WirelessWire News Technology to implement the future

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国内で「2011年3月末80万契約」の目標を達成し、まもなく100万契約に到達しようかという勢いで急成長しているモバイルWiMAX。その後継規格であり、ITUが選定した4G規格の一つである「WiMAX2」の技術的特徴や適用する技術要素について、UQコミュニケーションズ 技術部門副部門長 兼 ネットワーク技術部長の要海 敏和氏に、解説のご寄稿をいただいた。(1)WiMAX2の概要 (2)主要な技術 (3)マイグレーションと将来の展望 の3回に分けて掲載する。

現在の『WiMAX』(world interoperability for microwave access)は、モバイル・ブロードバンド通信を実現する無線通信技術として、携帯できるB5版以下のノートPC(モバイルPCという)や、パッド型やスマートフォン型のモバイル情報端末などに、ADSLを超える通信速度で、移動しながらインターネット通信を提供するものである。

当該無線技術は、2005年にIEEE(Institute of Electrical and Electronic Engineers: 米国電気電子学会)で制定されたIEEE802.16e-2005(現在の最新バージョンは、IEEE802.16-2009)と、通信産業界の任意団体であるWiMAXフォーラムが国際標準として制定したWiMAX System Profile Release 1に準拠し、米国、ロシア、韓国など世界24カ国以上、140以上の通信事業者によってサービスが提供されている。

日本では、2.5GHz帯の周波数にWiMAXを適用して、UQコミュニケーションズがシステム通信速度に下り最大40Mbps、上り最大10Mbpsのブロードバンド通信サービスを2009年から提供している。

『WiMAX2』は、このWiMAXを拡張した新たな国際規格として、IEEEが従来の標準規格を802.16m標準として機能拡張を行い、WiMAXフォーラムがWiMAX System Profile Release2(通称、WiMAX2)として標準化を進める次世代無線通信技術である。

WiMAX2では、下り最大330Mbps(40MHz帯域で4x4MIMOを適用する場合)などFTTH光通信を凌駕する通信速度を実現する。また、350km/hの速度での移動中の通信を可能とする(既存WiMAXでは、120km/hが設計値)など、通信性能の向上が図られた方式である。

この技術拡張は、現在IMT-Advanced(いわゆる第4世代移動通信システム)として、ITU-R(International Telecommunication Union Radio communications Sector: 国際電気通信連合 無線通信部門)が2012年に勧告化を目指している通信技術の要求条件を満たす技術候補として検討が進められている。

標準化スケジュールは、IEEE802.16m最終ドラフト[1]が2011年1月に完成し、2011年3月末に標準ドキュメントの発行を予定している。またWiMAX フォーラムにおけるWiMAX2の標準化は、System Profile Release 2.0が2011年1月にほぼ完成し、その他必要なドキュメント類を2011年末までに整備する予定となっており、認証プログラムは2012年前半の開始をターゲットに検討が進められている。これを受けて、WiMAX2システム開発も通信機器ベンダーや通信事業者によって進められ、2012年後半には実用化を可能とするタイムフレームで準備が進められている。

▼図1 WiMAX2標準化、実用化 想定スケジュール(※クリックして拡大)
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WiMAX2の特徴

●高速大容量の拡大(周波数利用効率拡大)

WiMAX2の最大の特徴は、FTTH光通信を凌駕する高速な通信速度の向上にある。これらは後述する様々な機能拡張により、既存WiMAXに比べて大幅なスループット向上及び周波数有効効率の改善を実現する。表1に既存WiMAXとWiMAX2の比較を示す。最大ユーザスループットは下りで約5倍、上りで約8倍の向上が期待でき、また最大周波数利用効率は、下りで約2.5倍、上りで3.4倍の改善を見込んでいる。具体的な拡張機能を以下に列挙する。

  • マルチキャリアを含む周波数バンドの拡張
  • MIMO技術の拡張
  • 電力制御技術の拡張
  • FFRを含む干渉軽減の拡張技術及びBS間協調
  • 上下コントロールチャネルデザインの変更
    • オーバヘッド削減
    • 電力増幅とチャネルコーディングの最適化
    • コントロールメッセージへのHARQ適用

▼表1 既存WiMAX(16e)とWiMAX2(16m)の比較
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●伝送遅延の短縮

次にWiMAX2の特徴として伝送遅延の短縮化を掲げたい。WiMAX2ではフレーム構造の見直しを図ることで、伝送遅延の短縮化を実現する。

既存のWiMAXの場合、1フレームを5m秒で構成し、上下比率で時分割して送受信の多重を行う。このため、送受信周期は最低でも5m秒必要であったが、WiMAX2の場合、5m秒で1フレームを構成する点は共通としつつ、内部を8分割(サブフレーム化)し、サブフレーム単位でデータ割当てを行う事で送受信周期の大幅な短縮を図った。

遅延時間の短縮を具現化するHARQ(Hybrid ARQ)操作の時間短縮の例として、図2に下りリンクのHARQの送受信タイミング例を、図3に上りリンクのHARQの送受信タイミング例を示す。

図示するようにフレーム構成を見直すことで、HARQ再送手順が最短2フレーム(10m秒)で完了させることが可能となり、伝送遅延の短縮を図る事に加えTCPなどフロー制御を行うプロトコルに対してスループット向上にも貢献する。

▼図2 下りHARQ送受信タイミング例
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▼図3 上りHARQ送受信タイミング例
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なおIMT-Advanced提案[2]では、以下の値が提案されている。

  • Control plane latency 81m秒以下
  • User plane latency 7.32m秒(TDDの場合)

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●マルチキャリア対応

図4に示すように、WiMAX2対応の端末(AMS:Advanced Mobile Station)では、N波の連続または非連続キャリアを束ねてマルチキャリア運用することを可能とした。マルチキャリア対応は、多くの無線リソースを1端末で扱うことで、無線リソースの割り当てを制御するスケジューラの効率を高めることでスループットの向上に貢献する。また、後述する端末カテゴリへの柔軟な対応を可能とする。

▼図4 マルチキャリア運用時のフレームストラクチャ例
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●多様な端末カテゴリの設定

更に、高速なデータを扱うハイエンド端末から、テレメトリングや通信モジュールなど低速・中速なデータを扱う端末など、多彩なサービスに最適化したコスト効率・利用効率の高い端末を実現するため、WiMAX2に対して、WiMAXフォーラムでは多様な端末カテゴリを規定した。これらは、キャリアアグリゲーション/MIMO構成/端末機能に応じた最大スループット制限/マルチキャリアサポート種別により、9種類が規定される。表2にWiMAX フォーラムで検討されている端末カテゴリを示す。

▼表2 WiMAX2端末カテゴリ(案)
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●端末省電力の促進(Sleep Mode及びIdle Mode改良)

従来から端末バッテリーの省電力化のために採用されているSleep Mode 及びIdle Modeに以下のような改良を加え、更に電力効率の改善を図っている。

  • Sleep Mode
    16eのSleep Modeに対して、Sleep window及びListening windowの間隔をトラヒック変化及びHARQ運用状況に応じて動的に変更する機能を追加し、省電力化の効率を向上させる。
  • Idle Mode
    Idle Modeに移行中に、当該端末のセッション情報を特定のABSに登録することなく、ページング情報等の下りブロードキャストメッセージを定期的に受信可能とする事で動作を可能とする改善している。

●高速移動対応

下記機能見直しまたは修正により、最大350km/hまでの高速移動に対応しており、例えば新幹線内でのWiMAX2利用も可能となる。

  • フレームストラクチャ見直しによる最小TTI(Transmission Time Interval)の短縮化
  • パイロット配置見直しにより高速移動時のパイロット推定の向上
  • ハンドオーバ時間の短縮化

参考文献
[1] IEEE P802.16m/D11
[2] Acknowledgement of candidate submission from IEEE under Step3 of the IMT-Advanced process (IEEE technology)

 
文・要海 敏和(UQコミュニケーションズ株式会社 技術副部門長 兼 ネットワーク技術部長)

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