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インド編(5)インドのスマートフォン人気

2010.10.14

Updated by Mayumi Tanimoto on October 14, 2010, 18:00 pm JST

○インドのスマートフォン市場は今後2年間の間に現在の2倍以上になる見込みである。

○ハイエンドのスマートフォン市場はグローバルなメーカーが中心となるが中低価格帯市場はインドメーカーが健闘している。

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(cc) Image by Swaminathan

1. 急速に拡大するスマートフォン市場

テクノロジー系調査会社であるCanalysの調査によれば、アジア太平洋地域では2011年までに1億台のスマートフォンが出荷され、2009年には携帯電話市場の11%を占めるまでになっている。2012年までには携帯電話市場の20%を占める見込みだ(参考資料)。

このようにアジア太平洋市場で急速に拡大するスマートフォン市場であるが、インドにもスマートフォンのブームが到来している。調査会社であるGartnerの調査によれば、2010年上半期の時点で、インドのスマートフォン市場は携帯電話市場の5.2%を占め2014年までに18%なるとの予測である(参考資料)。

インドで2009年出荷されたスマートフォンは約200万台に及び、今後2年の間に倍以上の規模になるとみられている(参考資料)。

インドでハイエンドのスマートフォン市場を牽引するユーザーは大都市の高収入層である。この層は、スマートフォンを使用したリアルタイムとオンデマンドの情報、さらにメールやカレンダー、SNSへアクセスする。インドでスマートフォンの販売数が伸びる引き金の一つは3Gの到来である。3Gが提供されることで、ハイスペックなスマートフォンでデータ通信を楽しみたいと思うインド人消費者が携帯電話を買い換える。

2番目の理由は買い替えサイクルの到来だ。過去3年以内の間に携帯電話を購入した約300万人の消費者が、来年もしくは再来年に携帯電話を買い換え、スマートフォンに乗り換えると考えられている。

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2. スマートフォンは成功の象徴?!

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(cc) Image by Steve Evans

消費者に好まれるスマートフォンのブランドは国により異なる。インドの場合低価格帯携帯機種だけが好まれるような印象をもっている方がおられるかも知れないが、インドの市場は消費者の経済力により大きく分かれることに注意したい。

ハイエンドのスマートフォン市場に関しては、インドの場合、人気なのは「高価格・高スペック機種」なのである。

例えば、ハイエンドのスマートフォンであるNokia Communicator 9500はインドの消費者に人気である。IDCの調査によれば、この機種が人気の理由は、「高い機種なので、自分の富や成功を見せびらかすことができること」「アクセサリーのように持ち運びできるステータスシンボルであること」なのである。インドのスマートフォン購入者が、都市部の高収入層であることを考えると、この結果はそれほど驚く物ではないのかもしれない(参考資料)。

「自分の富や成功を見せびらかすことができること」という点は、筆者の知人で国連に勤務する知人が在住するコンゴや、筆者が一時期滞在していたネパールでも似ている。高価格帯携帯電話やスマートフォンを持つことは、社会の限られた階層なので、持つこと自体が成功の証明なのである。

筆者の知人のネパール人や、コンゴ在住の知人によれば、このような価値観の地域では、携帯電話やスマートフォンは、できるだけ派手で目立つデザインの方がよく、機能よりも、他人からどう思われるかが重要になるとのことであった。ちなみに、携帯電話が普及し始めた頃には、なるべく大きな携帯電話の人気があった。大きければ目立つため、他人に自慢できるからである。

また筆者が現在住んでいるイギリスでは、移民してきたインド人の多くが経済的に成功すると、かなり派手なベンツを購入する。(住んでいる家は中流程度の住宅なので、かなり不釣合いなのだが)そのようなインド人がはめている時計は高そうな金時計で、携帯電話はもちろん高価格帯のスマートフォンだ。

時計、スマートフォン、車があれば、在英インド人の集まりに出かけるときに自分の経済力を誇示できるので、ステータスシンボルとして都合が良いわけだ。

一方で、同じ新興国とは言っても、中国では回答が異なっている。中国のスマートフォンユーザーが拘るのは、「スタイル」であり、スマートフォンが、成功のステータスシンボルではないのである。

中国では、中流階級の総数がインドよりも多く、インフラや社会サービスが遥かに整っており、インドよりも社会全体が豊かである。さらに、そこそこ稼いでいる人であれば、スマートフォンの購入はそれほど難しくはない。同じ新興国とは言っても、スマートフォンの嗜好を一括りにすることはできない、というわけだ。

またIDCの調査に回答した69%のインドの消費者は、ブランドへのこだわりが強く、自分が選んだスマートフォンのブランドは、他の人にも勧めると答えている(参考資料)。薦めるのがスマートフォンの価格や機能やスタイルではないのである。

自分が良いと思った物は、何であろうと他の人にも勧める、そしてブランド名が大事、というのはおせっかいなインド人の性格をあらわしているようで面白い。日本人であれば、仮に他人にスマートフォンを勧めるのであれば、「この機種のこの機能が便利だった」とか「家族割にすると通信費が安い」と機能や価格に拘って薦めるだろう。

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3. インド市場を狙う携帯電話メーカー

インドのトップ3スマートフォンメーカーはNokia、HTCさらにRIMである。これら3社の合計シェアは、2009年末時点でインドのスマートフォン市場の90%を占めている。また、これらメーカーだけではなく。LG、Motorola、Samsung等の他のメーカーもインドへのスマートフォン投入に力を入れている(参考資料)。

Nokiaは現在インドの携帯電話市場の70%を占めているが、スマートフォン市場に関しては、高価格高スペックの機種を投入する他に、10,000ルピー(1ルピー1.8円換算で約18,000円)のエントリーモデルも提供し、高価格帯と、エントリー価格帯双方をカバーしている。

スマートフォン市場の2番目のプレーヤーであるHTCもインド市場でのビジネス拡大に力を入れている。HTCが注力するのは、インドでの販売網の拡大とマーケティングだ。

HTCはインドのBrightpoint IndiaとIngram Microと提携し、大規模小売店での販売網の拡大を予定している。現在の計画では、現在25都市で展開する販売を100都市に拡大し、大都市圏ではオペレーションを拡大、さらにマーケティングとディストリビューション活動の支援を拡大していく予定だ。

HTCが販売網の拡大に力を入れるのには理由がある。インドは地理的に広大で、文化も言語も複雑なため、各地域の消費者の好みや、小売市場の仕組みがかなり煩雑になっている。

単に良い製品を市場に投入するだけでは成功が約束されない。スマートフォンを提供するメーカーにとって、しっかりとした販売網と、多様な文化や言語、異なる経済力を持った消費者の嗜好の理解、それにそれら多様な消費者に訴えかけることができるマーケティングの実施が重要なのである。

HTCアジア太平洋バイスプレジデントのJack Tongは「インドは地理的に広大で文化的に多様なため、かなり複雑な小売市場が形成されている。消費者の要求の深い理解や、現地の小売業者の理解が重要だ」と述べている(参考資料)。

インドでのスマートフォン投入には韓国メーカーも力を入れている。

Samsungはインドでのスマートフォン市場シェアの20%獲得を狙っている。来年以後はAndroidと同社独自の携帯電話機向けソフトウエア・プラットフォームである「bada」を採用した機種を市場に投入し、インド7〜9種類の機種を提供することを予定している。

2010年前半には同社独自の携帯電話機向けソフトウエア・プラットフォームである「bada」を初めて使用したWaveを19,100ルピー(1ルピー1.8円換算で約35,204円)、Androidを使用したGalaxy Sを31,500ルピー(1ルピー1.8円換算で約58,000円)で提供している(参考資料)。

Waveは高画質品質でのコンテンツ閲覧が可能な有機ELパネルをディスプレーとして採用し、32GBまで拡大可能な2GBの内部メモリ、さらに5メガピクセルのカメラを搭載している。Galaxy Sには4インチの「Super AMOLED」タッチスクリーンが搭載されている。

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4. グローバル企業と互角に戦う、インド企業のスマートフォン

Maxx Mobile
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Nokia、Samsung、Apple、HTC等グローバル企業がインドのスマートフォン市場で健闘しているが、Micromax、Maxx Mobile、Lava、Rage Mobile、Spice Mobiles、G'Five等インドのローカル企業もスマートフォン市場に参入している。

これらメーカーの市場シェアは2008年上半期にはインド市場の1%ほどであったが、2010年上半期には33%にまで上昇している。インドの携帯電話市場全体を見ると、Nokiaの市場シェアがこれらメーカーに移項した形になる。Nokiaの市場が縮小している例から見られるように、中低価格帯スマートフォン市場に関しては、これらインドメーカーがグローバルメーカーの強力な競合となりつつある。

インドのメーカーの多くは創業3年以内で、低価格のエントリーレベル機種が中心ではあるが、デュアルSIMカード対応やFMラジオを搭載する等インド市場向けに機能をカスタマイズしたスマートフォンを提供している(参考資料)。

例えば、Micromaxは、若者市場に的を絞ったタッチスクリーン式の低価格スマートフォンを提供している。2010年から提供されているX505 PSYCHは音楽好きのユーザー向けのスマートフォンで、米国の音楽専門放送局であるMTVのコンテンツをプリロードしてある。フルタッチスクリーンを備え6250ルピー(1ルピー1.8円換算で約1万円)で提供されている(参考資料)。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。