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テレノールCEO、「ニーズはあれど、LTEは道半ば」

2011.02.16

Updated by Tatsuya Kurosaka on February 16, 2011, 19:50 pm UTC

MWC2日目午後に開催された、テレノール(telenor)のプレス及びアナリスト向けミーティングに参加し、ジョン・バクサスCEOにインタビューした。日本ではあまり馴染みのない北欧の通信事業者だが、アジアを中心にグローバルなサービス展開を進め、契約者ベースで2億弱と世界第6位の規模を誇る「巨人」の一人である。

また世界に先駆けてLTEのサービスインを進めたり、今年のMWCでは日産リーフへの搭載が決まったEV専用ICTシステムの開発を、日産、AT&T、NTTドコモと共に進め、2011年グローバルモバイル賞の「自動車・輸送部門ベストモバイルイノベーション賞」を受賞するなど、IoT(Internet of Things)の世界でも活発な取り組みを誇る。

今回は、同社がすでにアジア地域で進めているモバイル・フィナンシャル・サービス(MFS)を題材にしたボストン・コンサルティング・グループ(BCG)による分析の発表が行われ、その後個別に同社のLTE戦略等を聞くことができた。MFSといえば日本でも三菱東京UFJ銀行とKDDIが進める「じぶん銀行」が具体例として挙げられるが、先進国のみならず新興国でも注目を集めるサービスとなっている。

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【MFSの意義】
金融サービスは経済成長の礎であり、ドライバーである。お金のやりとり(貯蓄、送金、ローン等)は近代社会の大前提であり、これが利用できるか否かは、経済社会全体に大きな差異を生み出す。

一方、世界には25億人の"unbanked people"、すなわち銀行サービスを受けられない人たちが存在する。こうした人々は銀行サービスを求めているが、銀行側がそれに応えられないというミスマッチが、互いを不幸にしている。MFSはこうした不調和を解消し、社会の発展に資する。

BCGによる、新興国(パキスタン、インド、バングラデシュ、セルビア、マレーシア)での予測によれば、MFSによって2020年時点で5-20%程度の"unbanked people"の解消が見込まれている。逆に言えばそこに大きな市場機会が広がっているということであり、成長市場と言えるだろう。

【モバイルであることの意味】
移動体通信事業者には、MFSの実現に向けて、以下のアドバンテージがある。

1. すべての人々をターゲットにできる
2. すでに携帯電話という「セキュリティが確保されたデバイス」を顧客が保持している
3. すでに顧客とのリレーションを持っている
4. ブランド力がある
5. 広域分散のネットワークを有している

これらはいずれも既存の銀行サービスでは獲得しきれない利点であり、MFSが今後大きく発展するであろう理由である。

またMFSはデジタル・ネットワークという特性上、災害にも強い。たとえばパキスタンやバングラデシュは度々自然災害に見舞われているが、こうした状況下でも銀行サービスを継続したり、また寄付等を募り、配布することができる。

【MFS発展の鍵】
MFSが発展を続けるには、以下の課題がある。

1. 規制改革
2. ビジネスモデル開発
3. ネットワークの構築・発達
4. 顧客の教育・啓蒙

またこの他に、各地域ごとの個別要素があり、たとえばインドにおける発展に向けては、ブランディング強化、取引量の増加、そしてそれによる顧客ベースの寡占に向けた獲得が、他の市場に比べて重視すべきポイントとなる。

【通信事業者がMFSに参入する意味】
テレノールのビジネスモデルは、取引手数料のレベニューシェアである。ただそうした直接的な利益もさることながら、解約(チャーン)の抑止や、通信サービスのディストリビューターに向けた新たな販路や商機の提供、といったマーケティング効果が大きい。

またMFSのこうした考え方は、BI(ビジネス・インテリジェンス)やmHealth(モバイルによるヘルスケア・サービス)にも敷衍可能である。すでにいずれもサービスに着手しており、パキスタンにおけるmHealthの取り組みは世界的にも評価されている。

【データトラフィックの爆発】
iPadに代表されるタブレットPCの発展や、リッチコンテンツ・サービスの台頭に伴い、データトラフィックの爆発は、他の通信事業者と同様、テレノールにおいても大きな経営課題である。特に我々は、キャナル・デジタルのような映像配信サービスにおいても大きな役割を担っており、NetFlixのようなオン・ディマンド映像配信の台頭は他人事ではない。

分析によれば、こうしたデータ通信を猛烈に利用するユーザは、現時点では30代の男性となっている。しかし今後Androidのキャッチアップ等で市場にスマートフォンやタブレットPCが溢れれば、特定セグメントではなくすぐさま市場全体のトレンドとなるだろう。すでに2010年のQ1では38クローネだったデータARPUが、同年のQ4では49クローネまで上昇している。

将来的には、2011年時点で5ペタバイト程度を見込まれる総トラフィックが、2015年時点で50ペタバイトと、向こう4年で10倍の成長を遂げると見込んでいる。実はこの数値は少し前に推計したものだが、直近のトレンドを踏まえれば、正直少し保守的に見過ぎている気がしていて、もっと劇的な成長を遂げるかもしれない。

【3G/4Gの現状】
こうした中、すでに我々はノルウェーとスウェーデンでLTEサービスを開始している。データトラフィックのニーズ拡大はスウェーデンの方が強烈で、スウェーデン向けへの設備投資を現状は強化している。

ただLTEは現状のトラフィック爆発をすぐに解決するものではない。現在のトラフィック爆発の中核であるスマートフォンやタブレットPCの多くは、残念ながらLTEに対応していない。この市場のミスマッチは今年から来年にかけて解決されるものと思っているが、たとえば今年のMWCでの発表を見ても、HTCがLTE対応端末を大々的に出しているというわけでもなく、通信事業者としては悩ましいところだ。

そのため我々は、ステップ・バイ・ステップのアプローチが正当だと考えている。すなわち、コアネットワークの強化、トラフィック・マネジメントの洗練化とそれに伴うサービス開発の迅速化、バックホール回線の増強等、無線通信規格の多様化とマイグレーションに耐えられるような備えを進めている。

また3Gもまだまだ有効である。20MHzの帯域幅の環境下で、最大でHSPAが42Mbpsまで計測できている。こうした観点を踏まえ、今年は3Gとバックエンドの強化に努めるつもりだ。特に基地局の増強という意味では、今年中に北欧のすべての基地局が3G対応を終える。LTEはその後、おそらく2012年半ば頃から本格化させることになろう。

【LTEの課題】
やはりエコシステムがまだ十分でないことに尽きる。端末も揃っていなければ、基地局の価格も率直に高い。世界中が「誰が牽引するのか」を見守っているが、今回は欧州ではなく米国が牽引車の役割を担うのだろう。

また音声サービスの移行をどのように進めるかも、悩ましい問題である。データ通信を猛烈に利用するユーザは、音声サービスも活発に使う傾向があるようで、手を抜くことはできない。LTEの技術的課題である音声サービスの対応も、skypeのようなサービスも含め、VoLTEがどの程度有効かを見極めなければならない。

LTEへの移行の中で、他の通信規格とも共存しなければならない。そのため、VLANのようなIPレイヤーでのオーバーレイ技術が重要になるだろう。こうした技術開発を今後も進めていくつもりだ。

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クロサカタツヤ(くろさか・たつや)

株式会社企(くわだて)代表。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)在学中からインターネットビジネスの企画設計を手がける。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティング、次世代技術推進、国内外の政策調査・推進プロジェクトに従事。2007年1月に独立し、戦略立案・事業設計を中心としたコンサルティングや、経営戦略・資本政策・ M&Aなどのアドバイス、また政府系プロジェクトの支援等を提供している。