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モバイルクラウドが通信事業者の新たな収益源を拓く──テレコムサービスの資産をクラウド時代に活かすには

2011.06.24

Updated by WirelessWire News編集部 on June 24, 2011, 12:00 pm JST Sponsored by NOKIA

スマートフォンの爆発的な普及とタブレット端末の利用拡大は世界的に大きな潮流になっている。こうした中で、スマートフォンやタブレット端末が、ネットワークを介して様々なサービスを利用するようになってきた。その1つの形態が、スマートフォンやタブレット端末がモバイルネットワークを介してクラウドサービスを活用する「モバイルクラウド」である。

クラウドサービスは、すでに巨大企業からベンチャー企業まで多くの企業が各種のサービスを提供している。それでは、モバイルネットワークを提供する通信事業者は、これからさらに大きな潮流になる可能性を持つモバイルクラウドに、どのように取り組んでいったらいいのだろうか。

ここで、1つ重要な指摘がある。ノキア シーメンス ネットワークスで、ビジネスベンチャーのヘッドを務めるアミール・ラハト氏は、「通信事業者がクラウドに取り組む際に重要なことは、加入者からどうやって収益を上げるかの視点だろう。クラウドの使い方は、その目的を達するためと考えなければならない」と語る。やみくもにサービス競争に手を染めても、効率は必ずしも上がらない。収益性を上げるという根本を見据えて、通信事業者のモバイルクラウドの考え方を整理する必要があるというのだ。

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Amir Lahat(アミール・ラハト)氏
ノキア シーメンス ネットワークス ビジネスベンチャー ヘッド
会社の内部インキュベーションプログラムおよび 社外のベンチャー活動を率いて、ノキアシーメンスネットのビジネスドメイン拡大の役割を担う。1990年代から3Com/NiceComとNortel/Telradで、システムエンジニアリングチームリーダー、システムアーキテクト、ビジネス開発ディレクターなどを歴任し、オペレーション上のバックグラウンドは通信/モバイル、データ通信、メディア産業に及ぶ。テルアビブ大学でエンジニアリング学士号とMBAを取得後、Atrica社を共同で設立、その後Dyynoを設立。2008年、ノキア シーメンス ネットワークスのAtrica社買収により現職に就く。2005年からスタンフォード大学で研究を継続しており、現在はシリコンバレーを拠点にモバイルクラウドドメイン及びM2Mソリューションの実現に注力している。

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通信事業者のクラウドが提供する「価値」

スマートフォンやタブレット端末には様々なアプリケーションが載っている。その内訳についてラハト氏は「多くはグーグルやアップルなどのプロバイダーが提供するもので、通信事業者が提供するアプリケーションは1つか2つに限られているのが現状だ」という。こうした状況の中で、通信事業者はエンドユーザーに対して、自らの重要性を高めていかなければ、新しい収益機会を得ることができない。通信事業者は新しい価値を付加したクラウドサービスを提供することで、エンドユーザーへの存在感を高められるというわけだ。

ここでクラウドに目を向けると、2つの種類に分類できるとラハト氏は説明する。

▼図1:2つのクラウドの違い--一般の「パブリックインターネットクラウド」と通信事業者が提供する「サービスプロバイダークラウド」では、提供できる機能に違いがある(※画像をクリックして拡大)
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1つは"パブリックインターネットクラウド"で、グーグルやアマゾンが提供するサービスがそれに当たる。そこにはたくさんのイノベーションがあり、スピードがある」。エンドユーザーがクラウドを活用して多くのアプリケーションを利用できるのは、こうしたパブリックインターネットクラウドがいち早く整備され、モバイルネットワークを介しても使えるようになっているからである。

ただし、パブリックインターネットクラウドが提供するサービスには問題もあるという。「サービスの品質を保証するSLA(Service Level Agreement)が必ずしも得られないこと、課金の複雑なメカニズムに対応しにくいことなどが挙げられる。また国によっては国外にデータを持ち出してはいけないという規制もあり、データがどこに存在するのかわからないパブリックインターネットクラウドが活用できないケースもある」(ラハト氏)。

分類のもう1つは、"サービスプロバイダークラウド"である。これは通信事業者が提供するクラウドサービスだ。ここが、本論の議論の中心になる。ラハト氏は「まず、携帯電話事業者などの通信事業者は、自社でネットワークを持っていることから、そのネットワーク資産の中でサービスを提供できることがポイントになる。QoS(Quality of Service)やエンドツーエンドのセキュリティも、自社ネットワークであれば担保できる。また、通信事業者は課金のシステムを持っているため、データ通信の仕組みの延長線上でサービスへの課金も行える」と、そのメリットを説明する。

さらに、ユーザープロファイル、ボイス、メッセージングなど通信事業者が提供してきた既存サービスを、クラウドで提供するアプリケーションと合わせて価値を高めていくことができる。また、パブリックなインターネットクラウドで提供されているサービスと、通信事業者ならではの機能を融合させた、新しいアプリケーションを作ることも可能だ。要するに、「通信事業者は現状で持っているネットワークや通信サービス、アプリケーションなどの多くの資産を活用して、クラウドにより新しい価値を提供できる。それにより新しい収益が得られるようになる」(ラハト氏)と言う。

新しい付加価値を生み出す通信事業者のサービスプロバイダークラウド。しかし、その成功への道程は平坦ではない。ラハト氏はこう言う。「サービスプロバイダークラウドの仕組みから得られるビジネスが、まだマーケットで実証されていない点が懸念材料になる」。それでは通信事業者がクラウドに乗り出すにはどのようなことが必要になってくるのだろうか。

通信事業者がクラウドに向かう理由

「すでに、さまざまな通信事業者がクラウドに投資すると発表している。AT&T、チャイナモバイル、ベライゾン、ボーダフォンなど歴々たる企業だ。なぜクラウドに目を向けるのか。その理由は2つある」とラハト氏は言う。

1つは、すでに紹介したように新しい収益機会を得ることである。もう1つ、IPで運用しているネットワークの利用効率を上げることである。これらの理由から、多くの通信事業者がクラウドに目を向けていると分析する。

こうした状況で、ノキア シーメンス ネットワークスは通信事業者のクラウド構築に対して大きな価値を提供できる立場にあるとラハト氏は語る。それには3つの側面がある。「1つ目は、通信事業者が効率性を上げたり新しい収益機会を得たりするための手助けができること。2つ目は、テレコム向けに作られている各種のプラットフォームをサービスとして提供する、"テレコムプラットフォーム as a サービス"とも言える形態で、ユニークな価値を通信事業者に提供する」(ラハト氏)。

そして3つ目の側面は、ノキア シーメンス ネットワークスが、IBMやヒューレット・パッカード、オラクルといったIT企業とは異なるということだと言う。ネットワークシステムや課金システム、請求システムを通信事業者に提供している通信機器メーカーだからこそ、IT企業とは異なる価値を持ったクラウドを通信事業者に提供できると言うのだ。

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レイヤー構成で通信事業者にソリューションを提供

通信事業者がサービスプロバイダークラウドを構築するときに考えるべきシステムのアーキテクチャを示す。図2のようにレイヤーで切り分けたアーキテクチャである。これはノキア シーメンス ネットワークスがこの1年〜1年半で通信事業者との間で議論を詰めてきた成果だと言う。

▼図2:サービスプロバイダークラウドのアーキテクチャ--サービスはレイヤーに切り分けて構成した上で、マネジメント機能が垂直方向にすべてを統合する(※画像をクリックして拡大)
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アーキテクチャでは一番下に位置する「グレー」の部分が、物理的なネットワークを指す。ここには、固定網やモバイル通信のネットワークが含まれる。その上に3つのレイヤーが乗っている。「黄色=インフラ」「オレンジ=プラットフォーム」「紫=アプリケーション」で、これは通信事業者がこれまでに持っている既存のレイヤーを示している。

インフラのレイヤーはすなわちIaaS(Infrastructure as a Service)で、サーバーやストレージ、ソフトウエアをバーチャル化したものが含まれる。次のプラットフォームはPaaS(Platform as a Service)で、リソースマネジメント、セキュリティ、デバイスマネジメント、そのほかのアプリケーションに関連したインタフェースを含む。

アプリケーションのレイヤーは、さらに4つのグループに分けて考えている。そのうちの1つは、「テレコムアプリケーション」。これは、通信事業者が自ら使うアプリケーションで、課金や位置情報、メッセージングなどのテレコムサービスの基幹となるものである。アプリケーションレイヤーに含まれるその他の3つの分類は、ユーザーが使うアプリケーションである。それぞれ「エンタープライズアプリケーション」「コンシューマアプリケーション」「M2Mアプリケーション」となる。

次に各レイヤーを縦断する要素を確認する。その1つが管理機能で、図Bの一番右側に示した紫のボックスが、このクラウドアーキテクチャのすべてのレイヤーを管理するマネジメントの機能になる。レイヤー個別でなく、すべてのマネジメントをエンドツーエンドで実現できる。「エンドツーエンド クラウド&ネットワーク サービスマネジメント」と名付けている。

左側の紫のボックスはノキア シーメンス ネットワークスが提供するサービスを示す。これまで、ノキア シーメンス ネットワークスは、通信事業者がネットワークを運営したり実装するのを手助けしてきた。これと同じように、クラウドのサービス提供でも運営や実装を手助けしていくことになる。

全体のアーキテクチャが見えてきたところで、このアーキテクチャによるクラウドサービスの本質を見ていく。ラハト氏は、「テレコムのアプリケーションを提供する部分では、オペレーションコストを下げて効率化を進める。一方、エンタープライズとコンシューマ、M2Mのエンドユーザー向けの3つのアプリケーションで収益を上げる」と語る。要素技術はレイヤーごとに切り分けてフラットなシステムを作るが、ビジネスとしては縦割りのそれぞれのアプリケーションの役割を明確にする考え方である。このアーキテクチャこそが、クラウドサービスを新しい収益源とするための基本構造となっているというわけだ。

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それでは、ここからは通信事業者が提供するクラウドサービスのための具体的なソリューションを見ていこう。前述したアーキテクチャの中に、どういった具体的要素が含まれるのかを示したのが図3である。

▼図3:クラウドサービスの提供に必要なソリューション--ノキア シーメンス ネットワークスは、レイヤーごとにソリューションやツールを提供して、通信事業者のクラウド構築をサポートする(※画像をクリックして拡大)
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まず、黄色で示したIaaSのボックスには、サービスプロバイダークラウドと、パブリックインターネットクラウドのインフラがあり、サービスやアプリケーションによって使い分けることができる。そのうち、サービス提供のインフラとして通信事業者がサービスプロバイダークラウドを構築するときは、ノキア シーメンス ネットワークスがその構築の手助けをする。

次にオレンジの部分が、テレコムのPaaSを示しており、アーキテクチャの鍵となるソフトウエア製品が含まれている。通信事業者が持つテレコムプラットフォームの資産を使って、新しいアプリケーションを構築するときに利用するものである。そのベースとなるのが、ノキア シーメンス ネットワークスが提供する「Telcom Asset Marketplace(TAM)」と呼ぶプラットフォームで、上位レイヤーに位置する各種サービスの提供基盤となる。この上に、エンタープライズサービスやM2Mサービスには専用のプラットフォームをさらに重ねる。

最も上位に位置するのが紫で示したSaaSのレイヤーになる。通信事業者が使うアプリケーションだけでなく、エンドユーザー向けに提供するアプリケーションもこのレイヤーに含まれる。テレコムPaaSが提供するプラットフォームの上で、各種のアプリケーションを開発できる点がレイヤー構成を採用していることのメリットになる。これは、アプリケーションを誰でも開発できることにつながる。ノキア シーメンス ネットワークスや、サービスを提供する通信事業者、さらにはサードパーティーまでもが、通信事業者のインフラやプラットフォームを活用したアプリケーションを開発できる。「テレコムPaaSはテレコムの資産、すなわち課金や位置情報、メッセージングといったサービスへのアクセスを可能にするので、これらのテレコム機能を組み合わせたアプリケーションが容易に作れる」(ラハト氏)のである。

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テレコム機能と融合した新しいサービスの活用

ここからは、ノキア シーメンス ネットワークスのプラットフォームやサービスを活用した通信事業者のクラウドサービス構築の事例を見ていこう。

まず、ヨーロッパの大手通信事業者が、エンタープライズアプリケーションを実装した事例である。企業向けのアプリケーションストアの構築に、ノキア シーメンス ネットワークスが協力した。この事例では「利用する企業は通信事業者のポータルを使ってアプリケーションストアにアクセスするため、SLAも保証され課金も問題なくできる」とラハト氏は説明する。

次に、コンシューマソリューションの事例を紹介する。開発者が通信事業者の資産を使ってアプリケーションを作れるソリューションで、インドネシアのIndosatの事例である。すでにIndosatが導入したこのソリューションを使って、インドネシアのサードパーティーの開発会社がアプリケーションを開発している。ロケーションや課金、メッセージングなどを使ったアプリケーションを容易に作ることができる。

また、クウェートの通信事業者であるZainの事例で、サービスを提供するエンドユーザー企業がZainのプラットフォームを使ってサービスを開発しているケースもある。「Zainの事例では、ノキア シーメンス ネットワークスが提供するロケーションベースのサービスを使うことで、エンドユーザー企業がアプリケーションを開発できるようになった。携帯電話の位置情報を利用して、あるお店の近くを通った顧客の携帯電話にクーポンを提供したり、近くにいる顧客にプロモーションしたりする」(ラハト氏)。こうした複雑なサービスをエンドユーザーの手で構築できるようになった。

このように、サービスプロバイダークラウドの世界が広がることで、通信事業者の資産を活用した新しいサービスやアプリケーションが続々と生まれてきている。ノキア シーメンス ネットワークスでは、こうした新しいソリューションを迅速にマーケットに提供する取り組みとして社内に「スタートアッププログラム」を用意した(図4)。このプログラムの成果として、クラウドのM2Mサービスの形態で、自動販売機や医療関連、エネルギー関連などのアイデアをプロトタイプ化している。

▼図4:新しいアイデアを具体化するための取り組み--多くのアイデアの中からプロトタイプにできるものを速やかに絞り込むことで、スピーディーなアプリケーション開発が可能になる(※画像をクリックして拡大)
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通信事業者は、これまでに蓄積した多くの資産を持っている。しかし、その資産をすぐに収益源とするような活用法を見出すのは難しい。クラウドサービスを使うことで、効率を上げて収益を高められるようになる。

通信事業者がクラウドサービスを開始するとき、ノキア シーメンス ネットワークスが提供する各種のプラットフォームやサービス、ソリューションを使うことで、迅速に適切なサービスを作り上げることが可能になる。ノキア シーメンス ネットワークスは、通信に関連するアプリケーションを世界中の10の通信事業者に対してすでに提供している。例えば、メッセージング、音声サービス、メディアゲートウエイなどをクラウドサービスとして通信事業者に提供することで、通信事業者はコストを低減することが可能になる。

クラウドサービスを活用したソリューションを上手に組み合わせることで、通信事業者は新しいサービスを低コストで作れるようになる。そして、エンドユーザーに高い価値を提供するとともに、収益を上げるという目的を達成できるのである。


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