米国最大手の携帯通信事業者であるベライゾン・ワイアレス（Verizon Wireless：以下、ベライゾン）が、アップル（Apple）のiPhoneを取り扱う可能性がまた浮上してきている。Bloombergは米国時間29日、複数の匿名関係者からの情報として、契約者数9280万人（2010年3月末時点）を誇るベライゾンが、来年からiPhoneの取り扱いを開始すると伝えている。

アップルは2007年7月発売の初代iPhone以来、AT&Tに独占的な取り扱いを認めてきているが、この契約を見直し、ベライゾンにも取り扱いを認めるのではないか、という可能性はこれまでに何度か表面に浮上してきている。3月末にはWall Street Journalが、「台湾のOEM業者がCDMA版iPhoneの製造を準備している」との旨の記事を掲載し話題となっていたが、今回のBloombergの報道は、情報源こそ匿名であるものの、2010年1月からと具体的期日を挙げている点などが異なる。ただし、関係各社の広報担当者らは例によってコメントを差し控えているとある。

上記のBloombergの記事には、重要と思われる複数の数字が登場している。たとえば、ベライゾンが四半期に300万台のiPhoneを購入する可能性があること、AT&Tが今年1-3月期に契約をアクティベートしたiPhoneユーザー約270万人のうち、3分の1にあたる90万人が他の通信キャリアからの乗り換えであること、ベライゾンがAT&TとともにiPhoneを取り扱うようになった場合、米市場におけるiPhoneの販売台数は2010年の推定1100万台から2011年には少なくとも1500万台まで増加する（バークレイ・キャピタルのアナリスト談）などだ。

「通話が途切れる」「ネットアクセスが遅い」「つながらない」など、iPhoneユーザーのAT&Tに対する不満は恒常化しており、1年に20億ドル程度の資金を投入しての通信インフラ強化計画を打ち出すなど、問題解決への姿勢をアピールするAT&Tの取り組みも、やっと端緒についたばかり。同社では先頃ニューヨーク市の主要4地域--マンハッタン、ブルックリン、クィーンズ、ブロンクス--の回線強化を完了したと発表したが、混雑解消が求められているもうひとつの地域であるサンフランシスコについては、作業はこれからだという。

そうしたなか、対するグーグル（Google）のAndroid OS陣営が勢いを増してきており、アップルとしてはドル箱となったiPhoneビジネスに関し、さらなる攻勢をかける必要が増してきている。この点で、品質の高いネットワークと最大の契約者数を誇るベライゾンへのiPhone提供は、（CDMA版製造という）コスト増を計算に入れても「見合うリスク」という捉え方も出されている。また、ベライゾン側でもCEOがアップルに秋波を送り続けるなど、Android陣営との二股

前記のBloombergの報道を受けて、オッペンハイマー（Oppenheimer）のアナリストからは、さっそく「ベライゾン経由で少なくとも年間1200万台のiPhoneが売れる可能性がある」「その結果、アップルの年間売上は70億ドル以上押し上げられる」との試算も出されている。これは約6500万人の契約者がいるAT&Tが前年（2009年）に販売したiPhoneの台数が約1100万台であったことを踏まえての試算だが、同年の全体の売上がすでに約421億ドルに達しているアップルにとっても大きな影響を与える金額だ。

すでにドイツ市場では、ドイツテレコムによるiPhone独占取り扱いが終了する可能性も浮上しており、アップルがこれまで続けてきた「1市場1通信キャリア」という方針が大きく見直される時期にさしかかっているのかもしれない。

【参照情報】
・Verizon Wireless Said to Start Offering IPhone in January - Bloomberg
・What if Verizon did get an iPhone? - Fortune
・Verizon Could Sell 12 Million iPhones Annually - AllThingsD
・New iPhone Could End AT&T's U.S. Monopoly - Wall Street Journal
・Verizon Strives to Close iPhone Gap - Wall Street Journal
・2010: Apple's $63.5 Billion Revenue Year - Bullish Cross
・ドイツテレコムのiPhone独占が終了か