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たかがテキスト、されどテキスト - 海外でのメッセージングサービスの現状

2011.06.17

Updated by WirelessWire News編集部 on June 17, 2011, 20:00 pm JST

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(cc) Image by Paul Sapiano

iOS 5に追加される予定の「iMessage」という新しい機能について先日記した際に、その影響を受けるであろうとされる通信事業者のメッセージングサービス("テキスティング")について触れたが、この話題についてもう少し掘り下げた記事を見つけたので、いくつか目を惹いた点を紹介する。

ちょうど一年前に掲載された、海部美知氏の記事(『世界のモバイル事情 - 北米編(6)米国のユーザー、SMS、そして未来』)にあるように、このテキスティングは米携帯通信キャリアにとって大切な「稼ぎ手」のひとつとなっている。

実は、マス・ベースでの米国のデータ(非音声)利用は、圧倒的に「テキスト・メッセージ(SMS)」が支えている。各キャリアともに、データ売上の詳細な内訳は発表していないが、各社のデータ売上の「かなりの部分」をSMSが占めていると推測される。

そして記事中のグラフが示す通り、ここ数年間は利用量が劇的に増加してきていた。ところがこの利用の伸びが、昨年後半には一桁台にとどまったという。"Carriers Sweat as Texting Cools Off"と題されたWall Street Journal(WSJ)の記事(データの出所は米業界団体のCTIA)には、この変化を占めるグラフが載っている。そのグラフをみると、2008年前半(リーマンショック前)がピークで前期(07年後半)から増加率が約80%を記録したあとは、だいたい60%、20%、10%、20%とつづき、そして昨年後半には10%を下回っている(記事中に8.7%とある)。

携帯通信事業者にとって特に重要なのは、このテキスティングが「ローコストで高利益」な事業である点で、粗利率については少なくとも80%程度になるとする投資銀行UBSの試算がでている。データ通信や音声通話の粗利率が約35%というから、テキスティングがいかに旨味の多いビジネスであるかがわかる。また先の記事に記したように、米携帯通信事業者のARPUに占めるテキスティングの売上は全体の11%、ユーザーひとりあたりの利益(EBITDA)では全体の20〜25%にもなるという。

もともとは音声通話用の回線を通じて文字データをやりとりするために考えられたテキスティング=SMSのビジネスが、最近のスマートフォン普及にともなうIPベース、アプリ経由の無料メッセージングサービスに押されているというこの流れ、今後はさらに顕著になる可能性が高い。iMessengerや、グーグルが開発しているとされる同様のアプリ以外にも、すでに通信キャリアの壁やプラットフォームの壁を越えて瞬時にメッセージを送りあえるアプリは複数存在している。代表的なのはIP電話サービスのSkypeだが、それ以外にも「Kik」や「WhatsApp」といったものがある。このWhatsAppについてはWSJの記事にひとつ興味深い例が紹介されている。

オランダのKPNという通信事業者では、同社の取り扱うAndroidスマートフォンユーザーの間で、WhatsAppの導入率が昨年8月の0%から今年4月にはなんと85%まで急上昇したという。ただし、これだけの急増を記録したその背景には、KPNの場合、それまで1メッセージ単位で料金を支払う契約をしていたユーザーが多くいたという理由があり、定額制で無制限に利用できる料金プランの契約者が多い米国の場合とはいささか事情が異なる、との指摘もある。また、ドイツテレコムのCEOは、こうした流れに関し、「だれもが最新の技術に飛びつくわけではなく、WhatsAppのような新しいアプリをだれもが使いたいと考えるわけでもない」と反論している。またベライゾンの場合も、スマートフォンユーザーのなかにも従来のメッセージング用料金プランを選択する加入者が高い割合で存在するとしている。

こうしたことを考え合わせると、スマートフォンベースの新たなメッセージングサービスが、ある日突然「ドル箱」事業である従来のテキスティングサービスを脅かしている、という可能性はそれほど高くはないかもしれない。むしろ移行はゆっくりと進んでいくとみたほうが妥当だろう。ただし、アップルやグーグルが写真やビデオも送れるメッセージングサービスの提供に本腰を入れて乗り出せば、増え続けるスマートフォン利用者の間でインターネット経由のメッセージングが主流になる可能性があるとWSJでは記しており、端末メーカーとの主導権争いを意識する立場の携帯通信事業者側にとっても、これが気がかりな問題であることはほぼ間違いない。

【参照情報】
Carriers Sweat as Texting Cools Off
RIM危うし?通信キャリアへの影響は? - アップル「iMessage」発表で浮上した懸念

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