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ギルドハウスの外観と住人と旅人

ゲストハウスやシェアハウスより「住み開き」。限界集落にある「ギルドハウス十日町」に、3年間で6700人が集まった理由

2018.05.29

Updated by SAGOJO on May 29, 2018, 11:18 am JST

▼ギルドハウスの外観と住人と旅人
ギルドハウスの外観と住人と旅人

より持続可能な暮らし方とは何か。長くIT業界で仕事をしていた西村治久さんが、考え抜いた先にたどり着いたのは、昔ながらの暮らし方だった。

西村さんは、2015年に新潟県十日町市で古民家を改装し、「ギルドハウス十日町」という住まいを構えた。十日町市津池集落は人口9人の限界集落だったが、今では国内だけでなく海外も合わせて、のべ6700人以上が訪れる場となっている。

ギルドハウス十日町が成功した秘訣は「こんな社会を目指す」といった志があったわけではなく、本質を見つめ「死ぬまで楽しく暮らす」という思いを貫いた先にあった――。

古民家に「住み開き」の概念を持たせる

西村さんは2018年現在、46歳。大学卒業後、IT企業の会社員として働いていたが、40歳という節目を迎えるときに、これからの働き方をどうするか模索し始めたという。そこで、新しい働き方をテーマに、全国のコワーキングスペースを転々として旅を繰り返した。

旅先で様々な価値観を持った人と出会ったことによって、自分が目指すところは「死ぬまで楽しく暮らしていける場づくり」ということに気付く。自身の生き方、暮らし方を見つめ直していく過程で、場づくりの視点が生まれ、空き家を探し始めるに至った。

「人が集まる場のためにゲストハウスやシェアハウスを作るという考え方もあるかもしれませんが、私の場合、あくまで自分が死ぬまで楽しく暮らすという目的だったので。ゲストハウスやシェアハウスにしてしまうと、ベースが事業となってしまいますね。住まいと全然違います。どちらが良い悪いではなくて、あくまで『住まい』にしたいという考え方でした。

自宅に住みながら、お金を介さずに様々な人が訪れて、価値観を交換して息抜きする。みんなで『いただきます』と言いながら、家族のように食卓を囲んでご飯を食べたり…。こうした広がりは、住まいじゃないとできないと考えました」

▼ギルドハウスの前に立つ西村さん
ギルドハウスの前に立つ西村さん

旅を続ける中でたどり着いた限界集落、古民家には昔ながらの生活や暮らしが既にあり、西村さんなりのやり方で、新しい場づくりに挑戦できると思ったそう。

そこで、西村さんが実践したのは、古民家に「住み開き(すみびらき)」という概念を持たせること。自分の住まいを開放することで誰もが出入り可能で、かつ利用者みんなで必要な維持費を分担するというシンプルな設計。完成したのがギルドハウス十日町だ。

「地域」と「人」がつながる導線を作る

住み開きの概念とともに、西村さんが実践したのは「細かいコンセプトづくり」である。

コンセプト作りに当たって心がけるのは「1から10まで全てを用意するのではなく、最初の“1の部分だけ”を綿密に構想して、2~10の部分を余白として残す」のだという。

例えば、名前に「ギルド」という言葉をつけることで、若い世代とりわけゲーム世代は身近に感じ、遊びに行っていいんだなと思ってくれるようになる。床の間には本棚を設置することで上座や下座といった概念が取り払われ、フラットな雰囲気が生まれる。茶の間のテーブルの天板は、丸くすることで会社の会議室とは違う関係性とした。

出入りする人々の間で自然にコミュニケーションが始まる場へのこだわりが、こまごまと盛り込まれている。こうして作られたこの場所を気に入ってくれた人は、必然的にギルドハウス十日町を宣伝してくれるようになるため、情報発信は積極的に取り組んでいないという。

また、西村さん自身が開発した「まちかどギルド」というアプリも特徴的だ。まちかどギルドとは、ご近所さんの用事(クエスト)を頼みたい人とお手伝いをしたい人をつなげていくサービスである。ギルドハウス十日町周辺のクエストを通して、ギルドハウス十日町にやってきた人のみならず、旅人と地域の人もつながることができる。クエストの内容は、庭の草取りや雪かき、1日限りのアルバイトなど、多岐にわたっているそう。

▼クエストで近所の農園で田んぼの草取りをお手伝い
クエストで近所の農園で田んぼの草取りをお手伝いする旅人

ここまで挙げた取り組みが西村さんの作る「1」の部分だ。仕掛けの一つひとつに「地域(場)と人がつながる」動線を意識すると、必然的に予想だにしないことがうまれる。行き来する人たちから生まれる新しい展開が、西村さんの想像を超えた「2~10」となる。

西村さんは「イベントは、ただのお祭り。イベントで知り合った人同士が、いかに日常の中で新しい展開を見出せるようにするかに重きをおいています」と語った。

都会と田舎どちらにも「親戚づくり」ができる仕掛け

2018年5月、ギルドハウス十日町は立ち上げて3年を迎えた。自身の暮らしを「ソーシャルな隠居」と表現する西村さんの視線は、いかに持続可能な暮らしができるかに軸足を置いて物事をとらえつつも、さらに未来志向で次の仕掛けを日々構想している。

開始当初は、外部から「人」「もの」「コト」を迎え入れることが多かったギルドハウス十日町だが、他の地域との関係性づくりにも視点を広げつつあるという。

ギルドハウスは現在、長野と山形、群馬で建設の準備中だ。西村さんの暮らし方に共感をおぼえた仲間たちが、あちこちで場を作り、それぞれがまたつながっていく。

そのイメージは「親戚づくり」。過去にギルドハウスで暮らしを営んだ人たちが、方々で場所を作り行き来を重ねる。広義の親戚づくりだと、西村さんはとらえている。

最近は「アルトバウ」というプロジェクトも始動。都心部に暮らす人が家の中で使用していない部屋の一室に、ギルドハウス十日町の住人が訪ねていく。こちらが目指すのは「田舎と都会の交流」だ。“お土産を持って「お世話になります」”で始まる親戚のような付き合い。個人の体験知として田舎と都会のバランス感覚を養い、住まいをつなげていくイメージだ。

西村さん自身が、各地で刺激を受けながら旅をしてギルドハウス十日町を作ったように、ギルドハウス十日町に訪れた人たちが刺激を受け、新しい何かを生み出してほしいという。「都会と田舎どちらにも親戚の家ができることをきっかけに、どんどん個人の可能性を広げてほしい。その過程を温かく見守りながら、自分は自分で楽しく暮らします」と西村さん。

▼新年の書き初めをする西村さん
新年の書き初めをする西村さん

分散化する社会だからこそできる、「死ぬまで楽しく暮らす」方法

西村さんは、とりわけ「こうあるべき」という理想の社会像を持っていないという。また理想の社会像に対して、直接働きかけようという思いもない。

「1つだけ言えるのは、様々なことが分散化してきていることです。これまでは銀行の窓口でしかできなかったことがインターネットで簡単にできたり、HPやTwitterを通して気軽に情報発信ができたり。個人の権限が拡張されてきているように思います。

こうした分散化された権限をどのようにフル活用するか。フル活用できれば、山奥や限界集落に暮らしていたとしても、自分の人生を楽しくしていくことができると思います」

自分の人生を楽しくしていく個人同士が新たな関係性を築き、次の展開を生んでいく。その中の一つには、物々交換的な世界もあるかもしれない。そのような目に見える世の中の変化は、あくまでも表層的なものという。西村さんが興味を持つのは「なぜそうなっているのか」という本質の部分のみだ。ギルドハウス十日町に盛り込んだ導線づくりは、今日も着々と更新され続けている。「死ぬまで楽しく暮らせること」を目指して――。

(執筆:須田恵)

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プロフェッショナルなスキルを持つ旅人のプラットフォームSAGOJOのライターが、現地取材をもとに現地住民が見落としている、ソトモノだからこそわかる現地の魅力・課題を掘り起こします。