ネットワークが固定ローカル電話に「従属」する関係であったため、携帯電話の番号はその固定ローカル電話の局番を使い、番号体系も全く固定電話と同じである。固定電話局番と携帯電話のキャリアのカバー地域が異なる場合(例えば、サンフランシスコ周辺では、415、650、408、510の局番エリアを一つの携帯キャリアがカバーしている)は、加入者が契約する際に好きなものを選べる。地域によっては、携帯専用の局番を利用する場合(例えばニューヨーク周辺の917)もあるが、この場合も「携帯用特別番号」の体系でなく、通常の局番体系(3桁+3桁+4桁)に含まれている。

この仕組だと、電話を発信する側は、相手側が固定電話か携帯電話か、番号だけで区別することができない。しかし、上記の仕組みにより、発信側の料金は、相手が固定でも携帯でも同じであるため、ユーザーにとって特に不都合はない。むしろ、固定と携帯との間でも番号ポータビリティが可能であるといった、有利な点もある。

3)SMS(テキスト・メッセージ)も同様の仕組み

ブラウザーベースのモバイル・インターネットは別系統のデータ回線を利用するが、SMSでは音声電話の番号と同様の接続関係を利用する。このためSMSにおいても、固定電話と同じ番号体系と発着信両側の課金となる。割引プランを使わない場合のSMS料金は一本20セントと割高であり、受信の場合もこの料金をチャージされる。固定電話ではSMSを利用できないが、番号だけではモバイルか固定かを判断できないことも面倒だ。送信側が「相手はSMSを受信してもよいと思っているか」「相手の番号は固定かモバイルか」に気をつけて利用する必要がある。

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2. 周波数割り当てと周波数オークション

米国で携帯電話または類似のサービスに使われている周波数帯と免許地域区分は、下記のようになる1。免許区分と地域が複雑に入り組んでいることがわかる。

このうち、現在の携帯電話サービスに利用されているのは、「セルラー」「PCS」「AWS」の3つの免許である。スプリントなどが提供を開始しているWiMaxサービスは「BRS & EBS」、今年以降ベライゾンなどがLTEを提供する予定の次世代サービスは「Lower/Upper 700MHz」を利用する。

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出典:FCC、ENOTECH 2

このように一度に数百という免許に対し、それぞれ複数の希望者が殺到する中で公平に割り当てを行う必要があり、すべての申請を比較審査することは現実的に不可能である。このため米国では1995年の「PCS」割り当ての際、世界で初めて周波数オークションの仕組みが導入された。ネットでFCCのサイトにアクセスして入札するオンライン・オークションで、1日1ラウンドで徐々に競り上げていき、誰もそれ以上の値を入れなくなったら終わりという方式である。

その後は携帯電話免許だけでなく、ページャーや特殊用途の無線まで、すべてオークションの手続きに従って割り当てが行われるようになり、15年を経てすっかり定着している。また、最初はこうして米国の特殊事情から生まれた周波数オークションであるが、政治的駆け引きや袖の下などが不要で、最も公平で迅速に割り当てができるというメリットのために、欧州や数多くの新興国でも採用され、現在ではオークションによる周波数割り当てがむしろ「世界標準」となっている。

最近、携帯データのトラフィックが急激に増大し、キャリアからは「もっと周波数を」という声が強くなっており、一方FCCの発表した「ナショナル・ブロードバンド・プラン」では500MHzの追加周波数を無線ブロードバンド向けに供することを目標としている。しかし、現在FCCの手元にすぐに出せる周波数がある訳ではない。また電波なら何でもいいという訳にもいかず、通信に適した特性を持ち、なおかつ世界標準に合ったものでなければならない。米国市場の位置づけは、かつてのように世界の中で圧倒的な大きさではなくなり、欧州+新興国のボリュームが世界の趨勢を決めている現在、世界標準の周波数でなければ、設備機器や端末を低コストで調達したり、豊富に品揃えしたりすることはできないからだ。

2008年に700MHz帯の大きなオークションが終了した後、当面は携帯電話向けの大型オークションは計画されていない。今後、周波数獲得をめぐり、FCC・携帯キャリア・放送事業者の間で綱引きがますます強まりそうである。

  1. http://wireless.fcc.gov/services/index.htm?job=wtb_services_home をもとに作成
  2. 周波数免許は、一度に複数の周波数ブロックが割り当てられるのが普通であるため、個別の周波数ブロックを区別するために、A・B・C・・・・というアルファベットの記号をふっている。個別の周波数ブロックは、それぞれ周波数幅・地域区分・用途・免許条件などが異なっており、オークションの場合はこれらによって異なる価格づけがされる。

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海部美知(かいふ・みち)

ENOTECH Consulting代表。NTT米国法人、および米国通信事業者にて事業開発担当の後、経営コンサルタントとして独立。著書に『パラダイス鎖国』がある。現在、シリコン・バレー在住。
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