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欧州編(4)欧州携帯利用者の3G・LTE・4Gサービスの認知

2010.08.12

Updated by Mayumi Tanimoto on August 12, 2010, 15:00 pm JST

○欧州編(3)の注釈でふれたとおり、欧州では、一般ビジネスマン向けの雑誌やテレビ報道、広告では「4Gとは3Gより優れたサービスである」ということで、LTEも4Gもまとめて「4G」と表記されることが多い。

○技術的には別ものだが、一般ユーザーの携帯サービスに関する知識が日本ほど高くはないので、LTEも4Gもまとめて「4G」と表記しても特に問題が生じないのである。そもそも3Gサービスが日本ほど一般ユーザーに広まっていないのだ。今回はちょっと寄り道して、一般ユーザーから見た欧州の携帯電話サービスについて紹介する。

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1. 2G携帯がまだまだ現役の欧州

欧州では3G自体の導入が日本よりも遅れたため、3Gの認知度も低い。一般の人は、携帯はSMS(ショート・メッセージ・サービス)のやり取りや、音声通話の使用が主なので、普段は2G携帯で用が足りてしまう。

さらに、通勤時間が日本より短く、電車の混雑度もひどくない欧州では、3G携帯で通勤時間中の暇つぶしをする必要がない。生活のペースも日本に比べるとゆったりしているので、常に外を飛び歩いて、携帯で何でもすます、という文化がないのである。ネットにアクセスしたければ、家でじっくり、という人が少なくない。

その上、全体的に保守的で、新しい物はまず疑ってかかるユーザーが少なくないため、新しい物に対する興味も、アメリカや日本のユーザーに比べると低い。

このような背景があるため、海外出張が多い国連職員や、ロンドンの金融街シティで働く若い人の間でも、日本に比べると、3Gの認知度は低い。「極東の端っこの島国で使ってる高機能携帯だっけ?」程度の認知の人が少なくないのである。1

欧州では、職場で標準として提供される携帯が2Gのことがあり、日本に出張に行く人向けに、わざわざ3Gを準備しなければならない、という場合があるほどである。用意すると「なぜそんな物が必要なのか?2Gで十分だろう」と文句をいう幹部もいる。

  1. イギリスや大陸欧州欧州で市販されている地図で見ると日本は「東の端っこにある小さな島」なので、日本を「極東の島国」ということがある。欧州人の頭の中の地図は、欧州を中心とする世界であり、「極東」は「遠くのどこか」という認識であり、決して世界の中心ではないのである。日本は中東よりも遠い所にある「島」であるため、日本よりもインドや中東の方を身近に感じるという人がいる。

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2. インフラの未整備がもたらす「人間味」あふれるサービス

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(cc) Image by ezioman

さらに、欧州大陸各国や東欧と比較すると、インフラの導入が進んでいる英国ですら、都市部以外では3Gがつながらないことが少なくない。国土が日本の半分程度で、山岳や砂漠地帯などなく、地震や台風がなく、物理的にはインフラの設置が容易であるはずの英国ですら、インフラが十分整備されていないのである。

英国でさえこの状態であるので、国土がイギリスより広く、インフラの整備が十分ではないフランス・イタリア・スペイン等欧州大陸各国の3Gの接続状態に関しては、いうまでもない。

特に、夏のバカンス時期になると、携帯キャリアの運用担当者が休暇に入るため(イタリアやフランスの場合、丸々3週間程度である)携帯接続の品質もガクンと低下する。通信インフラはあっても、機械を動かしたり、メンテナンスするのは人間である。したがって、人がメンテナンスしなくなれば機械は壊れるし、運用しなければ接続は提供されない。停電すれば機械は動かない。

郊外に比べると接続状況が良好な「はず」のローマのような大都市でさえ、突然何の前触れもなしに接続が数時間切れる。他のユーザーと会話が混線することもあり、見ず知らずの東洋人の珍妙なイタリア語を耳にした見ず知らずのイタリア人ユーザーが大喜びすることがある。携帯でもこの調子であるので、ブロードバンド接続の品質低下や、専用線、法人向けインターネット接続の品質低下に関しては、いうまでもない。

イタリアは人間味のある国だが、通信サービスにさえ、このように強烈な「人間味」があるのである。夏に携帯が数時間繋がらなくなると、「機械を使うのは人間であり、人間は機械に使われる存在ではない」、という「ルネサンス的人間中心主義」を頭の中で唱え、じっと我慢するのである。(ただし怒りで携帯を床に叩きつけているので、携帯の角はボコボコになっている)

イタリアほどではないが、日本ほどサービスに厳密性を求めないフランスやイギリスも似たりよったりである。

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3. それでもキャリアには文句を言わない欧州人、その理由は?

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(cc) Image by Eustaquio Santimano

一方、こんな調子でビジネスユーザーは困らないのか、と思われる読者の方がおられると思う。しかし、欧州は「オフィスの外でも機械に追われて、そこまでして働きたくない」という人が多いため「接続が悪いな。これで仕事しなくてすむ。良かった。良い理由ができた」と大喜びする人の方が多い。

こんな状況に接すると、「労働は悪である」「労働は神様の罰である」「人間は完全ではない」「誰でも間違いを犯す」という欧州らしい考え方が頭の中で回る。(ただし締め切りには間に合わないので顔面は蒼白である)

そして欧州では「お客様は神様」ではない。接客スタイルは、基本的に、共産主義時代の旧ソ連や中国に近い。サービス提供者とお客さんが同等である。お客さんは寛容であるため、通信不良による連絡の遅れやサービスの品質低下を気にする人は多くない。「お互い様。次は私ね」という感じである。

こんな調子なので、欧州人で、携帯キャリアに文句をいう人は多くはない。このような状況で怒っているのは、大体アメリカ人か日本人である。大規模接続障害が発生し、携帯ショップの前でカンカンになって怒鳴っている外国人がいたら、アメリカ人か日本人という確率が高い。

そのような姿を見た大多数の欧州人たちは「いやね。またアメリカ人と日本人よ。余裕のない人たちね。他に重要なことはないのかしらね。本当にお金が好きね。下品だわ。さすが成り上がりね」と呟いて、パブやバールに去っていくのである。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。